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6話

 必死の抵抗を試みたが、敢え無く却下。現在私はジェイクの私室にお邪魔しております。

 耳元で囁かれた言葉、今の私にはレベルが高すぎて……


『明日帰るまで俺と一緒にいろ』


 どうなの、世の中の女性なら嬉しい言葉だろうけどさぁ。恋愛偏差値が驚くほど低空飛行な私にとっては、ほぼ拷問。

 ドキドキがすごすぎて、なんだか感覚がマヒしてきてる。

 さっきからドキドキピークを過ぎたみたくって、頭まで心臓が上がってきたみたいにグワングワンとこめかみが脈うってるようだ。ボーッとして、絶対顔が赤くなってるよ。何か体まで火照ってる感じだわ。


「……お前、何潤んだ目でこっち見るんだよ。俺まで照れるじゃ……ってニコル?」

「ジェイク〜、なんだか体がポッポッポッてしてて〜。辛いの〜」


 ジェイクは左手で自分の目を覆い、なるべく私の顔を見ないように見ないように、としてる。軽く深呼吸して「ふん」とひとつ頷くと、目隠ししたのと反対側の手で私のおデコと頬を順番に触っていく。冷たい手のひらが気持ち良くて、ついスリスリと縋り付いてしまう。


「こらっお前、俺を見るな……ダメだっ、にじり寄ってくるんじゃないっ。熱あるのはわかるが、誘ってるとしか思えん……ああ、もうっ」

「きゃあっ」


 お姫様抱っこされて強引にベッドへ運ばれる。やーん、ニコルちゃん、こんな状態なんですがぁ、貞操の危機〜。

 と思ってたら「ちょっと待ってろ」と部屋を出て行ってしまった。

 えーん、一人は嫌だぁ。感情まで揺れが激しくなっているのか、涙が出始めたらもう止まらない。


「うっぐ……ひっ……っく」


 すぐに戻ってきてくれたのだが、その少しの時間が私にはとても長く感じ、体を丸めて震えていた。心配して足早に近づき、小声で話しかけてくれる。


「何泣いてんだ。安心しろ、ずっと付いてるから」


 冷たいタオルを手に、側にきてくれたが、寂しさは消えない。ベッドの端に腰をかけた彼に抱きついて、その胸に顔を埋めた。

 ゆっくりと優しく頭を撫でてくれるその手のひらを、目を瞑って感じ、ようやく震えと涙が止まった。


「落ち着いたか?」


 たったそれだけのセリフだったが、耳元で囁かれるその声のトーンはリラックスするには充分だった。私はニッコリして小さく頷くと、今度こそ横になって寝かされた。


「今日はいろいろあったからな、熱も少ししたら下がるよ。元気のないニコルは、ニコルじゃないから。早く元気になって笑ってくれ」


 私はもう一度小さくコクンと頷いて「手は握ったままでいてくれる?」と聞いてみた。

 言われた当人は、ガクンと項垂れてベッドに突っ伏しながらブツブツと文句を言う。


「……ああ、わかった。全く……お前への罰だったはずなのに……何で俺が罰受けてるんだよ。生殺しもいいとこじゃねぇか」


 んーと。生殺しって意味がよくわからないんだけど……私がジェイクを困らせてるのかしら?


「何かごめんね、ジェイク。よくわからないけど、元気になったら埋め合わせするから」


 軽く目を見開いたジェイクは、私のおデコに手を当て「よろしく頼むよ」とクスクスと笑って言った。

 その優しい笑顔に安心して、ゆっくりと深い眠りに落ちていった。




 ******




「うーーん、すっごくいい目覚めね〜。サーラ、今日は何か予定あったかしら?」


 大きく伸びをして……ん? ベッドの左側が沈んでるのは……


「だっ……ジェっ? ジェイク? 何で?」

「……何で、じゃねえだろ。俺は寝てねぇんだよっ、ってかこの状態じゃ眠れるかってんだ……」


 おっそろしく不機嫌な顔で、やつれた感アリアリなジェイクさん、せっかくの朝なんですから、笑顔出しましょうよ。

 しかーし、目が座ってる……どうなの? マジで目が座ってるんですけどーーーーっ。


「なあニコル、元気になったら相手してくれるって話しだったよなぁ」


 完全に頭のネジが飛んじゃってる風な感じだし。これはマズい。羽交い締めしてめっちゃキスされるんかぁっ。

 も、もしかして、恋愛小説のすんごいヤツっぽいのに発展する状況かぁーーっ!


 あーーっ、にじり寄って来ないでーーっ。ニコルちゃん、朝からピーーンチ!


 コンコンっ。扉をノックする音だ。


「おはようございます、ジェイク様。朝食はこちらにお持ちしてもよろしいでしょうか?」


 礼儀正しい侍女の挨拶とともに、ジェイクがキリリとした王子顔で朝食の他、細かな指示を出していく。

 私の方を振り向き、チッと小さく舌打ちして「時間切れだ」とボソッと呟いた。


 ほうっ、と肩の力を抜いてひと安心する。

 まあ、何と言いますか、心の準備してからでお願いしますよ。

 それまでに恋愛偏差値、上げときますから。


「ほら、うかうかしてたら朝食運ばれてくるぞ。たぶんその後すぐにスレイが文句言いにくるはずだから。早く着替えろ」


 ハッと自分を見ると、見事に下着だけだった。私ってば、こんな格好でひと晩、一緒に寝てたワケ?


「ふぎゃーーーーつ、無いわーーーーっ!」


 真っ赤になりながら慌てて支度を済ます。


 ジェイクに向かってギッと睨みを利かせ「見た?」と一言聞いた。向こうはニヤついた笑顔で「見てない、見てない」と言ってるが、こりゃ絶対見てるから。確信犯ってヤツですから。


 ぷんっと膨れてそっぽを向いてとら「そんだけ元気になったんならもう大丈夫だ。よかったな」と頭をポンポンされた。まあ、迷惑かけたし、少しは許してやるか。ブスッとしながらも、もう一度身支度に乱れがないか確認を済ませた。


 ひと息ついたら、素晴らしいタイミングで朝食が運ばれてきた。本来食堂に向かうべきところを、私の体調を考慮して、部屋食にしてくれたらしい。


 もうすぐ食事が終わるという時間、ジェイクの予想通りスレイ君が飛び込んできた。


「団長ー、頼むから親父のとこの仕事は勘弁……ってお嬢? 何で朝食優雅にとってるんだ?」

「えっとですねぇ。昨夜はお泊まりさせていただきまして……」


 これでもかっていうくらいに目を剥いて、ジェイクと私を指差している。


「こらっ、人を指差すのは止めろ。変な想像もしなくていい。昨夜はニコルが熱出したんで未遂だ」

「へっ? 未遂って、団長が……ププッ」


 さっきの表情とは打って変わって、すごく悪い笑顔になってる。それ以上は……


「……スレイ、お前、一ヶ月に延ばしてやろうか?」


 おうっ、すっごい低い声。いかにも怒ってますって感じよ?

 火に油注いじゃうってわかりきってるのに、どうして自ら深みにハマりにいくんだろか。それってどうよ? アンタはマゾ系人間かいっての。


「ひぇーーっ、お許し〜。とりあえず一週間頑張ってきまーす」


 逃げるように部屋を出ていったスレイ君を黙って二人で見送ると、コホンと咳払いしたジェイクが私をチラ見する。目が合った瞬間、マズいっていう顔したら「何もしないよ」と疲れた顔で言われてしまった。


 何かちょっとだけ罪悪感……

 せめても、と思って、椅子に座っているジェイクの後ろからキュッと抱きついた。手を後ろに回して頭を撫でてくれる彼。今はこの距離感のままでごめんね。


「今んとこニコルへの罰は保留だからな、いつ食らってもいいようにしっかり準備してろよ?」


 うっ……何だ、熱だしたからそれで終わりにしないのか? そこまでして楽しみたいんかいっ。

 私の、この抱きつきご奉仕は、結局無駄だったんかいなっ。


 ジェイクの黒い笑みを見てたら無性に腹が立ってきて、やっぱり今日も叫んでしまった。


「鬼ーーーーーーーーっ!」

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