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4話

「君たちが今日の護衛かな? よろしく頼むね」


 第二王子のラスティ様が爽やかな笑顔で挨拶してくれる。何か期待してくれてるのかな、って感じに思えて「はいっ、こちらこそよろしくお願いしますっ!」とデカい声で言ってしまった。


 クククッと小さな笑い声で「元気だね」と言われた。あ、ちょっとビックリさせちゃったかな? そこまで大きな声出さなくてもよかったのか、失敗失敗。張り切り過ぎてしまったことに気づき、ちょっと顔が赤くなった。


「スレイは久しぶりだね。なかなか私に会いに来てくれないから、寂しいよ。いつでも公爵の後を継いでくれて構わないんだけど?」


 茶目っ気たっぷりにウインクをして、スレイ君に話しかけている。ずいぶん親しいんだね。考えてみればスレイ君って、外交担当次官をお父様に持つ超エリートじゃないか。


「私には外交よりも、ジェイク様の下であれこれ動いている方が性に合っているんです。ラスティ様のことですから、有望株を見つけているんでしょ? 大切になさってください」

「そうか、残念。公爵も私も、いつでも待ってるから、気が変わったらおいで。あとジェイクのこと、これからも頼むよ」


 へえ、第六の仕事って意外と侮られがちなんだけど、スレイ君もラスティ様も団の立ち位置をしっかりと把握してるのね。


 ラスティ様はジェイクのことを敵視するようなこともないみたい。

 第二王子って立場からすれば、第三王子は自分の後釜を狙う存在、とか考えがちなんだけどね。周りの国でよく聞く、王座を狙うための暗躍とか野心丸出し、とかって雰囲気も微塵も感じないし。

 いい兄弟じゃん、ほのぼのって感じ。


 短いやりとりだったが、二人のジェイクに対する気遣いがわかって、ちょっと嬉しくなった。

 何か私、この人のためだったら体張って護衛する気になるわぁ、頑張ろっと。


 予定の時間となり、王子に付き添って会談の場へと赴いた。


 アルベリアの使者は、抜け目のない顔つきの人だ。一緒にいる文官たちも、揃って隙のない顔つきをしている。

 こわっ……とか思ってラスティ様とラングダウン公爵や他の文官さんたちを見ると、こちらも同様。


 知らないうちに、私とスレイ君、向こうの護衛さん、併せて四人以外はみんな笑顔になってるが目だけ笑ってないという、空恐ろしい現場になっていたようだ。


 外交って腹黒い人じゃないとやってけないね。みてるだけで胃が痛くなってくるし、何より心が寒い。

 ラスティ様もスレイ君のお父様もすごいよ、感心しちゃうわ。私は剣術の方が好きだから、こんなとこは向いてないってすぐわかるよね。


 会談という腹芸が終了、スレイ君をチラッと見ると、何やら難しい顔をしている。

 今んとこ王子を狙うなんて、大胆な輩は存在しないので、そのままピッタリと王子に張り付いている。


 次の予定は視察か。アルベリアは教育に力を入れ始める取り組みをしている、とかいう名目で、学校と美術館、博物館の訪問をするワケだ。


 要は芸術家肌の使者が観光したいってことかな? ガヤガヤしたとこだと護衛も大変だから、正直助かる。これが市場見学とかだったら、狙われる確率大だよ。


 視察の時間も問題なく過ぎ、無事王宮へと戻ってきた。ここまで警護したけど、アルベリアとの会談も視察も穏やかに済んだことだし、そんなに切迫した状況でもなさ気だよね。みんな気を使い過ぎじゃないの?


 私は、情勢が不安な国を相手にしてることと、経験のない近衛の仕事ってことで、張り付いているだけなのに、エラく緊張しきってたようだ。王宮までの道のり、何ごともなかったことに安心し、ホッと肩の力を抜いた。


 スレイ君は相変わらず難しい顔をしている。

 どうしたのか気になるのだが、今は任務中なので、話しかけるのもできない。

 とりあえず、次の会食会まで時間があるので、休憩の時にでも聞いてみよっと。


 アルベリアの使者たちを控え室に送り出したのを受けて、こちらも控え室で休憩の時間となった。


 小腹がすいた人は、簡単に摘めるような軽食やお茶、ワインなどがセッティングされている。すご〜い、腹芸やってる分、一流のおもてなしは完備されてるワケだ。

 今日一日で感心ポイントがたくさんあるわ。やっぱ体験するべきだったのね。ニコラスには悪いけど、楽しい一日をありがとう。


 さてと、あとは会食会を残すだけか。

 あ、そうだ。スレイ君の難しい顔してた理由を聞きたかったんだよね……と、スレイ君どこだろ?


 グルっと見回すと、いたいた、何だ公爵と一緒か。でも二人とも厳しい顔だ。今は気軽に声がかけられないや、しょうがない。

 スレイ君の件は後回しにして、と。


 ん? 様子が変な侍女さんがいる。具合でも悪いのかしら? 声をかけて医務室にでも連れて行ってあげないと、倒れたら大変だもんね。


 そう思って、二、三歩歩き出そうとした時だった。


 先ほど様子のおかしかった侍女さんがスッとしゃがみ込んだのだ。ヤバい、貧血起こしたんじゃないの? 急がなきゃ。


 そちらを気にしつつ、人の間を縫ってなるべく早くたどり着こうとした。

 侍女さんは、再び立ち上がった。ああ、よかった、一瞬のめまいかな、やっぱり医務室行きだね、あの子。


 と、よく見ると、手元が光の反射を受けてキラリと光った。

 え? ナイフ? 何で持ってるの?


 彼女は銀のトレイの陰にちょうど隠れるくらいのナイフを握り、ラスティ様目掛けて走り込んでくる。


 考えているヒマなんてなかった。

 勝手に体が動いて、ラスティ様と侍女の間に入り、自分の体でナイフの攻撃を受け留めた。


「……っうっ……ぐふっ」


 息ができない……目を見開き、口をハクハクさせながら膝から崩れ落ちる。


 スレイ君は少し離れた場所にいたので、こちらまでくるのに幾ばくかのタイムラグがあった。結果、侍女に飛びかかって取り押さえる方に回った。

 事務官に扮した護衛数人は、次々と王子をガード。あの様子だと王子は大丈夫だよね、よかった。


「……お嬢っ! あー、もうっマズいっ、マズいぞ。お嬢っ!」


 捕まえた侍女をすぐさま別の人に引渡したスレイ君が、蒼い顔をしながら私を抱き起こし、間髪入れずに公爵に向かって叫ぶ。


「親父っ、とりあえずジェイクを呼んでくれっ、大至急だっ!」

「ス、レイ、君、だ、大丈夫、だか、ら……そんな、顔しな、いで……」


 私は震える手を彼の頬に当てニッコリと微笑んだ。

 こんなことでみんなとお別れするなんて、思いもよらなかったわ。やっぱりニコラスに怪我をさせたバチが当たっちゃったのかなぁ……

 でも王子が無事でよかった。スレイ君に言われた通り、体を張って守ったよ?


 ニコラスが復帰してからも褒められるよね。

 そうだよ、私の死はひっそりと隠されて、ニコラスが職場復帰するんだ。私の分までこれからのお仕事頑張って欲しいな、大丈夫、ニコラスならできる子だもん、問題ないね。


 ああ、ジェイクがやって来た。何か恐い顔してる……最後くらい笑った顔みせて欲しかったな。

 でもいいや、ちょっとでも見れたわけだし。

 安心して休むことができるわ……

 スレイ君の声が何となく遠くに聞こえてくる。


「おいっ、お嬢。ほら、目なんか瞑るんじゃないって。俺ひとりにするなって、お嬢っ!」


 もう『ひとりにするな』なんてセリフ、ジェイクならわかるけどさ……スレイ君まで寂しがり屋さんなんだから……でもお願い、ちょっと休ませて……


 私は、向こうからやってくるジェイクに笑いかけて、目を閉じた。

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