表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

10話

「ニコラス〜、ねぇ、お願いします。せめて道場とか街への散歩くらいはしたいんですけど」

「ダメです、姉上は家で謹慎です。私がいいというまでは、道場も街もダメです」


 ひえーん、そんなのないしぃ……

 ちょっとくらいお出かけさせてよ〜。もう三日も我慢したの。私なりに謹慎したもん。


「少しは世の女性を見習ってください。刺繍とか読書とかあるでしょう」


 呆れ顔で諭してくるのだが、刺繍なんてものは出来なくたって死なないじゃない。少しは体を動かして体力づくりした方が、健康のためにもいいんだから。


 粘っておねだりしても、ダメの一点張り。

 不満たらたらで部屋に戻った。こうなったらどうにかして抜け出してやるわっ!


 とりあえず一階まで降りて……うっ、ニコラス居るしぃ。


「姉上、どのようなご用でしょうか? 急ぎでなければお部屋へお戻りください」


 むっかぁ、何よこれ。アンタが怒ってるのはわかるけどさぁ、これじゃ軟禁でしょう、軟禁。


 決めた。窓からでるわよっ!

 ちっちゃい頃は、これでよく抜け出してたんだもん、少しブランクあるけど、木に飛び移るのなんて簡単簡単。

 庭に生えてる木が、ちょうど私の部屋の目隠しになってるんだよねぇ。日差しの強い日なんかは、木陰を作ってくれるありがたい木なのよ。普段ならね。


 今回は子供の頃何回かやった、脱走の手助けをしてもらうわよ。窓から飛び移って枝に渡り、そこから木を伝って降りれば、一階から見えないうちに家から抜け出せるようになっている。


 昔はこの手で、道場まで遊びに行ってたもんね、ちょちょいのちょいで脱出完了よ。

 ドレスの裾調整オッケー、使用人を買収してゲットしたロープもオッケー、ベッドの中の偽装工作オッケー、よし、ミッションスタート!


 いい? 心のかけ声で飛ぶわよ。

 せーのっ。ふんむっ、どおだっ。



 ああマズい。非常にマズい……

 一瞬の迷いがアダになった。木に手を掛けたが足が窓枠から離れない。飛び移る瞬間に落ちるかも、という恐怖が頭に浮かび、踏み込みが甘くなりジャンプしきれなかったのだ。

 つまり木と窓枠の間に橋のように私が引っかかってるワケで……


 この時間は昼過ぎ、夕食の下準備にも早い中途半端な時間なので、使用人もほぼ昼寝やら休憩だ。ここら辺を通る人は夕刻の洗濯物を取り込むまでほとんどいないはず。


 ここから落ちたら、たぶんニコラスの怪我どころの騒ぎじゃ収まらないだろうな。この間とは違った意味で命の危険が迫っている。

 くっ……そろそろ二の腕プルプルが始まってきてるし。


 はあぁ、ごめんね、私を知っているみなさん、それでは天国でまたお逢いしましょう。

 手のひらがズルんと滑り、枝をバキバキいわせながら、急降下。


「ふぎぇーーーーーーっ!」


 い、た……くない? 何やら下がモゾモゾと。ちょっと動いたら変な声が?


「ぐっあ」「でぁえー」「ぶっふぅ」


 三者三様の声が同時に足元で聞こえてくる。

 あ、ららら、ジェイクとスレイ君、それにお父様まで潰れてる?


「えっと、みなさんこんにちは。本日はどのようなご用件で……」


 最初に反応したのはスレイ君だ。むくっと起き上がり、ジェイクの顔を怯えた表情でみながら、私をどかす。順番にジェイク、お父様と手を差し伸べて起こしきったところで。

 はい、いつもの儀式ですよね。


「こらぁーーーーっ、ニコルーーーーっ!」

「この馬鹿者があーーーーーーーーっ!」


 お父様とジェイクの怒鳴り声が重なって、いつも以上の迫力だ。


「ぎゃーーーーん、マジごめんなさーーーーいっ!」

「あーあ、やっぱりやらかしたぁ」


 私の謝る声に被るようにスレイ君の声。

 しばらくお父様とジェイクから代わる代わるお小言をくらい、それはお尻が冷えてクシャミをするまで続いた。

 最後はスレイ君が、なんとかとりなしてくれて、お説教タイムは終了した。私もこれ以上は勘弁して欲しいので、おトイレに駆け込んで追求をかわした。


 もういいだろう、て頃に居間にそっと顔を出したら、三人とニコラス、合わせて四人でお茶を飲んで和やかな雰囲気になっていた。

 ほとぼりが冷めたかなぁ、と思ったので、しずしずと居間に顔を出すと、みんなの目が冷たい。

 まるで八本の冷凍ビームが出てるんですかってぇくらい、冷え冷えとした視線。


「こ、この度は命の危険を救っていただきまして、誠にありがとうございます」


 ギュッと目を瞑って、一気に言ってから恐る恐る目を開けた。

 なんでも、ジェイクとスレイ君が玄関先に着いた時、慌てて庭に駆けていくお父様を見かけたそうなんだ。目で追うと木に私が引っかかってて、二人も慌てて木の下に駆け込んで事なきを得たということだったらしい。


「姉上、みんなあなたが心配なんですよ? ここにいる私たちだけじゃなく、姉上に関わったみんなが悲しむのです。本気で自重してくださいね。まあ、静かな姉上ってのもかえって気持ち悪いんで、もうジェイク様とデートでもしてきてくださいな」


 あれ、もう怒られないのかなぁ。みんな、しょうがないって顔してる。よかった、んじゃ、せっかくなんでお出かけ準備して来ますか。

 一旦部屋に戻り、お出かけする格好を整えて再びみなさんがいる居間へと出向く。


 ジェイクと二人、見送られて街デートに出かけた。出る前にニコラスから軽くお説教されたけど、出かけるための注意だったから長くもなく終わった。

 ブンブンと思いっきり手を振っていい笑顔でデートにゴー。


 テクテクと歩きながらジェイクに向かって話しかけた。なんであのタイミングで家に来てたか尋ねたら、口元隠してアッチ向いてしまった。

 不思議な反応に私の頭が追いつかず、首を捻ってハテナマークを浮かべるだけになる。


「ねえ、ジェイク、どうしたの?」

「なんでもない、今俺の顔は見るな」


 うーん、人間見るなと言われれば見たくなる生き物なのは、創世の神話から決まっていることですしね。


 パッと素早く反対側に回りこんでグイッとジェイクの懐に入り込むと、真っ赤な顔した彼とのご対面。


「こら、だから見るなって……俺がお前に逢いたくて痺れ切らしたなんて……みんなの前じゃ恥ずかしくて言えないだろ」


 そんなこと言われたら私までつられて赤くなっちゃう。ボボボッとゆでダコ状態で俯いて、二人で立ち止まったままになる。


「ああ、もう。ここで立ったままじゃ話しもできん、ちょっとあっち行くぞ」


 手を引かれて遊歩道のベンチまで来て、二人並んで座ってひと息。


「ニコラスにはお前を内偵に使った件、謝っといた。やっぱり無謀だったからな。でもあれでアルベリアと貴族の癒着を未然に防ぐことや不穏分子の特定ができた。ありがとう」


 思わず嬉しくなって、ジェイクに抱きついた。やったあ、私だって役に立つことできたんだ。私を信用してくれたからだよね、次はどんなことやらせてもらえるかなぁ。


 ワクワクしながら次の言葉を待ってると「ただし今回で終わりだ」と言われてしまった。ガッカリした顔をしていたら、頰を優しく撫でられ、おデコに軽いキスが落ちてきた。


「今回は無事だったからよかったが、危険なんだ。もっとお前に任せる仕事は探しておくから、潜入とかはナシだ。ロンダード子爵も証拠不十分で今のところ処罰されてない。お前がまた遭ったら危険なんだ」


 ドキッとした。あの時の恐怖は二度と体験したくない。コクコクと無言で頷くとジェイクにすがって聞いてみた。


「危ないことしないから。あの人って普段は王宮なんだよね? なら王宮行かなきゃ平気でしょ、気をつけます」

「うん、そうだな。俺も明日から騎士団での仕事になるから、ある程度ニコルを守れる。ホントに目が離せないものな」


 クスッと笑いながら今度は柔らかく抱きしめてくれた。私も安心してジェイクの顔をみて笑う。


 すごく楽しくってあっと言う間に時間が過ぎ、家まで送られ幸せな気持ちのまま今日一日が終わった。


 最高に爽やかな朝を迎え、いつもより早くに目覚めてしまった。普段ならサーラにたたき起こされている私なのだが、少しでも早く騎士団、というかジェイクに会いたくて身支度まで手早く済ませちゃいました。


「行ってきまーすっ」


 スキップしたくなるようなウキウキした気分で家を出た。

 通りを真っ直ぐ歩いて最初の曲がり角を曲がった時だった。


「はうっ」


 鳩尾に衝撃が走り、そのまま目の前が真っ暗になって意識がどこかに飛んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ