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1話

「なんか暇……ってか、チョーー暇なんですけどっ!」


 私、ニコル・テイラード。

 第三王子ことジェイク・グリフォードが団長を務める第六騎士団、通称『第三王子のお守り騎士団』に弟ニコラスの身がわりとして潜り込んだ騒動から、はや半年経ちました。


 団長に女とバレてからが大変だったのよねぇ……若干遠い目をしながら、あの時の状況を思い出す。身元不明の女が潜入したと考えられ、ベッドに括りつけられたり尋問受けたり。


 今でもあの時の団長の冷たい目を思い出すと、冷や汗と鳥肌がバババンと体に出る。こりゃ軽いトラウマだな。


 で、その冷たい目の団長サマのプロポーズを受けて、晴れて婚約者となったのですが、結婚までの道はまだまだ先っぽいですな。今はラブラブ? 恋人期間を楽しんでる状況です、はい。


 で、団長の専属お守りとして今日も執務室に出勤しているんだけどねぇ……やることがほっとんど無いのよっ!


 朝、団長宛ての書類を開封して重要度別に仕訳けしてお茶を淹れたら、もう終わり。

 つまんないからぁ、街の見回りさせてって言ったんだけど、危ないからダメって言われるし……


「団長〜、ねぇ、団長ってばあ〜」

「……ジェイク」


 ん? 何だって?

 書類に向かってペンを走らせていた団長が、不貞腐れたような顔をこちらに向けながら、自分の名前を名乗る。

 うん、確かに団長の名前はジェイクだよ? それが何か?


 不思議顔で軽く首を捻れば、もう一度同じく、名前を名乗る。


「俺は『ジェイク』だ。『団長』呼びするんじゃない」

「えー、特別な時でいいでしょ? 普段は団長の方が呼びやすいんですもの」


 名前で呼ぶのは苦手なので何とか逃れようと、可愛いくおねだりしてみた。

 ちょっと赤くなった顔でそっぽを向いて、ブスッとしたまま呟く。


「団長って呼ぶのはアイツらだけでいいんだよ、ニコルには名前で呼んでもらいたいんだ」


 それを聞いた私は、カッと頬が熱くなり、両手で顔を覆い隠してしまった。やだ、恥ずかしくって目を合わせられないから。


 顔の火照りが収まるころ、スレイ君に書類を渡すよう頼まれて、届けに行った。


 隣にある第六騎士団の詰所に、ひと際汚い机がある。それがスレイ君の机って聞いた時は、マジ驚いた。だってあまりに乱雑過ぎて机って認識できないんだもの。


 今日も相変わらずの汚さだ。思わず、机の書類を整理してしまった。ある程度の整理整頓が済んだ時、廊下からスレイ君たちの声が聞こえてきた。


「お? ニコルお嬢サンキューな。お嬢が整理してくれるから、安心して書類を放っておける……でっ! 何すんだよっ……って団長かぁ」

「団長かぁ、じゃねえよ。ニコルの戻りが遅いから来てみれば。コイツに片付けなんかさせんじゃねえっ! 一緒にいる時間が減るだろがっ」


 ご機嫌なスレイ君の頭にゲンコツを食らわせる団長。

 おいっ、何ここで公開ノロケを披露するんでいっ、また顔が赤くなるやん……


「ニコル、外行くぞ。お前ら、あとは適当にやって解散だ。報告は明日スレイからで。じゃあな」


 団員たちからの冷やかしを背中に受けて、私たちは外に出た。無理やり手を引かれたままだったので、そのまま手を繋いで散歩する。


「もうっ、何であんなこと言うんですか? 恥ずかしくって明日から顔出せないじゃない」

「その明日からだが、俺は十日ばかり王宮の方に戻る。お前も家か街の道場で日中は過ごしていてくれないか? 団には顔出せないくらい恥ずかしいなら丁度いい」


 繋いでいた手をギュッと握りしめ、私と向かい合うと、ゆっくりとその手を頭に乗せて喋りだす。


「団の仕事は危険な時もあるんだ。俺のいないところでニコルを働かせたくない。絶対に見回りについていったり、変なことに首突っ込むだろう?」

「うっ……」


 読まれてる、先回りして私の動きを封じようとしてるな? ならばっ、必殺可愛いくおねだり攻撃だっ!


「少しの時間ならお手伝いしてもいいでしょ? ねえ、ジェイク」

「ダメだ、今回は特にな。可愛いおねだりは、また今度別の機会に聞くから」


 ちぇっ、バレてらぁ。ぷうっと膨れて不満そうにしてると、両頬に手を置かれ目線を合わせる角度に固定された。


「あまり聞き分けがないとキスするぞ?」


 のえーーっ、街中でチューはダメですって!

 これでもかっていうくらい目を見開いて、ふるふると首を振ると、ジェイクが意地悪そうな顏で「言うこと聞いてくれてありがとう」だとさ。


 体良く丸め込まれて、その話しは終わりになった。


 帰り際、王宮で何があるのかと聞いてみたが、軽いキスと頭ポンポンで適当に誤魔化されてしまった。

 パキン、と固まったままジェイクを見送って、しばらくしてからハッと気づいたのよ、私の免疫の無さを利用されたってことに。


 何か悔しーーいっ。どうにかしてジェイクにひと泡吹かせてやりたいって思ったけど……今の私じゃムリだな。しょうがない、素直に道場行って剣術の相手を探すとしましょ。

 やり込められた不満を胸に、すごすごと家へと戻った。



「あれ? ニコラス、ずいぶん早い戻りじゃないの?」


 広間のソファをみると、ニコラスが書類を広げてゆっくりとお茶を飲んでいる。


「ああ、姉上、お帰りなさい。明日から私、第二王子の身辺警護の担当なんです。その調整で、今日は早めに業務を終えてきたのですよ」


 慌てて書類を片付けて、いそいそと立ち上がり、部屋に戻ろうとしている。

 ……何か怪しい。私に見せたくない書類っぽいわね、問い詰めてやろうっと。

 階段に向かっていくニコラスに話しかけた。


「ねぇニコラス、その書類は明日からの業務について書かれてるの? まあ、私には関係ないから、概要を話しても外部に漏れるってこともないと思うけど?」

「いいえ、例え姉上でも、近衛の任務内容ですから。この書類は姉上が思ってるほど重要ではないので、気にしないでください」


 書類を私の視線から外すように隠すと、急いで階段を上ろうとするニコラスに少しだけカチンときた。


 ちょっとお、アンタそんないい訳する程、余計に怪しいって、わっかんないかなぁ。


 先ほどジェイクに丸め込まれた鬱憤もあって、どうにか気持ちを満足させたい欲求に駆られるのよね。

 やっぱ気になる、見せなさいよっ!


「ニコラスっ、待ちなさいってばっ!」


 グイッと掴んだのは、ニコラスの制服のポケット部分だった。

 急に後ろに負荷がかかったニコラスは、グラりと体が傾き、思いっきり階段から転げ落ちた。


「どぅおあーーーーっ!」「ニコラーーーースっ!」


 ニコラスと私の声が重なり、同時にものすごい音が響いた。

 慌てて家の使用人全員が広間に飛び出してくる。そしてその場にいた全員の目がニコラスに集まった……次の瞬間、蜂の巣を突いたような騒ぎになり、ニコラスは部屋に運ばれ、私は呆然とその様子を見てるだけ。少ししたら医者が飛んできた。ホントに飛んできたかも、っていうくらい素早い登場だった。


 医者の診立てによれば、全身打撲と左足首の捻挫と脳しんとうを起こしてる、ということだ。

 うっわあ、マズい、マズいよお。絶対お父様に怒られるーー。目を覚ましたらニコラスからも大目玉食らうよね、たぶん。いや、確実に。

 とりあえず部屋に戻って静かにしてよっと。


 私は今から透明人間に変身します。じゃあね。

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