【憧憬三話】魔術。*他人称視点あり
※2019年11月2日更新しました。
あのあと一旦本を読むのはやめ、みんなでご飯を食べた。
皆で食べるご飯は美味しかった。お伽話を聞いたり、三人が何度か桃色空間を形成しつつ、俺の初めての外出は終わった。
帰ったら部屋で魔術の練習しよう。今度からは家の庭が使えるだろうし。
流石にエクスプ○ージョンとか叫んだらバレそうだが……。
そんな事を考えつつ俺達は家に帰ったのだった。
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外出した日から約半年が経った。
日付はウチにある簡易カレンダーから分かる。これはピリアさんが買ってきたものだそうだ。
歩き回れるようになった俺はこの家を見て回った。ウチの間取りは二階建ての1LDK。
ダイニングではよく母さんとピリアさんがテーブル囲んで談笑している様子をよく見る。
俺の日課は二人がそうしている間、庭に出ること事から始まる。家の外は木の柵が囲んであり、まだ背が小さい俺には柵越しに空しか見えないが、庭は広く走り回れる。そしてちょうどピリアさんと母さんから見えないであろう位置に来たところで秘密の特訓が始めるのだ……。
今日は昨日覚えた地属性の中級魔術の復習からだ。
本を片手に呪文を唱える。
「大地の神よ!我に加護を与え給え。汝に堅牢なる守護を求む。【岩牢壁】!」
呪文を唱えた瞬間、目の前に土壁が現れた。触ると岩のように硬い。しばらくすると崩れた。
今日も順調だ。
ちなみにこの半年で俺が覚えたのは、火・水・風・地は中級まで。闇・光は初級まで。
てっきり前世で見たラノベの所為で、闇属性の魔術は使っちゃいけないと思い込んでいたが、この世界では違うらしい。
理由は内容が関係しているのだと思う。闇属性は初級から上級まで精神系のものが多いみたいだがそこまで忌避されてはいないらしい。一方で死霊魔術はあまり良くないとされてるみたいだ。魔術の内容は載って無かったが、本の内容を見ると忌避されているように感じる。
光属性に関してだが、こちらはイメージ通り主に治癒やサポートが多い。上級より上になると攻撃系も増えるらしいがまだ俺には関係無い話だろう。
今日は地属性までの中級魔術を扱えたから、今日から闇属性の中級魔術を練習しようと思う。
まずは魔力を凝縮するところからなのだが、実はこの作業がとても大事なのだ。
魔力を上手く加減しないと術が発動しない。
発動したい魔術の規模に合わせて量を合わせなくちゃいけない。
大きな規模の術を行使したければ量を多めに。小さい規模なら量を少なめに。
この作業が早ければ早い程、詠唱に至るまでの時間が短くなり、より早く発動できるようになる。
だがこの規模というのは一度術を行使しないと把握出来ないのが難点だ。
一つ一つの魔術の規模を見つけ出すまでにかなり時間がかかった。
だから分かりやすく操れるように、俺は級ごとのパターンを導きだした。
初級・一割未満〜一割
中級・二割から〜四割
といった感じだ。だから最初は二割程度で、近くにいたカマキリに似た虫へと試してみる。
「常闇の神よ!我に加護を与え給え。生命の瞬きよ、散れ。【倒気】!」
カマキリが突然糸が切れたように倒れた。
今俺が使ったものは相手の精神に干渉する気絶の魔術だ。
誰にでも効くというわけではないらしいが、基本は通用するという。
これがあれば喧嘩卍野郎とでも渡り合えるだろう。
この世界にもし冒険者ギルドなどがあるとしたらそういうこともありそうだ。
かかってこいやぁ!
スタン!
参りましたぁ!
みたいな。
話がそれてしまったが中々使い勝手が良さそうな魔術だ。一発で成功するとは思わなかったが、魔術の割合をパターン化したおかげだろう。
最後にもう一度別の虫に試してから終わった。
早速だが光属性の中級魔術を練習していこうと思う。
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さらに一年が経過した。
背も少し伸びた。
生活は相変わらずで、使える魔術もあれから増えた。
火から光までの上級魔術を全種類使えるようになった。これより上は実質、帝級の魔術しかないだろう。
やる事が無くなった俺はとにかく魔術を撃ちまくった。撃って撃って撃ちまくった。そりゃもう飽きるまで。
最初はもちろん魔術を使う度に興奮していたが、一年半も使い続ければ流石に飽きた。
もちろん上級魔術も使ったが、あんなのでかい魔術を使いまくったら家が壊れてしまうだろう。
というわけで、今日も今日とて俺は中級の魔術を撃ちまくる。撃って撃って撃ちまくる。
その時だった。つい詠唱を短くしすぎてしまい、魔術が発動しないかに思われたときだった。
発動したのだ。明らかに短すぎるのにも関わらず。
他のものでも試してみる。
……やはり発動する。そして威力も変わらない。
《ーー『無詠唱』を獲得しました》
オアッ!?
な、何か今聞こえたような……?
無、詠唱って言ったか?ま、まさか使えるようになったのだろうか。
試しにイメージだけで魔術を放ってみる。
……結果は成功だった。
お、おぉぉ!
苦節一年と半年。ワシは遂に無詠唱を獲得したぞぉぉお!
無詠唱で撃つ。ひたすら撃つ。魔力量を調整するだけで威力を変えられる。
なんたる全能感。ワシは賢者じゃ!
俺は仙人にでもなった気分だった。
それはもう調子にノッた。
だからついつい加減を間違えたのは仕方がないだろう。
予想以上に大きくし過ぎた【火槍】が柵を突き破り、燃え尽きた。
やっちまった……。これはもうバレてしまうだろう。
何事かとやってきた母さんが目を見開いて驚いてる。
とにかく謝ろう。
><><><><><><>アリア視点<><><><><><><
物音と共に何かが崩れる音が聴こえる。
私は急いで現場に駆けつけた。そこにはアキが申し訳なそうに佇んでいた。
よく見ると柵の一部が焼け焦げ壊れている。
これをアキが……?
「母さん、ごめんなさい」
ぺこりと謝ってきた。そんな姿も可愛い……。
……じゃなくて、どうしてこんなことになったのかしら?
「全然いいのよ〜、でもどうしてこんなことになったのかしら」
「【火槍】を使おうとして失敗ちゃって……」
一年程前から何かやっているとは思ってたけど、そういうことだったのね。
アキはもう文字を読めるし、誕生日にもらった魔術の本を見ながら練習していたってところかしら。
それにしても四歳で火の中級魔術を扱えるなんて凄いわ。
ウチの子は天才かしら!
「あらあら、でも凄いわ〜!アキはもう火の中級魔術が使えるのね!」
賢者の卵と呼ばれた私でさえ全属性の中級魔術を操れるようになったのは七歳の頃だったのよ?
このままアキの才能を伸ばしてあげばればすぐにでも上級魔術を使えるかもしれないわね。
ちなみにどこまで覚えたのかしら。
「アキはどこまで使えるの?」
するとアキは焦りだす。なにかまずいことでもあったのかしら。
「じ、実は上級魔術まで覚えました……」
「じょ、上級!?もう使えるの!?」
とても驚いた。なにかの属性に特別な適性でもあるのかしら。
そしてやはりこの子は天才だった。それも並みの天才じゃない。四歳にして上級魔術が使えるなんて御伽話でしか聞いた事がない。
「ど、どの属性のものを使えるの?」
アキは予想の斜め上の答えを返した。
「ぜ、全属性です……」
「……」
開いた口が塞がらないってきっとこういうことを言うんだわ。
全属性の上級魔術を四歳で使える。そんなの御伽話でも聞いたことが無い……。
魔術への適性は私譲りなのは分かるけども、ここまでとは予想してなかったわ……。
私がこの子を産んだ時のことはよく覚えている。
安産だったし、この子は大きな産声で泣いた。
変化が現れたのは一歳の誕生日を迎えたばかりの事だった。
その日はアキは高熱を出した。
私達キクロス族は魔との繋がりが強いために、基本的に寿命が永く、病気になり辛い。
それだというのに、高熱を出した。これは異常な事だった。
私はありとあらゆる可能性を考え、様々な治癒魔術をかけた。でもどれも効き目は無かった。
そしてとうとう、アキの意識は薄れていって一度完全に鼓動は止まってしまった。
最終手段として法国に伝わる蘇生魔術の準備を始めた私達だったけれど、実際この魔術が成功する事はあり得ないし、それこそ神の奇跡でも起こらない限り、可能性は無かった。
たとえ成功し、蘇ったとしてもそこには生前の性格などは無く、感情の無い人形になる。
それでも私達はアキが生き返る事にかけ、どんな犠牲でも払うつもりだった。
そして鼓動が完全に止まった直後、アキの目が開いた。
そんなバカなと思ったが、実際にアキの目は開き始めていた。
心から安堵した私は思わずアキに近寄ったとき、突如思った。
ーー生まれ変わった。
そう思えてしまう程に、アキの顔は落ちついていて、その瞳からは困惑の色が伺える理性的な光を宿していた。
その翌日からアキは驚く程、泣かなくなった。
さらに一年と半年が経つ頃には言葉を覚え始め、歩き、走り回れるようにもなった。
アキは常に私が目の前で会話をしていても、まるでそれを理解しているかのように耳を立てていた。
そんな事があり、三歳を迎える間近の頃には舌ったらずではあるが、しっかり会話出来るようになり、私達に頻繁に質問してくるようになった。
その質問は三歳児がするようなものでは無くて、まるで"世界"の仕組みや、どんなふうに成り立っているのか知りながら、それを把握したがってるような質問ばかりで、私もアキの投げかけた質問にはよく困惑していた。
そのため、なんと答えていいか分からなくていつも誤魔化していた。
三歳の誕生日の日。
アキは貰った本を熱心に読んでいた。まるで理解しているみたいに。
やっぱりあのときからアキは理解していたんだわ。
この子は数十年…いや数百年に一度の逸材……。
この事はナリムに話すべきでしょう。明日ちょうど帰ってくるからその時にでも。
「そう、全属性の上級魔術を……」
「母さん!火炙りだけはやめてください!」
「……どうして火炙り?」
「え?」
「え?」
二人してポカンとしてしまった。
この子は何を言い出すのやら……。そんなところも可愛いのだけど。
「ふふふ、もしかして柵を壊しちゃったからかしら?」
「あ、いや、そ、そう壊しちゃったから……」
「いつでも直せるから大丈夫よ!それより怪我は無い?」
「うん。大丈夫」
柵なんていつでも直せるわ。
今はこの子を才能を伸ばしてあげることの方が大事。
私はそう確信した。
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時刻は夜。
俺はいつものベッドで横になってる。
壊してしまった柵はピリアさんが直してくれた。
あのあと、三歳から魔術を練習していたこと、庭の裏でこっそり練習していたことなど、洗いざらい話した。
バレてビクビクしていたが、そんな意味は無かったみたいだった。
母さんが驚いていたのは、感嘆の意味らしい。
理由を聞くと、この歳で全属性の上級魔術を習得するのは聞いたことがないということだ。
そりゃあ三、四歳の幼児があんな魔術の理論を理解して習得できるとかあり得ないだろう。。
俺は前世で培ったラノベやアニメ、ゲームの知識がたまたま役立ったり、元の精神年齢があったからこそだ。
すみません母さん俺転生者なんです。とも言えず、とりあえずこっそり練習していた事を話すと、「私に言えば良かったのに〜」などと言っていた。
……なんだが少し、時間を無駄にした気分になったが、結果的に全ての上級魔術を習得できたのだし良いだろう。
それに、ここ最近気になっていた事がある。
母さんはどのくらいの魔術を扱えるのだろう。
恐らく空間系であろう亜空門を出せるのだから、凄い魔術師に違いない。
……そういや、空間属性には師匠が必要だって書いてあったが、母さんがいるじゃないか。
いや、待て、そもそも特別な適性があるのかどうかだよな。
あったらいいなぁ。
お願いします。神様。どこでもド◯使わせて下さい。
そうだ母さんだったらきっと教えてくれるだろう。
考えるとなんだがワクワクしてきた。
もうバレたんだし、早速明日お願いしてみよう。