【憧憬一話】あの憧れた異世界へ!!
初めまして!神楽坂心一と申します!
小説を読んでいる中で思わず執筆したい衝動に駆られ、そのまま書いてしまいました。
これから作者の妄想に付き合って頂けるように努力していく所存です。
どうぞ、宜しくお願いしますm(_ _)m
ここは、暗いな……。
そういえばさっき車がぶつかってきて……。
あ、そうか、俺死んだのか。
いやー意外に呆気なかったなー。車に轢かれてお陀仏か。
思い残したことは沢山ある。まだ将来については考えていなかったが、高校生としてやりたい事は山程あった。中々割り切れないが、なぜか不思議と後悔や絶望といった感情は思った程湧かなかった。
それにしても、死後の世界がこんな暗い場所だとは。
これからどうなるんだろう。
「ーー」
あれ? 今なにか聞こえた気が……。
「ーーーーーーーー?」
やっぱり聞こえた!うーんよく聞こえないな……?
「ーーーー? ーーーー!」
おーい。真面目に何を言ってるのか分からないぞ。分かるように喋ってくれ。
『ーー世界の意思を確認しました。ーーを発動しますーー』
「ーーあ! 目が開いたわ!? あなたー!」
お!? 声が聞こえるようになったぞ!? それに何だか光がーー
「ほら見てあなた! アキの目が開いたのよ!」
「……そうか、そうか…本当に良かった」
「そうね、良かったわ……目を覚ましてくれて……」
視界が開けた先に見えた物を見て、俺は固まった。
ーー何故ならそこに、人がいたから。
「うわぁぁん!」
なんて言っていいか分からず、泣き出してしまった。
「ほら〜あなたのせいで泣いちゃったじゃないの〜」
「……私のせいなのか、すまんなアキ」
そんな中で俺が見た光景は、抱き抱えられる小さくなった俺の体と、ぷくぷくとした手。そしてそんな俺を慈愛の目で見つめる二人の姿だった。
ーーどうやら俺は転生してしまったのかも知れない。
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俺の名前はアキ。
今年で三歳になる、前世の記憶を持つ転生者だ。
皮肉なことに前世と今世は近しい名前だった。
意識が覚醒した二年前のあの日、俺は酷い熱にうなされていたらしい。
しかしそこで死ぬ筈だった"前のアキ"は、恐らく俺が死んだのと同じくして死に、死んで彷徨っていた俺はこの体で転生した。と俺は考えている。
そして、転生してから一年経った頃、俺の人生を変える出来事があった。
それは俺がやっと言葉を話せるようになった時の事。
「おかーたん」
「ん? どうしたアキ〜?」
ふぁー、相変わらず綺麗だなー。
ーーウチの母アリアは美女である。
見た目は二十代前半の美女。さらに、銀髪に金の瞳、というちょっと有り得ない見た目なので、二次元の中の人物を見ているようで不思議な気分になる。髪は染めているのだろうか?
それに加えて、素晴らしいプロポーションをしているので、もう非の打ち所がない。
そんな母は今日も今日とて、その眩しい程の笑顔を俺に向けてくれる。
改めて、この人が母親で良かったと思う瞬間である。
「にほんて、しってう?」
「ニホン? 知らない言葉ねぇ。……けど、昔の人族の《勇者》の出身地がそんな名前だった気がするわね」
ゆう、しゃ?
……何言ってるんだ? 母さん?
「ゆう、た?」
「そう、人族が地下世界【レヴァノコフ】からやって来る【魔戒軍】からの進行が酷くなった時に、神界から強力な勇者を召喚するのだけれど……まぁ、アキにはまだ分からないわよね〜」
そう言って、母は笑った。
は? え? 今なんて言って? 地下世界? 魔戒軍? 召喚?……俺はまさかカルト宗教を信じる家にでも生まれたってのか!?
勘弁してくれよ……。
それは置いておいたとしても、日本を知らないとは。よほど日本から遠い所で転生してしまったのだろうか。
「じゃあ、にほんしらない?」
「そうねぇ、全く知らないわねぇ。そんなに気になるなら、ピリアに聞いて見ましょうか?」
「うん! ぴーあにきく!」
「良し! じゃあ、ピリアを呼んでくるわね」
数秒後。
「呼びましたか。アキ様」
ーー彼女の名前はピリア。見た目は二十代後半と言った所だろうか。
ウチで働くメイドさん兼、母の従者らしく、黒髪ポニーテールに黄色の瞳を持つ美人さんだ。スタイルは悪く無いようだ。
彼女は、俺が生まれる前から母に仕えているらしい。しかし、今のご時世にまだこんな貴族みたいな生活をしている家があるとは思わなかったものだ。しかも、そんな家に自分がまさか生まれ変わるとは。
人生何が起きるか分からない、とはよく言ったものだ。
「うん、あのね、ぴーあはにほんて、しってう?」
「ニホン、ですか。……そう言えば、過去の文献で一度聞いた事がありますね」
ん? 過去の文献?
「何でもその昔、古代兵器召喚でやって来た人族、【リュウヤ・タカサキ】なる人物の本当の出身地がニホンと言う国だったそうで」
さっきから気になっていたんだが、その人族って人間の事か? それに何だ? 古代術式召喚?
この家は子供に聴かせる童話の内容がラノベなのか?
「……ほかはー?」
「何でも、そのニホンと言う地は、かなり高度な技術を持つ国だそうで、その勇者が持ち込んだ技術は人族に多大な恩恵をもたらしたそうです」
さっきから人族人族って、自分達も人だろう。
これだけ俺の知らない文化や言葉があるのだろうから、俺ってどこら辺に生まれたんだろう。日本から余程離れた場所なんだろうなぁ。
「そっかー。ほかはー?」
「うーん、これ以上知ってる事はありませんね」
そうか……ピリアさんでも知らないとは、余程ここでは日本の知名度は低いみたいだ。
「アリア様、何故アキ様はニホンの事についてお尋ねに?」
「さっき突然、アキがニホンの事を言い出したのだけど、私にも何でその事を言い出したのか分からないのよね」
「左様でございますか……」
まぁ、知らないならこれ以上聞いても仕方無いな。
という訳で、話題を変えよう。
「おかーたん。にほんしらないなら、なにかおしえてほしいー」
「えー? 何を教えて欲しいの??」
うーん。特に何かある訳では無いけど、暇なんだよ。俺は。
「そうねぇ……」
そりゃあ、突然そんな事言われれば母さんも悩むよな。
しかしその時、母さんが何か思いついたような顔をした。
「あ! それならアキにとっておきのモノを見せてあげましょう〜!」
な、なんだかワクワクするな。転生してからわかったことだが、心はやはり身体に引っ張られやすいらしい。
「みたいー!」
「ちょーっと待っててね〜」
そう言うと母さんは先程から自分が使用していたコップの上に向かって手をかざした。
何をするつもりなのだろう。
「アリア様何をするおつもりで?」
「氷を浮かせるのよ〜!」
浮かせる?てっきり科学文明に疎い辺境の地かと思ってたが、そうでもないのだろうか。
「……成る程、まだアキ様には見せた事はありませんね」
そんなにハードル上げられたらぼく凄く期待しちゃう。
「いくわよ〜!」
母さんが手をかざした空間に、突然氷の結晶のようなものが集まり、氷塊を形成していく。
「【氷結晶】!」
そう呟いたと同時に氷塊は空中に静止した。
「アキ〜、ほら凄いでしょ〜!」
……今、何をした?手をかざして、呟いただけ、だよな?ちょ、ちょっと待て、あれか、もう音声認識の製氷機があるとか。……じゃあなんで浮いてるって話になるか。
「す、すごい…」
思わず呟いてしまった。母さんはマジックが得意なのだろうか。
「でしょ〜!お母さんこう見えて結構魔術得意なのよ〜!」
ーー時間が止まった。
そう錯覚してしまうような感覚。
だって、今なんて言った?ま、魔術?
「ま、まじゅつ??」
「そう! この世界には魔術と言うものがあってね? 大抵の事はそれで解決したり、時にはそれを使って自分の身を守ったり、お金を稼いだり……。」
う、嘘じゃない?
あの顔が嘘ついているようには見え無い。まるでそれが当たり前のように語っているときの顔だ……。
じゃあ、まさかほ、本当に? この世界には魔法が?……い、いやまだ信じるの早すぎるだろう。
「へ、へぇ〜!じゃあぼくのことすごくたかいたかいしてー」
もし今のが本当に魔術なら俺が今言ったことが出来るはずだ。少し意地の悪いお願いだとは思うがこればっかりは仕方ない。
母さんは微笑みつつ俺の願いを聞いてくれた。
「たかいたかいね!よーっし、【竜巻】!」
その瞬間俺の身体はまるで下からの突風に巻き上げられたかのように浮き上がる。
浮いた……。浮いちゃったよ、本当に。なにか事前に仕掛けてというのは有り得ない。たった今初めてこんなお願いをしたのだから。
「……!」
言葉に出来ないとはこの事を言うのだろう。
なぜなら俺はこのその奇跡の光景に、
ーー心の底から求めていたものを見つけたような気がして。
手が届かなかったあの場所に、
ーー届いたような気がして。
ーー気付いたら、涙が出ていた。
「あ……う、うわああぁぁん!!」
「え、ちょ、ちょっとアキ〜!? 大丈夫? ごめんねー!? 怖かったよね〜?」
違うんだ母さん。俺は悲しくて泣いてるんじゃないんだ。
心の底から嬉しくて泣いてるんだ……。うん。確信したんだ。ここは地球じゃない。
ーーだってここはあの憧れた異世界なんだもの!
「うええぇぇん!! あうがどう〜!!」
「? 変な子ね〜うふふ」
「……その変で、可愛くて、素晴らしい才能に溢れた子を、これから私達は育てて行くのです」
「そうねぇ。あなたの言う通りだわ、ピリア」
そう言って二人はずっと微笑んでいたのだった。