【前世二話】これは夢であって、夢では無い?
※2019年10月30日更新しました。
(…)
(……)
(………んー…何だか、体が軽いような……。)
(ハッ!今何時だ!? )
いつもの位置にあるはずのスマホで時刻を確認しようとしたが、手を伸ばした先にスマホが無い事に気付いた。
(あれー? どこにいったー? うーん、無いな。後ろに手を回しても無いとは一体どこに……)
とりあえず身体を起こそうと考え、眼を開けた俺は、目の前の光景に思わず目を剥いた。それは目の前にーー蒼穹が広がっていたからだ。
(……え? 何で? さっきまで部屋にいたはずなんだが)
混乱してる中で、俺の優秀(?)な頭脳が一つの答えを導き出した。
(これって夢か。だから言葉も発せないし、体も自由に動かせないのか)
だが、夢の中で意識が覚醒する事なんて初めてだ。意識を持ったまま夢を見る人が世界にいるというのは記事を通して知ってはいたが、まさか自ら体験するとは。
その時、突然浮遊感を感じて、今更ながらにその異変に気付いた。
(さっきから妙に体が軽いと言うか……。地面が無いと言うか……)
(……は? ……地面が、ない?)
それに胃の中の物が上ってきてるような……。あ、あれ? これって落下してないか!?
う、うおぉぉおおぉぉ!?
これどう見ても、現実としか思えない浮遊感があるんですけど!?
お、おいぃぃ!
嘘だろうぉぉおぉ!?!?
夢の中で、俺の心の叫びが響き渡った。
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その後、無理やり自分を落ち着かせるつもりで現状確認をする事にした。
えーと、まず今現在自分は絶賛落下中、と。ーーいや、どう言う状況やねん。しかし夢の中? とはいえ、恐怖感は現実と同じように感じる。
えーと、今見えてる範囲だと空中にいる事しか分からないな。よっぽど高い所から落ちてきたのか景色が変わっているとは感じられないし。
ボフンッ!
その瞬間俺の身体がなにかを突き抜けた。
ここ、これって、雲を突き抜けた!?
まずい、下が見えないからいつ地面と激突するか分からない!
……し、死ぬ……?
ーー〈願え。強く願え。改変と。〉
『う、おお…ぉぉお!!オル…レ……ショ…!!!』
誰かの呟きが聞こえたと同時に浮遊感に襲われ、俺の意識は暗転した。
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「っ!? ……へ?」
……あ、あれ? さっきまで空中にいたはずじゃあ……?
「俺の部屋だ……」
そして、周りを見渡して初めてここが自分の部屋である事を思い出した。……やっぱりさっきのは夢か。
それにしてもだ。
……さっきはマジでビビったー。
意識が覚醒して、気付いたらパラシュートの無いスカイダイビング体験。おまけに下を向くことはできない。
いや、もうね。こんな体験二度としたく無いわ。
それに、あの時の声は誰の声だったのだろう。とてもカッコイイ声だった。
もしかして、俺?とか思ったりもしたが、あんなイケボじゃないし。
色々解せない事はあるけど、
まぁ、何にせよ助かって良かった。夢だけどな。でも思わず、一瞬死ぬ覚悟するとか。
あんなの夢のクオリティーじゃないわー。
もしかして……これは夢であって、夢では無い。とか?
……それは無いな。でも、そう思わずにはいられないのが、さっきまでの状況。
どう見ても現実としか言いようが無い浮遊感に、恐怖感。さらには、夢ではあり得ない風を切る感触。まるで実際に耳で聞いたような音の響き。
ここまで聞くと、どう考えても現実としか思えないのだが、しかし俺は現実であんな場所は知らないしな。
第一夢を見る直前に寝てた訳だから、さっきのは夢。そう考えるのが普通だろう。
ーーこの時は知らなかった。これが俺、如月空人が見た最後の夢となる事を。
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あの後、結局考えても答えは出なかったので、急いで朝の支度をして学校へ向かった。愛用のママチャリに乗り込み、漕ぎながら昨日の朝聞いた事について考えていた。
「やっぱり俺が今朝見た夢も、朝霧さん達が見た夢と一緒、って事なのか? あいつらも夢に妙に現実感を感じたって言ってたしな。しかしなるほど。海斗がこの夢を現実に起こってたって思うのも仕方ないわ」
そりゃあ、あそこまで具体的で現実感のある夢を見たら、誰かがそう思ってしまうのも無理はないだろう。
俺だって一瞬、そんな考えが浮かんだしな。ま、何にせよ取り合えずは朝霧さん達に相談をしてみるのがいっか。
ーードゴォォォォン!!!!
恐らく直前まで考え事していたからだろう。信号に差し掛かったことに気付かず、赤信号で飛び出してしまった俺の目の前にーー車のボディライトが見えた。
「あ、俺死んだかも」
何かが潰れた感触と共に視界が真っ暗になり、
そしてそのまま、俺は呆気なく死んだ。
ーーしかし俺は死ぬ直前願った。
「異世界転生し…ねぇ…か…なー……」
こうして俺は、如月空人としての生を終えた。