【前世一話】俺が夢を見るまでの話
※2019年10月28日更新しました。
昔から異世界に強い憧れを抱いていた。
それは、異世界でカッコ良く無双したい!とか、チーレムを異世界で築きたい! だとか、そんなものでは無く、【神秘的】、【荘厳】、【雄大】、【非現実的】、【奇跡】そんなものを異世界に求めたからだ。
ーーだからこそ俺は今、夢を見ているのだろうか。
この何処までも続く地平線に、沈んでいく太陽。そして、地上で輝く幻想的な光。そこから目視出来ない高さまで伸びる世界樹に、その周りで燐光を振りまく精霊達。
そんな非現実的な光景に思わず、涙が溢れる。
「本当に綺麗だ……」
「わざわざ泣くことは無いじゃない」
彼女は少し呆れ気味にそう言った。
「昔からーーはそういう所があるからね」
彼は苦笑していた。
周囲からの暖かい目が痛い。皆もそう思ってるからだろう、彼同様苦笑していた。感動するものは仕方ないのだ。
俺は改めて周囲を見渡す。今じゃこんなにも仲間が出来た。沢山の数え切れない出来事を経て今がある。
一人だったらここまでの感動を味わうことは出来なかっただろう。
ーー俺にとってこの光景は一生忘れられない思い出となる。
><><><><><><><><><><><><><
俺の名前は如月 空人。
友人達にはアキと呼ばれている。
この前、十七歳の誕生日を迎えたばかりの高校生だ。
家族は、母と妹と俺の三人家族。父は三年前に死んでしまって、今はもういない。
その時が、人生で一番泣いた日ではあったけど、今はもうちゃんと整理する事が出来ている。
趣味は読書にアニメ、ゲームは少し。部活動には所属してない。だからと言って、根暗と言うわけでは無いし、何より中学生三年生の時に部活を引退してから、腹筋と腕立て伏せは欠かしていないのだ。
成績の方は中の上で、これと言って特別ではない。
季節は夏。日中に比べて比較的涼しい空気を感じながら15分掛けて自転車で登校していた。校門をくぐり、下駄箱に靴を入れていると、後ろからこの憂鬱な月曜日に相応しくない涼やかな声音が響いた。
「おはよう!如月君」
「あ、おはよう朝霧さん」
彼女の名前ーー朝霧乙葉、十七歳。
俺と同じクラスのニ年生で、新入生ながらも入学したその日から、学校で一番注目を集め続けている人物だ。
何故注目を集め続けているのか、それは彼女の容姿が深く関係している。
紫がかった黒い長髪をツインテールに結い、深い夜を彷彿とさせるような漆黒の瞳。
とても整った顔立ちに身長は160cm。
それに加えて、スラっとした体型に服の上からである程度分かってしまう、バスト。
簡単に言えば、10人中10人が間違い無く美少女と答えるであろう容姿をしているという事。
ならなぜ、フツメンの俺がこんな物語のヒロインのような美少女と友達になれたのか。
それは、入学して丁度ニ週間がたった日の事。
その日は十六夜達が昼休みに用事があるらしく、暇だったので、自分が愛読してる小説を読もうとした時の話だ。
「おっと、」
「はい、どうぞ」
お、 誰かが俺の本を拾ってくれたみたいだ。
「え、」
その時、俺はおもわず固まってしまった。何故なら、目の前には今学校で一番話題の人物
ーー朝霧乙葉がいたからだ。
……マジかー。やっば。思わず固まっちゃったよ……。
と、取りあえず、感謝しなきゃ。
「あーー!!もしかしてこれって……!」
うおぅ!? な、何だ?
それに何だかそこら中から視線を感じるような……。
俺は何とかクラス中から刺さる好奇な視線に晒されつつ平常心を装い聞き返してみた。
「ど、どうかしたか?朝霧さん」
「こ、これってさ、【ケモミミ転生放浪記】だよね!?」
「あ、ああ、そうだけど、この本がどうかしたのか?」
「実はねー、私……この本の大ファンなんだよね!!」
え。ええぇぇええ!?!? ただでさえ少ないケモミミ転生のファンが……朝霧さん、だ……と?
「まさか、こんな近くにファンがいたとは……。」
「ふふふ、そうだね、私も正直驚いたよ」
「俺もだ、こんなシュールな小説を読む人がまさか朝霧さんだったとはな」
「そうだね! じゃあさ……私達、数少ないファンなんだしさ友達にならない!?」
何だ?……この、神展開は?
「え、あ、うん!も、もちろんこちらから宜しく頼むよ」
「うん!宜しくね!如月君!!」
ーーそう、フツメンの俺が超が付く美少女と友達になれた理由、それこそが共通の趣味の話で盛り上がったからだった。何よりコアなファンが多いケモミミ転生ファンにとってこんな身近にいるファンはその時点で仲間に等しい感覚がある。そんな俺達だからこそ、すぐに友達になれたのだ。……何だか今になって思うと、マジで運が良かったな俺。うん、改めて【ケモミミ転生放浪記】には感謝だな。
そんなちょっと前の出来事を思い返していると、
「ねぇ、如月君。私ね? 今日不思議な夢を見たんだー」
朝霧さんがそんな事言い出してきた。
「不思議な夢? どんな感じの?」
「いや、大した事じゃ無いんだけどね、……何だかね、私自身が異世界で勇者?として戦っていて、真っ白い法衣を着た人達に崇められているっていう、ちょっと自分でもよく分からない夢なんだけれど…」
朝霧さんはケモミミ転生などを読んでいるので、案外ラノベ用語などにも詳しい。にしても朝霧さんが勇者って似合い過ぎだろ。
「んー崇められているって言うのは、何だか朝霧さんらしいとは思うけど…。」
俺がそう言うと、朝霧さんは顔を少し赤くして、
「崇められるのは、ちょっと恥ずかしかったんだけどね」
くぅ~~~!! これを天然でしてくる辺りがまたいい……
「あ、あはは、まぁ、それは置いておいてさ、その夢の何が不思議だったんだ?」
「なんて言ったら良いのかなー、妙に現実味があったというか……」
俺たちが会話をしながら教室に入ると、早速俺の席に集まっていた二人が話しかけて来た。
「よっ!」
「おはようアキ」
そう言って挨拶して来たこの二人は小学校からの付き合いがある親友である。
俺の席から見て、右の席に座ってる奴がーー皇 海斗、十六歳。
身長が170cmの俺から見てもかなり低く、155cmしかない。とっても可愛い童顔なので、そういうのが好きな美人の先輩達に何かと暇があれば構われている。実に羨ましい限りと言えるだろう。よく先輩達に詰め寄られて困ってる様子だが、本人も煽てられて悪い気はしてないみたいだ。
そして、俺の席から見て前の席に座ってる男前君は ーー天羽 咲間、十七歳。
朝霧さんと同様に入学当初から話題の人物である。
理由は彼の容姿と性格に関係している。まず容姿から説明すると、日本人離れした彫りの深い顔だちに茶髪茶目。そんな有りえないような容姿をしている咲間だが、それに加えて成績もかなり良く、学年で五番以内に入る秀才で、身長は180cm近くあり、これまた日本人離れした体躯を誇っている。
性格は公正明大。それなのに冗談も通じる。そして鈍感。
これこそまさに、主人公だろう。
ちなみに、入学してから必ずニ週間に一回以上は放課後告白されてるとかなんとか……。
「おはよう、海斗、咲間」
「おはよう海斗君、天羽君。」
ちなみに海斗だけ苗字で呼ばれてないのは海斗が苗字呼びを拒否したからだ。昔から自分では厨二チック思ってる苗字がコンプレックスで、先生にさえも下の名前で呼んでもらえるように頼んだぐらいなのである。
「おはよ!」
「おはよう、朝霧さん」
それもそうだな、こいつにとってはきっと褒め言葉なんだろう。
「ククク…」
急に十六夜が笑いだした。
「……どうした?」
「アキ、聞いて驚け!俺は昨日、王になる夢を見たんだ……」
「「………」」
最近妙に性格が変わってきている海斗を冷めた目で見つつ、咲間に説明を求める。
「いや、海斗が言ってる事を肯定してる訳じゃ無いんだけど、こう言うのには理由があってね……」
そう言って咲間が話した内容は、海斗と咲間自身が昨日見た夢についての事だ。
その夢の内容は、咲間も海斗も、朝霧さんと同じで、どこかで何かしらの状況の中、畏怖や尊敬、忠誠なども誓われていたという。それだけ聞くならよくわからない夢だが、とても夢とは思えない程鮮明だったという。結局、何が何だか理解出来ないまま朝、目が覚めてしまったらしいのだが、咲間達が言いたいのはこの夢の内容ではなく、自分達が夢を見ている中で感じた現実感だそうだ。
「え? それって本当!?」
朝霧さんが驚きつつ聞き返す。
「大マジだぞ!なんだか崇められて気持ちよかったなぁ」
悦に浸ってるよう様子を横目で見つつ、俺達は話を再開した。
「どうかしたのかい?」
「実はね、如月君にはもう言ったんだけど、私も昨日その夢見たんだよね」
天羽は驚きつつ問いかける。
「偶然じゃないのかい?」
「私もそう思うんだけど、咲間君達が夢で感じた現実感っていうのをね、私も感じたの」
朝霧さんは首を傾げている。しかし三人揃って同じ夢を見るとはなぁ。中々好奇心がくすぐられる話だ。
「私も天羽くん達と同じで、なんて言うか、夢とは思えない程の熱気?みたいなのを、現実より強く感じたんだよね」
それはまた具体的な……。
「まさか、な」
「どうした?海斗」
突然顎に手を当てて考え始める海斗。
「……これは恐らく、世界が俺らに何かを伝えようとしているのかも知れない!」
「さすがに、それは考えすぎなんじゃ…」
朝霧さんの言いたい事は最もだと思う。
……だが、やっぱり現代日本に生きる学生としては、心引かれるワードではある。俺は海斗の考察にノッてみる事にした。
「その話聞こう!」
「如月君?」
「また始まったよ…」
「え?」
「朝霧さん。これはね、アキの中のイタ〜イ厨二心が刺激されているんだよ」
「え、如月君て……そういう人……?」
「うん、そういう人」
……何か地味に酷い事言われた気がしたんだが。
「……ったく、俺らはただ単に語り合っているだけなのになー。なぁー、海斗?」
背丈に差があるので実際に肩は組めないが、心の中ではお互いに肩を組む。
「そうだな!アキの言う通りだな」
「だろう? 全く海斗は話が分かるな!!」
「ククク…」
「ハハハ」
「「クァーー! ハッハッハッハ!!」」 」
やはり、心の中に眠る厨二心を押さえる事は無理だったみたいだ……。
「「はぁ……。」」
どこか呆れたようなため息が聞こえてきたのだった。
><><><><><><><><><><><><><
帰ってきてから自室で今朝の事について考えていた。
結局あの後色々考えた俺たちだったが、結論は出なかった。
……と言っても、別に深く考える必要も無いと思うけどな。
それに取り合えず今は、読みかけの小説を読破しなくてならない。
「よし、読みますか!」
ーーそう思い、ベッドの上で本を開こうとしたのだが、徐々に瞼が落ちて来て、その日はそのまま眠ったのだった。