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7 やっぱり私は家出少女

大学までは本当に近かった。

私は唯一の荷物であるジュエリーボックスを樹にもらった紙袋に入れてそれをぶらぶらさせながら彼の後ろを着いていった。せめてスマホがほしい今日この頃。


樹は私の会いたい人の学部を聞いてきた。学部まで案内してくれると言ってくれたが、私はそれを断った。彼には世話になりっぱなしだから、これ以上は頼れないと思った。

彼にその旨を伝えると、理解してもらえたみたいだった。

感謝の言葉を重ねる私に彼は最後に言った。

「ちゃんと今日は家に帰れよ。」


今日の朝はちょっと緊張感のある樹だったが、やはり彼は面倒見がいい人なのだと思う。

本当にいい人に出会えてよかった。

名残惜しいが、彼とはもう会うことはないだろう。

今、彼との接点はなくなった。

時間にしたら少しの時間だったが、こんなに名残惜しく思ってしまうのはきっと。


昨日、はじめて会ったときに思ってしまった。


『この人と結婚するかもしれない』と。


しかし、今は恋だ愛だと浮かれてる場合ではない。お花畑の方に向かう思考に、流されてはいけない。私は流されやすい性格だ。昨日、状況に流されてリリとお茶をしたことで今に至っている気がするのだ。自分を戒める。


それに、樹は親切心だけで私に手を貸してくれたのだ。

私がこんなことを考えていたと知られたら、気持ち悪いと思われるかもしれない。とにかく、今はそんなことを考えている時じゃない。




私は宛もなくキャンパス内を歩き回った。でも、都合よく出会える事なんてなくて。

歩き疲れた私は近くにあったベンチに座り込んだ。ひとつ、気づいたことがある。私はまた方向音痴を発揮していたと思う。景色があんまり変わっていない気がする。


近くを歩く学生たちはベンチで絶望する私なんて目もくれない。

今更ながら知らない場所に一人できてしまった事がひしひしと感じられて、泣きたくなってきた。


リリは過去を変えられないようにしろと私に言ったが、具体的に何をしたらいいのか分からないじゃないか。スマホもお金も、今日の夜の寝床もない。なんならお昼ご飯だって食べれない。

何故私は今こんな思いをしているのだろう。私は昨日家に帰っただけだ。ちょっと進路の事で父とけんかはしたし、父の事をちょっとだけシカトしたりもしたけど。今の状況は私が望んだものじゃない。


ずーんと気が沈んでいた時だった。

肩をとんとんと叩かれた。



反射的に振り向いて驚いた。


「莉桜?やっぱり莉桜だ。どうしてここにいるの?」


「おか・・・!」


認識するのに時間がかかったが、そこにいたのは若い母だった。

「お母さん」と呼ぼうとしたのを必死に押さえた。

間違いない。以前、見せてもらった若いときの母がそこには存在した。


「奏?知り合い?」


母の後ろから声をかけてきた男性をみて私は再度声を圧し殺した。なんと、父までそこには存在した。


「優人君は会うのはじめてだね。この子、私の従姉妹の鈴木莉桜。莉桜、この人は麻生優人君。」



本気で整理させてほしい。

まず、母か父を探せたらと思っていたが二人一緒に出てくるとは思わなかった。そこはいい、お得だったと思うことにする。

母は私を知っていた。

性格には「鈴木莉桜」を知っていた。自分の従姉妹だと父に紹介したのだ。

待って。情報が追い付かない。

ちょっと落ち着かせてほしい。


母は、そんな私の気持ちなんて知らないからポンポンと私に問いを投げる。


「莉桜、学校は?何で私の学校にいるの?おじさんとおばさんはちゃんと今日莉桜がここにいること知ってるの?」



「あー、うん。」

情報を整理しきれない私は生返事を返す。すると母と父は顔を見合わせてしまった。


そして母が恐る恐る聞いてくる。


「莉桜、もしかしてだけど。もしかしておばさんたちに言わずにここに来たの?」


「あー、うん?」

おばさんたちと言うのが誰を指すのか分からなかったので、語尾が疑問系になってしまった。


そんな私の様子を見た母は恐る恐る聞いてきた。

「もしかして、家出だったり・・・する?」



「あー、どうだろう?」


私が答えると両親はまた顔を見合わせた。私には誤魔化すための言葉を準備できなかったのだ。すると、母が私を立たせた。


「何があったかはちゃんと聞くから、とりあえずはうちにいらっしゃい。」

母は慰めるように私に言った。

家出してきた従姉妹と思われてるが、今は流されてもいいのかもしれないと思った。

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