6 気まずい朝
「おはようございます。」
内鍵を開けてそろそろと顔を出す。樹に声をかけられるまで寝ていたのだ、寝癖はついているし顔も洗っていない。リリがせっかく美形の容姿にしてくれたのに、私はもったいないことをしていると自覚している。外見は変わっても内面はそう変わらないのだなとしみじみと思った。
樹は、朝の挨拶を短く返すと、そのまま私に背中を向けて廊下を進んでいく。その背中を追った。
リビングにはコンビニ袋がおかれていて、今わたしは樹とダイニングテーブルに向かい合って座っている。樹がおにぎりとサンドイッチどちらか選んでいいと言ってくれたが、さすが私はそこまで図々しくない。樹に先にサンドイッチを選んでもらい、私は鮭のおにぎりを食べた。その間の会話はなかった。テレビで朝のニュースが流れている。今日は快晴で雨は降らないとかわいいお天気お姉さんが教えてくれる。
気まずい。当たり前だが私たちはほぼ初対面だ。もちろんお互いの事は名前以外知らない。彼がお人好しなのだろうということは昨日の言動から理解しているが、それ以外のことを私はなにも知らない。彼も私のことを知らない。共通の話題がないのだ。
「今日天気いいみたいですね。」試しに無難な天気の話題をふってみた。
彼はちらっと私を見ると「今日は家に帰れよ。」と言ってきた。
それには私は視線をそらして小さく返事をした。無言で私を見てくる。睨まれている気がして嘘の返事をした私はおにぎりを食べることに集中している振りをしてその時間を凌いだ。
「あの、松岡大学ってここから遠い?」
私は勇気をもって聞いてみた。遠かったらどうしよう。昨日の夜は簡単に両親の様子を見に行こうと思っていた。しかし私は自他ともに認める方向音痴で今はナビをしてくれるスマホも、なんなら電車代だってない。
歩いて行ける距離じゃないとそもそも母と父の様子を見に行くなんて無理だ。幸運なことに大学や母や父の実家が近かったら時間をかけて迷いながらたどり着ければそれでもいい。
私は神に祈るような気持ちで樹の返事を待った。
リリが気が利く人であれば。いや、彼女が鬼でなければきっと父や母に接触しやすい場所だろう。でも、彼女少し変わり者っぽかったので少し、ほんの少しだけ不安になる。
「・・・松岡大学の学生、ではないよな?家に帰る気全然ないだろ、お前。」
ちょっと目を細めつつ言われた。なぜだろう、昨日の彼はこちらが心配になるほどお人好しな面が全面に出ていて私は勝手に心配していたが今日の彼はちょっとぶっきらぼうな印象が強い。
そもそも私は素性の分からない怪しい家出少女なのだから昨日の彼の優しさがおかしかったのか。
「・・・大学に知り合いがいるの。その人の様子を見たくて。」
「会いたいんじゃなくて?」
少しだけ肩が揺れてしまった。訳ありっぽい言い方をしてしまった事には気づかされたが、言い訳がすぐには浮かばない。
「・・・そうそう!会いたいんだよね!」
言い訳も浮かばない私は続けて言った。
「で、大学までは近い・・・よね?私方向音痴だから、近いのか遠いのかも実はわからなくて。方向音痴って大変でね、歩いても歩いても目的地につかないの。」
だから、教えて欲しいという言葉は何故か飲み込んだ。
方向音痴なのも、大学の付近なのかわからないのも本当だ。方向音痴が大変なのも本当だ。大学まで近いのかと聞いたのは、リリを信じての言葉だった。いや、願望も入っていた。
私の言葉に嘘はない。
彼は私の様子を少し観察していたと思う。私はずっと目が泳いでたと思う。彼はふっと息を吐くと言った。
「お前の方向音痴、相当だったな。ここ、大学まで徒歩県内。」
「え、そうなの?なにそれラッキーじゃん。」
私の返答を聞いた彼はちょっと肩の力を抜いた様に思う。
彼の雰囲気が本当に少しだけだけど緩まった気がした。
自信ないけど、方向音痴だったことがこの場の空気を緩めた気がする。
そうすると途切れ途切れの会話だったが樹と会話をしながら残りのご飯を食べることができた。
そして会話の中で彼が松岡大学の2年生だということを知り、通学のついでに私も連れていってもらえることとなった。




