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5 鈴木莉桜

結局、樹は友達の家に向かうこととなった。彼は本当に面倒見がいいらしく、鍵をかけ忘れないように言い残して言った。彼の人の良さに私は少し心配になった。見ず知らずの女を自分の家に一人おいておくなんて、不用心だ。私が言える立場じゃないのは理解している。



私はリリに最後に言われた言葉を思い出していた。リリは私が意識を遠くする時に言ったのだ。

「見た目がちょっとだけ変わってると思いますが、必要なことですから驚かないでくださいね。」

彼女はそう言ったが、驚かないなんて無理な話だった。先程お風呂に入った時に確認した私の容姿は鼻筋が通っていて、二重が綺麗に入っていて。そして目がくるんとしていて。これ以上続けると悲しくなるのでここまでにしておくが、とにかくそこにいるのは私ではなかった。

比べるような言い方をするのは嫌だが私より断然可愛かった。桜子としての見た目がキウイだとすると、今の容姿は洋梨だ。この例えはうまく伝わらないと思うが、うまい例えが出てこない。ただ、私はキウイ好きだからいいんだと、ちょっと自分を励ます。


美女になって悪い気はしない。まぁいいかと納得した。洋梨よりキウイ派なのは変わらないが。


どうやって容姿を変えたのかは気になるが、タイムマシーンを持っているリリがやった事だ。考えても分からないだろう。




私は思考を切り替える。

ここは過去の世界だ。樹の言った日は23年前。

リリは私に、過去を変えさせるなと言っていた。

お母さんの未来が変えられようとしている。そういうことだと思う。


昔、聞いた話を思い出す。確か父と母は高校で出会って同じ大学に進学。そして社会人生活を経て父と結婚、私を出産した。

ドラマであるような劇的な出会いをした訳でも両親に反対されて駆け落ちしたとか、そういうエピソードはなかったはずだ。少なくとも私が知る限りでは。


そうそう、私がまだお腹にいたとき母は陣痛がきて焦ったと言っていた。陣痛が来たとき、父は地方に出張中で、母は一人で病院に移動しようとした。初産で、不安もあったと思う。買い物の帰りの電車の中で痛みだしたらしく、とにかく電車を降りた。公共交通機関での移動なんて考えられないほどの痛みだったと言う。電車から降りてタクシーを捕まえようとしたがタクシー乗り場まで中々移動できなかったらしい。その時、優しいイケメンのおじいさんが母を助けてくれたらしい。70台は過ぎているだろうおじいさんは、母をタクシー乗り場まで連れていき病院まで同行してくれたらしい。


それだけでもなんて優しい人かと思うがまだ続きがある。なんとそのおじさま、痛みで意識が朦朧としている母のために父、母の携帯から父に連絡までしてくれたらしい。その後陣痛に耐える母をしばらく励ましていたが、私のおばあちゃんが病院についた頃にはすっといなくなっていたらしい。母はお礼もまともに言えなかったと後悔しているらしい。


父は結局、私の出産には間に合わなかった。父はとても残念がっていたらしい。そして奇跡と言えるのは、母が陣痛のために降りた駅で通り魔が出たらしい。母が利用していた時間帯に近かったらしく父も母も陣痛に感謝だと言っていた。そもそも陣痛がなければその駅を利用したのかという疑問があるが、二人が納得しているのだ。突っ込む必要はない。


母と父の馴れ初めから、ついつい何度も聞かされた私の出産時のエピソードまで関連して思い出してしまったが今大事なのは父と母の馴れ初めだ。

残念ながら、私はこれ以上の話を聞いたことがない。母に聞いたことがあるが、照れ臭いのだろう。それ以上は教えてくれなかった。


どうしよう、ヒントが少ない。

今は4月だと言っていた。23年前の4月、父と母が松岡大学に入学する年だ。

大学に行けば父と母に会えるのではないか。父と母が大学にいれば、ここは過去だということが決定する。そしてリリの言葉を私は信じるしかなくなるのではないだろうか。いや、すでに結構信じている。


とにかく、明日樹に泊めてもらったお礼を言って松岡大学へ向かう。そして母と父の様子を確認しよう。それから、今後のことは考えよう。


今まで流されるままに生きてきた私は考えることを面倒に思うところがあった。この状況ではちゃんと考えないといけないと自分に言い聞かせた。正直、思考を巡らせることは今でも面倒だ。


私は樹の言いつけ通り玄関の鍵も貸してもらった部屋の内鍵もしっかり閉めて寝た。

慣れない事をすると疲れる。

一瞬で朝が来た気がするのはきっと疲れていたからだろう。



部屋をノックする音で目を覚ました。返事をするとドアを挟んで問いかけられた。

「おにぎりとサンドイッチ買ってきたから出てこい。」

やはり樹はいい人過ぎて心配になった。



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