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16 優しい

梨佳は私を奏の学部に送ると、手を振って自分の学部に向かった。

4人は学部は違うが吹奏楽のサークルで一緒だと聞いた。

全員の学部は把握していないが、この大学には音楽学部はないと聞いたので4人とも趣味の範囲内で楽しんでいるのだろう。


梨佳を見送りながら思った。

正解なんてわからないからもう流れに任せてみようかなと。樹のことを好きだし、樹が仮に私の事を好きになってくれたら奏と優人の障害はひとつ減る。

梨佳の事を考えると心苦しくなる。梨佳は、私の恋を応援してくれた人なのに私は彼女の恋を応援できない。その事に罪悪感を感じたら私は動けなくなってしまう。だから、仕方ないのだと私は自分に言い聞かせた。



「莉桜?」

「奏ちゃん。忘れものだよ。」

ちょうど講義が終わった奏と会うことができ、そのまま一緒に食堂で昼食を食べることになった。

忘れ物を届けたお礼に、奏が奢ってくれた。

ちなみに、今日は喫茶店のお手伝い中だったが奏がおじさんには連絡をしてくれたので時間を気にせず心置きなく楽しむことができる。


二人で日替わりランチセットを頼んで向かい合って座る。

ご飯を食べながらたわいもない話をする。

途中で奏の友達だろう、話しかけられて奏は申し訳なさそうに中座した。気になしないように伝え、そのままランチをセット食べ進める。ふと視線をあげたときに、目に入った。


「樹さん!」

少し迷ったが、勇気を出して声をかけると樹は私を見つけた。

そして少し回りを見渡して、奏の食べかけのランチセットを見た。

「奏と一緒?」

私が頷くと、なにも言わずに樹はその場を離れた。その姿を私は目で追う。樹は食堂で私たちと同じランチセットをもって来て、奏の隣に座り食べ始めた。

梨佳の全面のアピールで隠れているが、樹もグイグイ押すタイプらしい。奏が一緒じゃなきゃ彼は今ここにいないだろう。



「昨日はすみませんでした。途中で帰っちゃって。」

私が言うと、樹は食べ物を飲み込んでから言う。

「昨日は迷わずに帰れたのか?」

「・・・何とか。」

「そんなに遅い時間じゃなかったけど、夜に迷ったらとか考えろ。」

昨日は勢いでお店を出たし、たまたまリリがいたので迷わずに家にたどり着くことができた。私の方向音痴では朝まで家にたどり着かず奏やおじさんおばさんに迷惑をかけていた可能性もあったのだ。

今更ながらにその可能性に気づいた。

私は素直に謝る事にした。すると樹はそれだけじゃないと言葉を続けた。

「補導されるぞ。補導されたら内申書響くぞ。補導されりゃまだ安全だけど不審者とかもいるんだ。前から思ってたけど危機感なさすぎ。」

樹は真剣に怒ってくれていた。

冷たくされたり、優しくされたり彼のことは全然わからないけど少なくとも私に関心を向けてくれているという事が私は嬉しかった。

嬉しさからにこにこしていたら反省していないと思ったらしい。

樹はため息をついた。


「樹さんは優しいよね。」

私が言うと樹は眉を寄せる。

「私、樹さんのこと好きです。」

自然と口にしてしまった言葉に樹はさらに眉を寄せた。




「・・・は?」

低い声は樹のもので。

私は自分が勢いで口にしてしまった言葉を振り返っていた。

「・・・あれ?私今何て言いました・・・?」


時間差で顔が熱を持つ。私はさらっと告白してしまった。焦りすぎて次にどんな言葉を口にしたらいいのかわからない。というか、告白した言葉に対する樹の態度もひどいとは後から思った。


「そういやお前毎日ふらふらしてるけど高校生だろ。早く家帰れよ。出席日数とか大丈夫なのか?」

すぐに話を切り替えた樹には、私の告白は聞こえてなかったのかもしれない。

混乱したままの私はあまり考えずに彼の言葉に答えていた。

「・・・実はしばらく奏ちゃんの家にいることになってて。たまに学校にはちゃんと行ってる。」

「不良少女め。」

「・・・不良じゃないもん。」

樹の様子からして、聞こえてなかったのだろう。そう思えたのは友達に呼ばれて席を離れていた奏が戻ってきたときだった。私より後からランチセットを食べ始めたのに樹は私より早く食べ終わり、席を立とうとしていた時に奏が帰ってきた。

奏が帰ってくると、席を立つことは止めたらしくそのまま奏と話を始めた。


樹と二人で話しているときは、不自然に話を途切れさせないように必死にしゃべっていた。その間も焦りを覚えていて落ち着かなかった。

奏が来てくれたお陰で私はランチに集中するふりをすれば少し静かになっても不自然ではない。その事に安堵する。

何より二人の会話は盛り上がりを見せており、私は自分の気持ちを落ち着かせる事に集中できるはずだった。 


が。


結論から言うと二人の仲のいい様子に今度は胃が痛くなり気持ちもざわざわし始めたため気持ちは落ち着かないままだった。

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