14 夜道での再会
こんな気持ち、気づかなければよかった。いや、抱かなければよかった。
胃痛は収まってくれない。
奏と樹が抱き合っていた姿が焼き付いてしまった。
でも、私がバカだったんだと思う。
だって、私は未来から来ているから樹を好きになったところでどうにもならなかったのだ。樹とは生きている時間軸が違う。
それに私は本当は鈴木莉桜ではないし、容姿だってこんなに美少女じゃない。
今の私は偽物だ。この気持ちを育てては行けない。本能的にそう思った。
優人と梨佳の場所には戻る気にならなくて、でも奏と樹にも顔を会わせられなくて。私は居酒屋の店員さんに優人たちに先に帰る旨の伝言をお願いして一人で妃家を目指した。
4月とはいえ夜は冷えるが、今はちょうどよかった。
一人で夜道を歩きながら考える。考えたくないけど考えてしまう。
樹と奏がもし付き合って、結婚したら。私の存在はいなくなる。
私は自分がいきるために奏と優人にこのままお付き合いをしてもらう必要がある。そのためには樹の気持ちが報われてしまっては困るのだ。
私は樹の邪魔をしないといけない。それって、樹に嫌われる役割だ。気が重い。
「こんな夜道を若い子が一人で歩くなんて、危ないじゃないですか。よくありませんよ。」
隣から聞こえてきた声に私はふっと顔をあげた。
「・・・え!リリさん!?」
「5日ぶりです。こちらでの生活はどうですか?」
「待って、リリさん!聞きたい事がいっぱいあって」
私が詰め寄ったからかリリは私の両肩を付かんで距離をとらせた。
「落ち着いてください、私には時間がありません。桜子さんがたくさん疑問に思っている事があるでしょうが全てにお答えすることはできません。なので大切なことだけお伝えします。あと、リリと呼んでください。さん付けは不要です。」
そう言うと、リリは歩き始めた。
リリが向かう方向は、妃家の方向だ。
私は黙ってついていく。
方法や理由については全く説明を行わず、私が奏の一家に従姉妹として認識されているのは自分がそうさせたのだと言った。リリは時間がないと言っていたので、何故やどうしてという疑問はとりあえず口にしないで聞くに徹する。
そしてジュエリーボックスを私が持っている事を口頭で確認する。私が頷くと、改めてジュエリーボックスを絶対に無くさないように念押ししてきた。
「今後桜子さんにはほとんど会えないと思います。できる限り、桜子さんの状況を確認してアシストできるようには努力します。」
そうして続けた。
「5日に1回、リンゴを送ります。そのリンゴは他者には絶対に食べさせず桜子さんが食べてください。『白雪姫の毒リンゴ』という商品で、鈴木莉桜の姿を持続させるために必要なものです。リンゴの効果が切れてしまったら、麻生桜子の姿に戻ってしまいます。麻生桜子がこの時代に存在すると、いろいろと支障があるので絶対に食べ忘れたりしないでください。」
「毒リンゴ・・・。」
私は、とんでもないものを食べさせられていた様だ。
「商品名なので、気にしないでください。発明者が白雪姫のストーリーを偏愛している事からつけられた名前なので。そんなことよりも、集中して私の話を聞いてください。」
色々と引っ掛かることはあるが、リリは焦ってるように見えた。リリとの付き合いはそう長くないが、そんな私でも分かる程だった。
話をしながら二人で歩いてきたが、ちょうど妃家についた。家は真っ暗だが私は鍵を預かっていたので、鍵を開けてリリを振り返る。
リリは悪い人ではないと思うけど、ここでは私も居候だ。家に招いていいものか。
そんな私の疑問を読み取ったのかリリは首を振った。
「桜子さん、あなたが忘れないように何度も言いますが、あなたは自分で自分の未来を守らなければならないのです。手段を選んでる場合じゃありません。利用できるものは利用して、必ず目的を果たしてください。・・・・・あと・・・なおと・・・・・。」
リリは私の目の前から消えた。
最後に彼女は何を伝えたかったのか、このときの私には知る術がなかった。