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13 胃痛

立ち上がった奏の表情を恐る恐る伺うように見たのは私だけではなかった。優人も、私と似たような反応を見せた。


急に立ち上がり、4人の視線を集めた奏にみんなが注目するのは必然で奏の出方を皆が見守っていた。

しかし、奏は何も言わずにそのまま部屋を後にした。優人がそれを追おうとしたが、梨佳に抱きつかれたままだったし、優人が動き出すより先に樹が席を立った。


樹と奏が出ていった後、残された3人の中には微妙な空気が流れた。今日のお食事会、ずっとそんなである。

私はつい、優人を睨み付けた。こいつがもっとしっかりしてれば。そもそも男なんだから女から抱きつかれても離れさせろよ。我が父ながらなんとも情けない。いや、父だからこそ情けないのかもしれない。


「奏ちゃん、どうしたんだろうね?」

梨佳が呑気な声で言う。それに対し、優人は「あー、実はさ。」と話を切り出した。


「言わないといけないと思ってたんだけど、俺彼女がいるんだよ。」

抱きつかれた姿勢のまま、優人は言った。

「それって奏ちゃん?」

先程と変わらない呑気な口調で梨佳が聞く。

「え、気づいてたの?」

優人が聞いたが、気持ちは私と一緒だった。

それに対して明るく笑いながら頷いた梨佳。

「梨佳そう言うのわかっちゃうよ。でも別に関係なくない?私が優人君を好きなのと、優人君と奏ちゃんが付き合ってるのは別の話でしょ?」

梨佳の言葉に私と優人は首をかしげる。

「誰かと付き合ってる人を好きになっちゃいけないなんて誰が決めたの?別に結婚してるわけでもないし。」

梨佳が言いたいことがぼんやりと分かる。言葉は理解できるが内容がすんなり入ってこない。それはきっと恋愛に対する価値観の違いからだろう。優人も私と似たような反応だった。



と言うことは、今までの梨佳の行動は優人と奏が付き合ってることをわかった上でのものだった。そういう考え方もあるのだろうとは思う。梨佳の考え方を否定しようとは思わない。しかし私は今日初めて会った梨佳よりも未来の母である奏の方が大事で。私の大事な母を傷つけられたように感じてしまって。梨佳の考え方を好きになれそうになかった。そして樹も奏が優人と付き合っていることを知りつつ告白していた。それも、わからなかった。やはりまだ浅い付き合いだから、自分の気持ちを優先するのだろうか。


優人は抱きついていた梨佳に離れるように言った。梨佳はすんなりと離れて、優人と向き合うように座り直した。


「梨佳ちゃんの気持ちは嬉しいけど、俺には奏がいるから梨佳ちゃんの気持ちは・・・迷惑だ。」

はっきりと言った優人の言葉に、私は今まで感じていたイライラが薄れていくのを感じた。

過去にきて、はっきりしないし母以外の女の子にデレデレするしの父しか見てなかった。正直、優人に対する評価は下がる一方だったがここに来て回復の兆しを見せた。



「わかったよ。でも梨佳諦めないよ?だって今は梨佳の気持ちは迷惑かもしれないけど、明日には梨佳の気持ちが迷惑じゃなくなるかもしれないじゃん。」


梨佳は、私が持っているよりもずっとメンタル強めのハンターなのだと、この言葉で私は理解した。



それから10分程たっても奏と樹は帰ってこなかった。梨佳は相変わらず優人にアプローチをかけていて、優人はのらりくらりとそれを交わしつつ奏と樹の様子が気になるような素振りを見せていた。


「奏ちゃんどうしたのか気になるから探してきます。」それに私の精神衛生上ここに留まる事はよろしくないので退散します。心の中で一文付け足すと、部屋を後にした。何故私は未来の父が口説かれる様子を見ないといけないのか。普通に地獄だった。


「いってらっしゃーい。」

梨佳が言う。梨佳からしたら、私が居なければ優人と二人になれたので、邪魔だったのだと思う。

優人は奏の様子が気になったのだろう。私が部屋を出ると言ったときホッとしているようだった。恐らくだが樹と出ていった奏が気になるが梨佳が探しにいくタイミングを与えてくれないので困っていたのだろう。



樹と奏は偶然にもすぐに見つかった。

お店を出てすぐ、私たちがいた居酒屋とお隣の建物の間。街灯もないし、人がいるなんて思えない場所。

声をかけようとして私は言葉を飲み込んだ。


奏は泣いているのか嗚咽が漏れ聞こえていた。そして奏を抱き締めてあやすように背中を優しく擦る樹の姿がそこにはあった。



びっくりした。二人の姿を認めた後反射的に視界から二人を追い出した。

じわじわと胃痛がおそってくる。

その時私は理解した。本当は優しいのに、何故か私に冷たく接してくる樹。そんな彼を私は気になっていたのだ。

そして樹は私の未来の母を好きなのだ。

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