12 梨佳という女の子
梨佳という女の子を見たとき、抱いた印象は「女の子らしい」だった。ブラウスにスカート、パンプスにカチューシャと女の子らしい装いで私の好感度は高い。
そんな彼女の印象ではあったが、優人と梨佳が一緒にお店に入ってきた時に緊張を覚えたのは私だけではないと思う。
喫茶店に入ってきた梨佳は優人の袖を握りちょっと照れたように下を向いていた。それに困ったように笑うもされるがままの優人。すんっと表情を失くした奏。表情は読めないが、三人の顔を確認した樹。
私は状況をみて思った。これは、優人は流石に振られるのではないだろうか。そしてそれは仕方ないのではないか。私は奏の顔を見る勇気を持てなかった。
そもそもなぜ4人でご飯に行くことになったのか。それはすぐに判明した。提案者は梨佳だった。4人でおしゃべりをしている時、梨佳は優人に二人でご飯に行こうと誘ったらしい。優人はそれを断りきれず、しかし2人で行くのはさすがに不味い。そのため4人で行こうと提案したらしい。梨佳はそれに渋々了承し、今回のお食事会となった。
優人のあまりの不甲斐なさに、ちょっと呆れてきた。父に感じたことは無かったが、この時代の優人は流されやすすぎる。ちょろい。私も流されやすいが、優人も大概だと思う。
4人が喫茶店を出てお店に向かおうと準備をしているとき、お店の電話がなった。電話対応をしたおじさんが、今にも喫茶店を出ようとしている奏を呼び止めた。そして少しの間おじさんと奏は話をしていた。
おじさんとの話が終わると、奏は3人の顔色を伺いながら言った。
「申し訳ないんだけど、両親の知り合いに不幸があったみたいで。両親はお通夜に行かなくちゃ行けないんだけど、そうすると莉桜一人になっちゃうんだよね。心配だから、もしみんなが良ければ莉桜も連れていってもいいかな?」
実は、私の子とも連れていってくれないかなとは思っていた。だけど行ったところで絶対煙たがれるし、連れていってほしいと言うには理由も思い付かないから諦めていたところだった。奏だって、友達との場に私がいたら嫌だろう。それに、おばさんはコロッケ作りに意欲的だったから、コロッケを食べる人が減るのは申し訳なかった。
今日だって普通高校生だったら一人で留守番くらいできるし、ご飯の心配もない。
だけど私は現在家出少女。
要は信用がない。
おじさんとおばさん、奏はそこを心配したのだろう。
3人は快諾してくれた。
奏もホッとしている様子だった。
私が迷惑をかけてはいるのだが、申し訳なくなった
居酒屋に着くと、梨佳はすっと優人の隣に座った。
向かいの席に樹と奏が座る。奏に隣に座るように促されたが、そうすると奏と樹の席が狭くなってしまう。私はおまけで連れてきてもらったので、出来るだけ目立たないようにしようと決めていた。なので一人お誕生日席に座った。
そして未成年たちの居酒屋パーティーが始まった。
言わせてほしい。
梨佳は凄かった。
途中から私にはハンターにしかみえなくなっていた。男を刈るハンター梨佳は積極性の塊だった。
ちょっとずつ席を詰めて行き、ボディタッチは当たり前。優人の飲み物を味見したいと言って間接キス。最後は酔ったふりをして優人にもたれ掛かる。
思い出してほしい。お酒は飲んでいない。何故ならこの場にいる全員が未成年だからだ。酔うはずがないのだ。
何だか、勝手に私が想像していたイメージとは違っていた。別に梨佳は悪くない。ただ、自分に正直なだけだ。そう思うが、梨佳の積極性が優人に発揮されると私は困ってしまうのだ。
奏は樹と喋りながらも、終始梨佳と優人の様子を気にしていた。
私は段々優人にイライラしてきた。私もジュースしか飲んでいないが、場所の雰囲気にのまれたのか貧乏揺すりをしてしまった。堀こたつの席で、誰にも気づかれない事は承知の上での行動だった。
そしてそんな中梨佳が言った。
「梨佳はこんなに優人君のこと好きなのに、なんで梨佳のこと好きになってくれないのー?」
そう言って、優人に抱き付いたのだ。
その場の空気は最悪だった。優人は流石に梨佳に離れるように言うが、梨佳は「やだー」と言いながら離れない。
そんなとき立ち上がったのは奏だった。
私はつい、心の中で「ひぃ!」っと声をあげた。実際に声が出なかった事は誉めてほしい。
未来の母には何度も怒られた経験があるので、条件反射だ。私がびっくりするのは仕方ないと思う。
奏は怒っていた。すごく、すごく怒っていた。