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勇者パーティーの魔術師  作者: 楠樹木
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魔術師と騎士と罵り合い

「ユーリ君、君の力がどれほどのものか是非見せてくれないだろうか。」


いつの間にかそんな話しになっていた。


「いやだよ。俺は別に旅とかしたくねえし。しかも勇者の旅だろ。お断りだ。」


俺の発言にカンデラさんや後ろの騎士たちは目を丸くした。

こいつらは俺が行きたがっているとでも思ったのだろうか。


「勇者様のパーティーメンバーですよ!?受ければ莫大な額の報奨金も出ますし、名声も手に入ります。なにより魔王が討伐されれば、救国の英雄として後世に語り継がれます!」

「だからなんだよ。金なら稼ぐ手段はいくらでもあるし、名声なんぞこっちから願い下げだ。ましてや救国の英雄?ふざけんな!そんなのになるくらいなら盗賊にでもなった方がましだ。」


この話は俺にとってメリットが限りなく少ない。


「ほ、ほんとうにお受けいただけないのでしょうか?」

「当然だ。悪いが他をあたって…ってなんだよシルヴィ。」


きっぱり断ってこの話を終わらせようと畳み掛けたが、言い切る前にシルヴィに服を引っ張られた。

どことなく悲しそうな顔をしているのは気のせいだろうか。


「ユーリ。いかないの?」

「ああ、いかない。」


首をかしげながらシルヴィが聞いてくるがおれの心は変わらない。


「そっか。」っとつぶやくとシルヴィがカンデラさんの方に向き直る。


「わたしも、いかない。」

「ええっ!?」


先ほどの繰り返しのようにカンデラさんたちが驚く。


「別にお前はいってきていいんだぞ。俺にあわせる必要はない。」

「ううん、ユーリが行かないなら行かない。いっても意味ない。」

「でもほんとは行きたいだろ。」

「…うん、ちょっと。」


昔は自分の殻に閉じこもり気味なやつだったが、いつからか好奇心旺盛になり色んなことに首を突っ込みたがるようになった。

皇后様の件も好奇心が疼いた結果だろうな。


「なら行って来いよ。俺はこの村で研究を続けるからよ。」

「ユーリが行かないなら、行かない。」

「…そうかよ。」


ちょっと怒ったようにむくれながらシルヴィが言う。

シルヴィは見かけによらず頑固なところがあり、一度決めると滅多なことでは曲げない。

こいつがこう言い出したら納得するしかないのだ。


「つーわけで申し訳ないが二人とも辞退だ。王都に戻ってそう伝えてくれ。」

「なんだよ、ただのチキン野郎か。」


話は以上と席を立とうとすると後ろの方から声が聞こえた。

声の主はどうやら先ほど俺に空気弾をぶつけられた騎士のようだ。

軽薄そうな表情を浮かべた騎士のイメージにそぐわない男が前に出てくる。


「あぁん?いまなんつった?」

「女の子のわがまま一つ聞いてやれねえ甲斐性なしのチキン野郎がって言ったんだよ。」

「お、おいアングラス。いくらお前でもちょっとは慎んでくれるとわたしも助かるんだが…。」


カンデラさんはおどおどしながらアングラスと呼ばれた男を窘めるがそれでも止まらない。


「カンデラさん、こんな奴に世界が救えるわけねえよ。こんな器のちっちぇえ人間に助けてもらう必要なんてねえ。こんなガキが行くならおれが変わりに行った方がましですよ。」


これには俺もカチンときた。


「その他大勢の分際で何吠えてんだ?明らかにおれより雑魚じゃねえか。」

「あん?ガキに負けるほど軟な鍛え方してねえよ。てめえこそそのひょろっひょろのスケルトンみてえな体でおれより強いってそれ田舎流のジョークかなんかか?。」

「脳みそまで筋肉で構成されてるトロールに言葉を理解しろって方が無理か。人間の言葉で話しかけてすまんな。」

「このガキ…!いい度胸してんじゃねえか!やんのかコラ!」

「おお!やってやろうじゃねえか!さっさと表出ろやこのウスノロ!」

ぜってえ痛い目見せてやる。




村の外の平原でおれたちは睨み合う。

騒ぎを聞きつけた村人も集まってきている。


「な、流れはあれだがユーリ君の力を見せてもらえるのはありがたい。ジャッジは私がしよう。」


カンデルさんがアングラスの後ろに立ち簡単なルールの説明を始めた。

武器は所持しているものを使用。

相手の殺害は禁止、重大な後遺症が残るような攻撃も禁止、できれば寸止め。

魔法の使用は自由だが、殺傷の威力の高い魔法の使用は禁止、また周囲を巻き込むような魔法も禁止との事だ。


「それともう一つ、俺が勝ったらシルヴィちゃんをもらおう。」


アングラスが意味の分からんことを言ってくる。


「シルヴィは幼馴染だが、おれのものってわけじゃねえぞ。それをおれに言われてもどうしようもねえよ。」

「そうかよ。じゃあ俺が勝ったらてめえは二度とシルヴィちゃんに近づくな。」

「おう、それなら俺が勝ったら王都への帰り道は馬の代わりにお前が馬車を曳いて帰れよ。」

「はっ!余裕だぜ!」


睨み合いながら言葉を交わす。

ちらっとシルヴィを見ると相変わらずボーっとしながらこちらを見ていた。


「なんだおまえ、もしかしてシルヴィに惚れたか。」

「これから会えなくなるてめえには関係ない話だ。」


そういいながら、アングラスは背中に背負っていた大剣を構える。

俺はと言うと棒立ちのままシルヴィの事を考えていた。

シルヴィに男ができるのはシルヴィの勝手だ。

実際村中の若い男がシルヴィに好意を持っているし、街を歩けばいけばいろんなやつが振り向くだろう。

だが俺には関係の無い話だ。

たとえこの目の前のいけすかない野郎と付き合おうがおれには何の関係も…。

いや、だめだ。なんかいらっとする。

頭の中でこいつとシルヴィが笑い合っているのを想像して口がゆがむ。

殺したり、後遺症を残しちゃダメなんだよな。それ以外なら何でもいいんだよな。


「それでは、はじめ!」


どうやって倒してやるか考えている間に開始の合図が出ていた。


「うおおおおお!」


雄叫びをあげながら上段に大剣を構え突進してくるアングラス。

見た目通りパワーで押し切るタイプなのだろう。

対するこちらは素手。剣の間合いに入れば不利だろう。

一度遠ざける為にウィンドウォールをアングラスの前に展開する。

それなりに重そうな甲冑を着込んだアングラスだが、風の勢いが強く後方へ押し飛ばした。


「やっぱ無詠唱が使えるのか。ちょっと厄介だな。」


吹き飛ばしたと思ったが綺麗に開始地点に着地し、俺を注意深く観察してくる。

一瞬で相手を見抜き、冷静に分析できるのはそこそこ実戦慣れしているのだろう。


「おいおい、いつまで亀みたいにノロノロしてるつもりだ。来ないならこっちから行くぞ。」


お互いの距離は15m程で、剣では遠いが魔法なら必中の範囲だ。

空中にさきほどぶつけた空気弾、風属性初級のウィンドボールを10個程生成するとアングラス目掛けて一斉に飛ばす。

普通の魔術師なら詠唱時間もかかるのでこの距離でもやや不利だが、無詠唱の使える俺にはただのキリングゾーンだ。

飛ばした空気弾が当たる瞬間、アングラスが剣を振ったかと思えば空気弾が全て消えていた。


「魔術師対策をしてないとでも思ったか?はっ、残念だったな。」

「おいおい、珍しいもん使ってんじゃねえか。」


どうやらアングラスの使っている大剣には魔力を退ける効果が付与されているようだ。

魔法効果の付与がされた道具というだけでかなりの希少品だが、魔力で魔法を打ち消すという矛盾を孕んだ武器はさらに希少だ。


「その剣に興味が出た。俺が勝ったらそいつを貰うというのはどうだ?」


あれを研究すれば対魔法の研究が一気に進みそうだ。


「こいつはうちの家宝でね。それは聞けねえ話しだ。」

「ちっ…、じゃあ少し調べさせるだけでもいい。」

「まあそのくらいならいいけどよ。そういう事は俺に勝ってから言いな!」


今度は剣を下段に構えて向かってくる。

またウィンドウォールで弾き返そうとするがアングラスが振った剣で真っ二つにされた。

しかし、それだけでは終わらない。


「もらっ、うお!」


返す刃で俺を狙ってくるが、やつの足元に設置したウィンドボールを爆発させ、風圧で態勢を崩したアングラスは計算通り俺の目の前に跪く形になった。


「これで、終わりか?」


アングラスの顔の前に手のひらを向ける。


「んなわけあるか!」


跳び起きたアングラスは大剣を再度振るってくるが魔法の発動の方が圧倒的に速い。

ウィンドウォールで吹き飛ばし、最初の位置に戻してやる。

さすがにあの体勢からでは対処出来なかったのか、今度はうまく着地出来ずに仰向けで地面に転がった。


「おい、まだやるか?このままやっても俺が勝つと思うが。」

「どこまでも舐めやがって。本当は使いたくなかったが、仕方ねえ。後悔しても遅いぞ!」


やつが何かを発動した瞬間、違和感が体を包んだ。

咄嗟にウィンドウォールを発動しようとするが、魔力が上手く形にならずに発動しない。


「これでお前はただのひょろっちいガキだ。どうだ?降参してもいいぞ。」

「魔法封じの結界か。厄介なもんを…。」


やつの言葉を無視して対策を立てる。

対処法はいくつかあるが、一番シンプルなので行くか。

アングラスは好機と思ったか、一気に距離を詰めに来た。

この対魔法結界によほどの自信があるのだろう。

アングラスが眼前に迫り剣を振り上げているのを見ながら


俺はウィンドウォールを展開した。


「はぁ!?」


この結界の中、魔法を使ったのが予想外だっただろう。

躱すでも剣で切るでもなく真正面から風圧の壁に激突し先程よりさらに後方に吹き飛んでいった。


「てめえ、なんでこの結界の中で魔法を!?」


その声は驚きに満ちていた。


「この対魔法結界はそんなに強いもんじゃねえからな。この程度の魔法ならさっきよりちょっと魔力を込めてやればなんともねえよ。それより…」


種明かしをしながら結界など物ともせず、ファイヤーボール、ウォーターボール、ウィンドボール、サンダーボール、ストーンバレットなど、俺が使える各属性の初級魔法を背後にいくつも展開、待機させる。


「おいおい…。冗談だろ…。」


どうやら完全に戦意を無くしたようで、覚悟を決めた顔で目を閉じた。


「そこまで!ユーリ君の勝利だ。」


そこにカンデルさんの声が入って来た。

勝敗が決まった瞬間、村人たちの歓声と騎士達の動揺した声が聞こえてくる。


「ユーリ君。ユースティス様から聞いていたが、まさかここまでとは…。」


何を聞いたか知らんがこの戦いで全然力出してないんだが。というかあいつが思ったより弱かった。


「あのアングラスは口は悪いが、実力は騎士団内でもかなりの上位の実力者でね。特に対魔術師戦では無類の強さを誇っていたのだが。そのアングラスを魔術師でありながら、子供扱いとは…。さすがは大賢者ユースティス様の弟子なだけある。うむ!この強さなら問題ない!いや、問題ないどころか君しかいない!さあユーリ君!私と一緒に王都に行こうではないか!さあ行こう!早く行こう!おいアングラス、いつまでそうしているつもりだ!さっさと支度しろ!あぁ、そういえば貴様が馬車を引いて帰るのだったな!さあ、さっさと支度しろ!ささ、ユーリ君とシルヴィさん。こちらの馬車に乗ってください。王族御用達ですから、乗り心地はかなり良いですぞ。」


おおう…。

一気にキャラ変わったな。

心なしかアングラスへの態度も豹変した気がするし。

というかそもそも。


「だから俺たちは行かないって言ってんだろ。」


「なんでええええ!!」


カンデラさんの悲痛な声が村中に響き渡った。


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