勇者と魔王と世界の歴史
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「青ガキ!青ガキはおるか!?」
突然の怒声でたたき起こされた。
どうやらジジイが帰ってきたようだ。しかも機嫌が悪いらしい。
ドスドスとやかましい足音が俺の部屋に近づいてくる。
その後ろからいくつかのカシャカシャと金属が擦れる音と複数の足音も聞こえる。
ジジイが起こっている理由はよくわからないが、昨日村長の家で何かあったことだけは間違いないだろう。
寝起きのぼーっとした頭でそんなことを考えていると扉が勢いよくあけられた。
「青ガキ!おるか!」
「朝からうっせーよジジイ。そんな怒鳴らなくたって聞こえてるよ。ジジイじゃあるまいし。」
寝ぼけ眼でジジイを見ると、憮然とした顔が目に入る。俊のことを言われるのがそんなにいやなのか。俺にはまだわからんな。
「君がユーリ君か。朝から騒がしくして申し訳ない。」
ジジイの後ろから高そうな衣服をまとった小太りのおっさんが、申し訳なさそうに頭を下げる。
その後ろには数人の騎士の姿も見える。
昨日王族の馬車に乗っていたのはおそらくこいつらだろう。
「ユーリ。どうしたの?」
さすがのシルヴィも騒がしさに目を覚ましたようだ。
起き上がろうとするがさすがに知らない奴らにシルヴィの下着姿を見せるのはまずいと思い、シルヴィにシーツをかけてやろう。
シーツを体に巻いたシルヴィがベッドから体を起こすと場の空気が凍りついた。
小太りのおっさんはきょろきょろと所在なさげに視線をさまよわせ、後ろの騎士たちの反応は様々だがやたらじろじろ見ている騎士になぜか腹が立ち、魔法で作った空気弾をぶつける。
「ほう…。」
一瞬小太りの男が眼を鋭くしてこちらを見たが、またシルヴィが視界に入ったのかあわてて視線を泳がせた。
「で。ジジイこれはいったいどういうことだ?」
このままでは話が進まなさそうなので、強引に進めるか。
「おっと、これは失礼。私どもの予想から大きく外れた衝撃的な場面だったのでちょっと面喰ってしまいまして。わたしはシールスタッド王国で宰相を担っております、カンデラと申します。」
ジジイの代わりに前に出た小太りなおっさんは、丁寧なあいさつをしながら話し出した。
「今回は大変重要な案件でユースティス様を訪れたのですが、話し合いがまとまらず、遅くまで議論しておりまして。朝早くに来訪してしまったこと謝罪いたします。それで…」
なにか聞きづらいことを聞くように、気まずそうに口を開く。
「ユーリ君は14歳と聞いていたのですが、あってますか。それとそちらの女性は恋仲の方でしょうか。」
そんなバカなことを聞いてくるのだった。
俺の部屋ではゆっくり話もできないと思い、リビングに行かせる。
俺とシルヴィは着替えた後リビングに向かい、ソファに腰掛けた。
その隣に当然のようにシルヴィが座る。
「いや、シルヴィには関係ない話だろう。おやっさんも帰ってきてるだろうからおまえも帰れよ。」
そう言うとシルヴィは悲しそうな顔をしてこちらを見てくる。
「おお!そちらのお嬢さんがシルヴィさんでしたか。実はシルヴィさんにも関係のある話でして、お時間がよろしければご一緒に聞いていただけないでしょうか。」
「ん、聞く。」
心なしか嬉しそうなシルヴィ。でもこれたぶん面倒なはなしだぞ。
「ありがとうございます。今回私どもが参った理由は、国家存亡をかけたお話しです。ユーリ様方は魔王という存在をご存知でしょうか。」
沈痛な面持ちでカンデラさんが話し出す。
「まあ、物語や歴史書の中だけなら聞いたことはあるな。」
勇者と魔王の物語は字を覚えた子ならだれもが一度は目にする絵本であり、歴史にも何度か魔王が現れ魔族や魔物を率いて世界を危機に陥れたとされている。
「はい、その魔王です。これは一般的に知られていることですが、魔王は何度も復活しております。ただ復活するまでに一定の周期がありますので、その間に力を蓄え魔王に対抗するのが国家の責務の一つと考えております。」
だがそれでも一つの国だけで魔王に抗うのは不可能だ。
そのために各国と連携し、魔王が出現した際には協力して討伐をするという協定を結んでいるらしい。
「では勇者についてはどこまでご存知でしょうか。」
「勇者は、女神から祝福を受けた人間だろ。魔王と戦う人類の希望って書いてあった本もあったな。」
他にも、英雄だの神の使徒だのとその期待と羨望がありありと溢れる文をいくつも目にした。どこかの国では勇者というだけで国賓として迎えられる国もあるのだそうだ。
人類を守る救世主ね…。
正直勇者になるやつには同情しかない。
戦うことすらあきらめておびえ立ちすくみ、生きることをあきらめた奴らの拠り所など俺は死んでもごめんだ。
「ユーリ。怖い顔になってる。」
「いてえ!?」
シルヴィに両頬を引っ張られる痛みで我に返る。
考え事をしているうちに眉間にしわが寄っていたようだ。
向いのソファに座っているカンデラさんは苦笑いだ。
「で。その話ぶりだと近々魔王が復活するってことか。」
「はい、その通りです。というより、もしかすれば既に復活しているやもしれません。」
魔王復活に予兆はないらしい。ある日突然どこかの国が襲われたり、村が滅ぼされたりして発覚するのだという。
「現在魔物の活動が活発になり、国で調べてはいるのですが、確たる証拠は挙がってきておりません。」
判断が難しいんだろうな。いっそのこといきなり空が黒い雲で覆われたりすればわかりやすいんだろうけど。
「勇者は女神の祝福を受けた人間。これは間違いありません。問題は選出方法と申しますか…。」
一瞬口ごもるが、意を決して告げてくる。
「勇者はこの世界の人間ではありません。異世界から召喚された人間を勇者と言います。」
ほう。異世界って本当にあるのか。
聞けば聖女の魔力を使い、次元の扉を開くことで召喚できるらしい。
聖女の魔力に関しての記述を読んだことはあるが、実際に自分で解析してみたいという欲求がわく。作用と特性を把握できれば俺にも次元の扉が開けるかもしれない。
「あまり驚かれないんですね。」
「ジジイの書庫にはいろんな本があるからな。」
人格はあれだが曲がりなりにも大賢者と呼ばれているだけあって、書庫の蔵書は膨大な数がある。量だけでなく質も良く、王侯貴族ですらおいそれと手が出せない高価な本や、禁書指定の本などまで揃えてある。
「ただわからねえことが一つある。この話をジジイにするのはわかるがなんで俺とシルヴィに話したかってことだ。」
たしかにそこら辺の奴よりは賢く強い自信はあるがそれでもまだ14歳の子供だ。
ジジイなら対抗策やらなんやらを思いつくことはあるだろうが俺たちに何を求められてるのかわからん。
するといままで黙っていたジジイがようやく口を開いた。
「こやつらは勇者と共に旅をする仲間を探しに来たそうじゃ。じゃがわしはもう旅などしとうない。じゃから青ガキがわしの代わりに行くと言ったんじゃが。」
おいジジイ。てめえ何勝手に決めてんだよ。
「こやつらがなかなか首を縦に振らなくての、直接見てもらったほうが早いと思うて連れてきたわけじゃ。」
なんつう自分勝手な…。
「待て。ということはシルヴィもそうなのか。おやっさんなら反対しそうなもんだがな。」
「ええ、それはもう強く反対されました。しまいには脅される始末でして…。ただシルヴィさんをお連れしたかったのは皇后さまのご意向でもありましてね。」
皇后?なんでだ。
そう思いシルヴィの方を見るが本人は何の話か分かっていないのか、ぼーっとしたままこちらを見つめ返してくる。
「以前この村の近くで魔物に襲われそうだったところをシルヴィさんに助けていただいたらしく、実際かなりの強さがあると近衛兵の間でも噂になっておりましてね。」
お前いつの間にそんなことしてたんだよ。
「つきましては本題ですが、ユースティス様が推薦なさったユース君の力を見せてもらいたい。過酷な旅に耐えうるだけの強さがあるかどうか見せてほしい。」
俺の希望は聞いてくれないのかよ…。
勇者様登場までもう少しです。