ガキと子供とダサいローブ
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ジジイの分のスープを作り直し、ぐったりしたまま自室に向かう。
物欲しそうにスープの入った鍋を見ていたシルヴィだが、俺がキッチンを出ると一緒についてきた。
「ユーリ。寝るよ。」
「俺は寝るけど、お前も寝るのか?」
まだ日が昇り出して間もない時間帯だが、朝だ。
シルヴィは昨晩も寝ているだろうが、眠れるのだろうか。
「マリーさんが言ってた。男の人は女の人と同じベッドで寝ると喜ぶって。」
マリーさん…。何教えてんだ…。
マリーさんは村で牧畜をやっている姉御の言葉が似合う豪放な人で、俺が敬語を使う数少ない人物だ。
『ユーリは相変わらずかわいい顔してんねぇ!どうだい、今度お姉さんと寝てみないかい?』
挨拶がわりにこんな事を言ってくる。
あのギラついた目を向けられると、背筋がゾワゾワするのでやめていただきたい。
マリーさんがなにを言わんとしているかはわかるのだが、10歳ほど年の離れた子供に何いってんだか。
年上が嫌いなわけではないし、言動を除けばかなり美人なのだが、余りに離れすぎるとそういった対象としてはみられない。
まあ、そういった経験は大人になってからすればいい。
それよりも今は研究を重ね、あのじじいを見返すのが目標だ。
ちなみにシルヴィはそちらの知識には疎く、マリーさんの言葉通り、ただ同じベッドで寝れば喜ぶと思っているのだろう。
この歳になればそういった知識も多少は耳にするはずだが、シルヴィの父親が完全にシャットアウトしているようだ。
あの人ものすごい親バカだからな…。
部屋に着くと着心地の良い服に着替えベッドに潜る。
シルヴィも羽織っていた上着を脱ぎ、俺の横に滑り込んできた。
「お前ほんとに寝れんの?。」
「大丈夫。寝れなくてもここでユーリの顔見てる。」
それになんの意味があるかわからないが、本人がいいと言うのだからそれでいいか。
「まあいいや。とりあえずおやすみ。」
徹夜の疲労と、先ほどの皿の一件でぐったりした俺は眠気に身を委ねる。
「うん。おやすみ、ユーリ。」
閉じかけの瞼に、シルヴィの微笑みを見ながら意識を手放した。
「お前こんなとこで何してんの?」
ぶっきらぼうな言葉で、青髪の少年が森の中に佇む黒髪の少女に声をかけた。
浮遊感のある意識と制御できない体から、夢を見ているのだと認識した。
寝る前にシルヴィの顔を見たからだろうか。
「…あんまり外に出るなってお父さんに言われてた。けど家の中はつまらないから誰もいないところでぼーっとしてた。」
「それ家の中でもできるだろ。」
呆れたように俺が言う。
「ユーリはなんでここに来たの?」
少し批難するような固い表情でシルヴィが聞いてくる。
誰かに見られれば自分の父親に怒られると思っているのだろう。
実際シルヴィが家を抜け出し、それを村の人から聞いた父親に怒られているところを何度か目撃していた。
「…今日もジジイに負けたんだよ。くっそ…思い出したらまた腹立って来た。」
ユースに拾われてからここ最近まで、訓練と言う名のしごきを受けていた。
研究も戦闘も結果こそがすべてである。とはユースの口癖だ。
結果を出すには実践するしかない。
が、ろくに知識も経験もない子供が良い結果を出せるわけもなく、散々ボロカスにされている。
近いうちにユースを地面に這いつくばらせるのが俺の目標である。
「諦めた方がいい。子どもは大人には勝てない。」
暗い顔でシルヴィが言うが、俺は納得しない。
「ふざけんな。そんなことだれが決めた。それは勝とうとしない奴の言い訳だ!」
俺は憤慨しながら言う。
「勝てないなら勝てるような方法を考えるんだよ!それでもだめならまた考える!諦めたら一生這いつくばるだけだぞ!」
「それは…。それは本当に戦ったことがないから!負けたら死ぬ。死んだら終わり!次はない!」
シルヴィも声を荒げて言い返してくる。
「じゃあお前は死にそうな時に諦めんのか!?大人しく死ねってか?俺はもう二度とごめんだね!」
大切なものを奪われて、自分も死にそうな時に何もしないなんてあんな経験は二度としたくない。
もしまた同じようなことがあれば、今度は死んでも抗ってやる。
お互い頭に血が上った状態で言い合っていると、背後からガサガサと音が聞こえた。
口論をやめ振り返るとなり謎の紋様の入った黒いローブの大人が立っていた。
「あんた、村の人じゃねえな。なんか用か。」
突然現れたそいつを注意深く見ていると、低い声でしゃべりだした。
「貴様がシルヴィか。私と来てもらおう。」
となりに立つシルヴィを指差しながら有無を言わさぬ口調で言う。
隣に立つシルヴィはヒッ!とおびえた声を出し、俺の背中に隠れた。
服を掴んでいる手が震えているから、知り合いではなさそうだ。
「いやだってよ。だいたい黒いローブとか地味でだせえもん着てる怪しいやつに、ついてく子供なんかいるか。もうちょっと子供向けの格好して出直してきな。」
挑発するように言い放ち、風属性の探知魔法を発動すると、俺たちをグルッと囲むように8つの反応があった。
無属性探知魔法なら相手の力量などもわかっただろうが、俺は使えない。
まあ、どっちにしろタダで帰してくれるとは思えない。
「貴様はだれだか知らんが、邪魔するなら死ね。」
男の声に反応して7つの反応が一斉に動き出す。
周りの茂みから同じローブを纏った人影が前後左右から同時に飛びかかって来た。
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