奴隷、購入
スライムボールの取引を終えた俺は、さっそくギルドへ向かった。
「おっさん!上手くいったぜ!」
「おーそいつは良かった。いくら貰ったかは聞かないでおくぜ」
「言うつもりもねえよ。でも取引が成功したのはある意味おっさんのおかげだぜ?」
「…どういうことだ?」
「おっさんの知り合いだからってことで高くつけてもらったって感じだ」
「そいつはあれだな…為になったなら良かった」
おっさんは笑みを浮かべて腕を組んだ。
俺も自然と笑みがこぼれた。
それは、この和やかな雰囲気によってではない。
もうすぐ念願の奴隷を買えるという意味でのある種”不敵な”笑みだ。
「ちなみにだがおっさん、俺は奴隷を買うつもりだ」
「はぁ、そうかい。…もう止めはしねえさ、お前の執着心はなかなかのもんだからな」
「お褒めの言葉として受け取っておきましょう」
スライムボールゲットそして取引成功から4日が経った日の昼。
俺は、魔物討伐の簡単な依頼を終え、ギルドに入った。
依頼主に頼まれていたものをおっさんに渡した。
「ほら、報酬の5000ゴールドだ」
「……おっさん」
「あ?」
「苦節1週間とちょっと。俺は遂に…遂に…」
そう、ついに。
「32万貯めたぞォォォォォ!!!」
「おぉぉ…なんか素直に喜べん」
「念願の奴隷購入だ。これで俺の人生に新たな色が加えられるぜ」
「そんな綺麗な言い方をしても奴隷は奴隷だ」
「おっさん分かってねえなァ」
またおっさんに俺のポリシー、野望、信念を語ってやろうとしたが、おっさんは他の冒険者の対応に向かってしまった。
まったく、逃げだな。
しかし、まさかこんな日が来るとは。
御年21歳の俺、如月歩は、しょうもない子供時代を過ごした。
特別頭がいいわけでも、運動が出来るわけでも、面白いわけでもなかった。
高校に入った時に出来た彼女には、口臭を理由に振られた。
俺のキスはニラの味がするんだとよ。
大学に合格して、ヤリサーに入って、ヤったところで襲ってくるのは焦燥感。
俺はこんなことをしていていいのか。
こんなことで満足をしていていいのか。
幾度となく自問自答を繰り返しました。
このまま俺は、なんとなくな人生の中で死ぬのか、そう思った。
そして案の定、俺は死んだ。
すべてが終わったと思った。
否!
俺の人生は終わったどころか、まだ始まってもいなかった。
今こうして俺は新たな世界で努力を重ね精進し、念願の奴隷の購入に至った。
これはもう!誰にも文句の付け難いやつだろ!
俺は奴隷屋に入った。
あの日と同じピエロが迎えてくれた。
「お、1週間程振りですかな」
俺の顔を覚えていたようだ。
この辺はさすがにプロだな、俺じゃ絶対に無理だ。
「金を貯めてきた。ラトアーネちゃんは元気だろうな?」
「ええ、綺麗なままです。お客様がリベンジをしに来なさるだろうと思い、他の奴隷よりも丁重に扱っていた次第でございます」
「お前は分かっている」
流石はプロだ。
俺たちは早速、右奥の部屋に入った。
奴隷たちが一斉に俺を見る。
メンツを見た感じだと、最初に来た時と変わってないっぽいな。
やっぱ高価だからそう易々とは売れないのかな?
まあ最初に見たときの奴隷の顔は一切覚えてないんだけどね。
「ラトアーネ、君を買いたいというお客様がいらしたぞ」
「…私をですか?」
ラトアーネの声を初めて耳にした。
良い、すごく良い。
清楚な感じの優しい声だ。
子守歌とかめっちゃ上手そう。
「おっすラトアーネちゃん、俺のこと覚えてるかな?」
「……あ、覚えてます」
うれしすぎてナマズになりそうだ。
「お客様、最後の意志を確認いたします。ラトアーネを購入――――――」
「する。そのために生きてきたんだ」
俺は巾着袋に入った32万ゴールドをピエロに渡した。
ピエロはその中身を確認もせずに言った。
「確かに受け取りました」
「…中身を確認してから言えよ、そういうことは」
「お客様は金額をちょろまかすような方ではないと、長年の勘が言っております。それに、32万あるかどうかは重さで分かります」
この世界のプロたちはとことんプロだな。
正直、かなり感心している。
「では…」
ピエロは鍵を使って檻を開けた。
ラトアーネはゆっくり立ち上がり、檻の外へ出た。
そして歩こうと一歩踏み出すと、よろめいて崩れ落ちた。
「うおっ、大丈夫かラトアーネちゃん」
「す、すいません……ずっと歩いていなかったので…」
いや、いいんだ。
君の柔らかい体を触れたしね。
ラトアーネの控えめだが大きい胸が、よろよろの服の隙間から少し見えた。
俺はもう死にそうだった。
「お客様、ラトアーネに隷属刻印はお付けになりますか?」
「なんだそれ」
「奴隷が主の意志に反したときに発動される刻印で、奴隷に痛みを与えるものです」
契約ってことか。
契約違反をすれば痛みが伴う…ベタだな。
俺はチラっとラトアーネの顔を見た。
ラトアーネは隷属刻印と聞くや否や、少しおびえて顔を伏せていた。
「…いや、刻印はいらん」
「左様でございますか」
「ちょっと意志に反してもらうくらいの方が興奮するしな」
「何かおっしゃいました?」
「いえ、何も」
俺はラトアーネを支えながら立ち上がった。
ラトアーネはだいぶ憔悴しているようだ。
呼吸も荒い。
最初はその乱れた感じに興奮の一言だったが、見れば見る程、そんな感情は薄れていった。
無論、犯す気も薄れていく。
「…大丈夫か?」
「すいません……」
ラトアーネは再び俯いた。
俺はラトアーネを支えたまま奴隷屋を出て、マイホームに向かった。
「俺のベッドで寝てな」
「い、いやでも…ご主人様の寝床で寝るわけには…」
ご、ご主人様…。
再び興奮が蘇りつつあったが、何とか抑える。
「気にしない気にしない。狭い部屋で悪いな。そのうち良い家に住ませてやるよ」
「…ご主人様は、どこで寝るおつもりですか?」
「俺は床で寝るくらいが似合ってるんだよ……あー、あと、アユムでいいよ」
「そんな…呼び捨てだなんて…」
「じゃあアユム様」
ご主人様など、ちょっと恥ずかしいわ。
最初はご主人様と呼ばせたいとばかり思っていた。
従わせ、命令し、泣くくらいまで虐めてやろうとも思った。
だが、檻から出たラトアーネを見て、そんな気は薄らいだ。
もちろん、多少はあるが。
「アユム様は…優しいですね」
「まあな」
その日、俺はラトアーネを一人部屋に残し、森に入った。
目標の奴隷購入には至ったが、金稼ぎを止めるわけにはいかない。
次なる目標のためにも、金は絶対に必要になるはずだ。
まあまだ具体的な目標など無いけどな。
すっかり夜になった頃に、俺はマイホームに戻った。
扉をゆっくり開けると、ラトアーネは俺のベッドの上で横になっていた。
寝息が聞こえる。
「寝込みを…襲うか?」
こっそりラトアーネの顔を覗く。
うむ、完全に寝ているか。
襲うのはやめておこう、まだ早い。
俺は寝る準備をし、電気を消した。
「…アユム様」
「うおっ!起きてたのか!」
「…ありがとうございます、本当に…温かいお布団です…ね……」
ラトアーネはそう言いながら、泣いていた。
「どういたしまして」
俺は急に満たされたような気持になって、目を閉じた。




