短剣、完成
「と言う訳でおっさん、俺が依頼を出したい」
俺は再びおっさんのいるギルドを訪問する。
もう何度目の訪問だろうか。
おっさんは苦笑いをして、俺に紙とペンを差し出した。
「別に構わないが…一体何を依頼する気だ?」
「常魔鉄だ。俺も詳しくは知らんが、武器屋のおっさんに言われた」
「常魔鉄だったらやってくれる奴らはいると思うぜ。報酬はどうする気だ?」
「3000ゴールドだ」
「まあ妥当だな」
ふむ、妥当でよかった。
これで5000ゴールドを超えるようなことがあればちょっと焦っていた。
オーダーメイドで合計8000ゴールドの出費となれば、普通に買うよりも安い。
自分で常魔鉄とやらを取りに行けば3000ゴールドは浮くのだが、なぜだかそれは面倒くさい。
俺は依頼内容と報酬、そして自分の名前を書いた紙をおっさんに渡した。
「常魔鉄だったら半日で届くな。今日の夜には達成されてるな」
「じゃあ明日の朝取りに行くわ」
「はいよ」
俺はおっさんに3000ゴールドをきっかり渡し、ギルドを出た。
まともに依頼をこなす前に、こっちの方から依頼をしてしまうとは、情けない。
だがこれも、すべては奴隷ラトアーネちゃんを購入するための第一歩だ。
俺はマイホームに戻り、午後はのんびり過ごした。
翌朝、俺はいつもより早く起きた(体感で)。
早速ギルドへ向かうと、おっさんは既にカウンターで冒険者が来るのを待っていた。
朝早いのにご苦労なこった。
「お、アユムか。常魔鉄届いてるぜ」
「おー、マジか」
おっさんが取り出したのは、布の上に置かれた鉱石だった。
確かに見た目は完全に鉄だが、普通の鉄のようにも見える。
「これ、普通の鉄と何が違うんだ?」
「常魔鉄はその名の通り常に魔力を放出している鉄だ。アユムのいうポイズンダガーはこの常魔鉄じゃないと作れない」
「え?なんで?」
「ポイズンタガーは刀身に塗ってある毒本来の性質を、常魔鉄によって魔法毒の性質に変えることで成り立ってる。簡単に言うと、毒属性の魔法ってことだ」
なるほど。
確かに常に魔力が放出されている状態であれば、いちいち毒を塗ったりする必要がない。
誰が考え付いたんだか知らんが、よくできている。
「おっさん詳しいな」
「こう見えて昔は冒険者やってたからな」
「昔冒険者やってたやつにしか見えねえよ」
俺は常魔鉄を受け取った。
そして足早に武器屋へと急ぐ。
「ほぉ~常魔鉄と毒針を揃えてきたか」
「おう!これなら文句ねえな?」
「へっ、やっとお前ともまともな商売が出来そうだな」
武器屋のおっさんは嬉しそうに立ち上がり、俺から常魔鉄と毒針を受け取った。
「どのくらいで出来る?」
「短剣だから時間は掛からん。午後までには出来上がるだろうな」
「じゃあそれまで俺は魔物狩りでもしてますわ」
「おう」
俺は武器屋を出て、ギルドへ向かう。
そこで、ビットゥの肉や犬の魔物の肉を必要としている依頼を探した。
アイテムドロップ率が85%なおかげで、如何せん肉が多い。
家の冷蔵庫のスペースにも限界が来た。
だったら肉を必要としている人に分け与え、その代わりに金を頂こうという魂胆。
我ながらナイスアイディアだ。
俺は肉を欲している家まで肉を届ける。
肉を渡すだけの単純作業だが、全部で4000ゴールドも溜まった。
これで常魔鉄の分の出費は浮いたと考えていいだろう。
後は街を出て、魔物を狩った。
いい加減剣の扱いにも慣れ始めて、もはや振るうだけの単純作業になった。
肉はかさばる上にスペースを取るので、犬とビットゥは出来るだけ避けた。
それでも襲ってくる好奇心旺盛かつ命知らずなヤツは一思いに叩き斬る。
森の中にも入ったが、スライムに遭遇することは無かった。
なんやかんや午前中に割と稼ぐことが出来、これで俺の財産は8万ゴールドにまで達した。
3日でこれだけ稼げれば上出来じゃないか?
あとこれを4回続けなければラトアーネには届かないわけだが、俺にはスライムボールと言う頼みの綱がある。
午後になった(体感)ので、俺は武器屋に入った。
すると、既に作業を終えたのか、おっさんは酒を飲んで休憩しているようだった。
「来たか、出来たぜ、頼まれたヤツがな」
おっさんは俺に、完成したダガーを投げつける。
俺はそれを地面すれすれ、ギリギリでキャッチ!
「投げんじゃねえよ。鞘が無かったら手が切れてたぞ」
「気を付けろよ。刀身には常に毒魔法が発生しているからな。触れただけでやばいぜ」
「だったら尚更投げちゃいかんだろ」
文句を垂れつつ、俺はおっさんに5000ゴールドを渡した。
しかし、おっさんはそのうち1000ゴールドだけを手に取り、残りの4000ゴールドを俺に返した。
「なんだよ」
「へっ、いらねえ。思ったより手間が掛からなかったからな」
「それはダメだろ。元々5000ゴールドの約束だったからな」
「駆け出し冒険者に5000ゴールドせがむほど俺は落ちぶれちゃいねえさ」
どの口が言うんだか。
金が戻ってくるのは嬉しいが、どうもしっくりこないな。
俺は、おっさんの片手に握られる酒の入った瓶を見つめた。
「おっさん、酒好きなのか?」
「おう。酒が無きゃ鉄は打てねえ」
「どんな酒が好きなんだ?」
「酒なら何でもいい…と言えば嘘になるな。今少し、飲んでみたい酒がある」
おっさんは夢を見ているかのような目で一点を見つめていた。
俺はおっさんが次なる一言を発するまで、ひたすら黙っていた。
「”カルパイア”と呼ばれる酒だ。この世で最も美味い酒と称されている。通称”絶酒”」
「分かった。じゃあその酒を、渡しに来る」
「いやあ、無理だね。カルパイアは危険な地でしか手に入らん。市場じゃ出回らねえ代物さ。金ばかりに目がくらむバカでも、カルパイアだけは絶対に手放さない。それが絶酒と呼ばれる所以さ」
「出世払いって奴だ」
俺はそう言って、おっさんに背を向けた。
5000ゴールドが労力に見合ってるか見合ってないかは知ったことではない。
ただ、俺は個人的にすっきりしない。
だったら、そのカルパイアと言うやつを差し上げるまでさ。
「お前、名前はなんだ?」
「アユムっす」
「俺はバドロス。絶酒、楽しみにしてるぜ」
俺はバドロスの顔を見ずに、店を出た。




