目標、スライム
俺のイメージしているスライムと違い過ぎて驚いている。
まずこの感触だ。
てっきり触ったら弾かれるくらいに弾力があるものだと思っていたが、ゼリーよりも柔らかい感じだ。
そして大きさ。
俺の背中を覆いつくすほど巨大だ。
「あぁぁぁぁ離れろォ!」
とりあえず立ち上がり、バック走で背中から木に突進。
背中に張り付いたスライムは音を立てて飛び散った。
しかし、すぐに一か所に集まり、再生する。
再び、突進をしてくる。
剣を振るい、一刀両断しようとするが、スライムはタイミングを合わせて自分の体を分離させ、俺の一太刀を躱した。
2つのゼリーが俺の顔に飛びかかってくる。
しまった、呼吸が出来ない。
「……っ…!」
やばい、死ぬ…死ぬ…!!
俺はその場に倒れこみ、のたうち回る。
離れろ…!
引きはがそうとするが、スライムの体は掴むことが出来なかった。
このままでは本当にまずい。
その時、スライム目がけて何かが飛びついてきた。
それは、あの犬の魔物(雑魚)だった。
スライムは俺から離れると、標的を犬の魔物に変えた。
犬は相手がスライムだと分かるや否や、逃走をはかる。
その隙に、俺は立ち上がり、アイテムの入った袋を持って走って逃げた。
いやあ、情けない。
調子に乗って油断していたらあのざまだ。
だがこれはある種仕方ない。
何せ相手はスライム、誰だって油断はするだろう。
だが、この世界のスライムは俺の想像しているスライムとは全く違っていた。
ヤツらは強い。
言い訳に聞こえるな、まあ言い訳だ。
街に戻り、取り敢えずギルドに向かった。
なんだろう、街に戻るとマイホームに入るより先にギルドに入ってしまう。
こっちの方が落ち着く気がする。
マイホームなんて寝るときくらいしか使ってない気がする。
「おいおっさん!」
「おぉー、こりゃまた大量だな」
「スライムに襲われたんだが!!」
「なにぃ?スライム?」
おっさんは身を乗り出した。
他の冒険者たちも、おっさんの一言に何やらどよめき出した。
なんだなんだ、こいつらスライムがそんなに気になるのか?
「お前、スライムに遭遇したのか?」
「ああ。不意を突かれたよ。想像と全然違うのな」
「スライムはなかなか人前に姿を現さない…まあ言い換えれば遭遇率が低いんだぜ?」
「なに、レアモンスターだったか」
「ああ、それでいて奴らは強い。物理攻撃じゃ倒せないからな」
それは不覚だった。
確かによく考えてみれば、スライム相手に斬撃など通用するはずもないのだ。
ゲームの内容を常識だと思っていては、この世界ではやっていけないのか。
むしろ常識は、疑ってかかれということかな。
「くっそぉ、倒したかったな」
「奴らが時たまドロップするスライムボールは希少だぞ。」
「希少?ドロップ率とか分かる?」
「20%弱くらいかな。スライムボールは陶器の素材になるんだ」
陶器、正直いらないな。
だが希少と言う言葉からして、金になるのは間違いないだろう。
ただでさえ遭遇するのが難しいスライム、そのスライムは更にレアドロップをする。
確率で言えば相当低いということだな。
ただまあ、遭遇率に目をつむれば、アイテムドロップ率は俺にとっては全部85%だからな。
倒せば確実にスライムボールは手に入ると考えていいだろう。
「そのスライムボールは金になるよな?」
「取引しようもんならな。更にそれで作った陶器はもっと高く付くぜ」
良い話を聞いた。
次なる目標はスライムボールだ。
無論、すべては奴隷購入のための足掛かりに過ぎない。
となると、物理攻撃以外の攻撃手段が必要になる。
「おっさん、スライムに毒は効くか?」
「ああ。人間に効く毒であればスライムには効果抜群だな」
俺はそう聞くと、袋からアイテムを取り出した。
巨大蜘蛛がドロップした、毒針である。
「巨大蜘蛛の毒針だ。これは有効と考えていいんだな?」
「ああ。それに…5,6本もあればポイズンダガーが出来るぜ」
ポイズンダガー。
毒の付いた短剣か。
「そういうのは…武器屋のおっさんに聞いた方がいいよな?」
「そうだな、俺は門外漢だ。……次の目標はスライムかい?」
「ああ。スライムを倒すまで依頼は暫しお預けだ」
「好きにしな、別に俺は困らねえ」
当面の目標は、スライム討伐。
そのためにまずは、ポイズンダガーとやらを手に入れる必要があるようだ。
「はぁ?鉄がない!?」
俺の声は武器屋兼鍛冶屋に響き渡った。
「鉄が無きゃ武器は作れねえぞ?」
「鉄って…」
「ポイズンダガーだろ?店のを買えばいいじゃねえか」
「作るのと買うのではどっちが安いんだよ」
「買うんだったら1万ゴールド。オーダーメイドの場合、素材を揃えてくれるっつーんなら5000ゴールドだな」
半額。
奴隷の為に金を貯めておきたい俺にとって、正直1万ゴールドはデカい。
5000ゴールドが小さいとは言わないが、倍となると相当な痛手だ。
それに、どうせ使うんなら拘っておきたい。
「分かったよ!じゃあ鉄持ってくりゃいんだろ!」
「おうおう、ポイズンダガーには常魔鉄を進めるぜ」
誤算だった。
武器には鉄が必須…そんな初歩的なことを見落とすとは。
俺も落ちたな(最初から上り詰めてない)。
だが俺には考えがある。
俺は入手したドロップアイテムを家に置き、全財産を持って再びギルドへ向かった。
そう、俺が常魔鉄とやらを冒険者に依頼すればいいのだ。




