奴隷、物色
「なあ、おっさん、俺は奴隷が欲しいんだ」
ギルドのおっさんは、俺の第一声に露骨に訝しげな顔をする。
やめろ、そんな目で見るな。
「お前は、それでいいのか?」
「違う、誤解だ。俺は仲間が欲しい。そのために奴隷は有効な手立てだと思うんだ」
「仲間ならここのギルドで揃えればいいだろ」
「それではだめだ、俺は奴隷を所有したいんだ」
おっと、これではただのゲス発言だ。
しかし俺は男、そしてこのおっさんも男だ。
男であるならば俺の気持ちが分かるはずだ。
「おっさん、結婚はしてるか?」
「ああ、してるが」
「今の奥さんを好きになった時のことを思い出してみな…可愛かっただろ?美しかっただろ?そんな奥さんを、自分だけのものにしたい。そう思ったからあんたは結婚したんだ、違うか?」
「お前なぁ、結婚と奴隷では話が違う」
「違くないさ、俺は奴隷であろうが愛せる自信がある」
もはや自分でも何を言っているのか分からないが、ここで折れるわけにはいかない。
奴隷商なるものは間違いなく裏社会側の話だ。
そうやすやすと奴隷屋さんが見つかるわけもない。
だからこそこうやって媚売って、場所を聞き出すほかない。
「いやまあ、奴隷屋ならこの建物の裏にあるが…」
「あるんかい」
「奴隷はこの国じゃ合法だからな。ただ俺はあまり認めたくはないな」
「俺は完全肯定派だけどな」
良い話が聞けた。
「その奴隷屋に行けばいいんだな」
「そうだな、まずはその目で奴隷を見てこい。そしてもう一度自分を省みろ」
「おっさん、あんた真面目だな」
流石スキンヘッド、イメージ通りだぜ。
奴隷屋は本当にあっさりと見つかった。
ただ、建物自体は主張が激しいわけでなく、むしろ控えめなくらいだから、気付けないのも無理はなかったのかもしれない。
黒を基調とした、いかにもアンダーグラウンドな雰囲気。
だが、闇の中の光は人一倍明るいんだよ。
意味が分からない。
奴隷屋に入店。
うさん臭そうな…というかうさん臭い男が迎えてくれた。
だいぶ太った、ピエロのメイクをしている男だ。
素顔は全く見当もつかない。別につけたくもない。
「いらっしゃいませ」
「ここは奴隷屋だな?」
「如何にも。初めてのお客様ですな」
「おう」
店の中は天井が異様に高かった。
建物の骨組みが丸裸になってハッキリと目に見える。
簡易巨大サーカステントみたいなイメージだ。
だからこいつピエロなのか?
「奴隷が欲しくて来たんだ。とびっきりの奴」
「左様でございますか。どのような奴隷をお探しで?」
「女なのは確定だ。とびっきり可愛くて、おっぱいがある奴」
「お客様、分かっておりませんな…」
ピエロは俺を小馬鹿にするように言い放つ。
そして俺に耳打ちをするように言った。
「女の奴隷の7割は、巨乳でございますよ」
「7割。なんて綺麗な数字なんだ」
ああ、早くも俺は快楽に溺れてしまいそうだ。
一刻も早く奴隷を買いたい。
このピエロ、うさん臭いのは明らかだ。
俺は完全に口車に乗せられている。
だがそれでもいい、俺は女奴隷がいればそれでいいんだ。
「あーただ…」
俺は自分でもびっくりするくらい急に冷静になった。
「もちろん、一緒に戦える奴であれば尚良い」
「そうでございますか…奴隷には様々な使い方がありますからな」
戦闘に加担させる奴隷、雑用をさせるための奴隷、そして性奴隷。
俺の場合、雑用をさせる気など更々ないけどな。
そこらへんはちゃんと考えている。
「…奴隷の相場っていくらくらいなんだ?」
「そうですね…平均して一体10万ゴールドは下らないかと…」
10万ゴールド…。
うーむ、まあ商品に命がある以上、それくらいはするか。
「値段は奴隷によって変わるのか?」
「ええ。奴隷の種族、容姿、体調、能力などによって値段は変わってきます」
「そうか…10万下回るとまともなのは買えないと思っていいってことだな?」
「おっしゃる通りです」
ふむ、厳しい道のりだ。
所持金が2000ゴールド程度の俺にとって、今の最低50倍頑張らなければ奴隷には手が届かないということだ。
だがこれも単純計算。
俺の好みの奴隷が10万ちょいで買えるとは限らない。
「もしあれでしたら、一度ご覧になりますか?」
「お、いいのか」
「ええ、お客様が求めるような奴隷でしたら、右奥の部屋にありますので」
ピエロの後に続き、扉をくぐる。
そこは先ほどいた空間に比べてやや薄暗かった。
一つ一つ鉄の檻で仕切られている。
流石は奴隷と言ったところだが、足枷や首輪をしている奴隷はいない。
「意外と自由にさせてるんだな」
「出来るだけ傷のない状態でお売りしたい次第でございますので」
「プロ根性だな」
俺は一個一個鉄の檻を覗いていく。
頭から耳の生えた奴隷や、尻尾の生えた奴隷、肌が若干赤っぽい奴隷や青っぽい奴隷もいる。
そして、これは一番大事なことなのだが、全員可愛くて巨乳だ。
俺が一番重視すべきポイントを、ほとんど全員の奴隷がクリアしていることに俺は感動している。
男の奴隷もいるが、そいつらだって美男子揃いだ。
「綺麗なもんだな、奴隷も」
「努力故でございます」
その時、俺はある一人の奴隷に目が止まった。
それは、淡い空色の髪が綺麗な奴隷だった。
瞳は翡翠色をしていて、肌は色白で、細身だが胸は大きい。
顔立ちは端正で、頭が小さい。
青緑系の色に反して茶色い尻尾と、頭から生えた茶色い耳は、良いアクセントになっている。
俺が目を見ると、その奴隷は恥ずかしそうに俯く。
運命とは、いつでもめぐりあわせなのだ。
「おいピエロ」
「いかがなさいましたか?」
「あの子はどんな奴隷だ?」
「あー、あれは亜人種ですな。髪の色や肌の色から見て、恐らく雪国で生まれたと考えられます」
「そうか、ごくろう」
俺は空色の髪の奴隷に近づく。
奴隷は依然、顔を伏せたままである。
構わない、顔を伏せたままでも。
「名前は?」
「ラトアーネでございます」
なんて澄んだ美しい名前なんだ。
「この子、ラトアーネは、いくらだ?」
「32万ゴールドでございます、お客様……――――――お客様…?」
たっけ。




