世界、到着
目が覚めた俺はベッドに寝ていた。
窓からふと見える景色は、中世ヨーロッパ風、RPG風の街並み。
どうやら本当に異世界に転生されたようだ。
実に爽快な気分だ。
姿見で姿を確認してみるが、容姿は一切変わっていない。
服装は若干お洒落な感じになっているようだ。
元いた世界にはないセンスだが、嫌いじゃない。
扉を開けると、そこはすぐ外だった。
扉の脇には、”アユム・キサラギ”の文字。
異世界の文字のはずなのだが、普通に読めた。
そして何が一番すごいって、ここが俺のマイホームだってことだ。
あの神様は本当にご厚意が素晴らしいな。
てっきり野宿だの宿屋だのに挑戦するものだと思っていたが、そんな必要もなさそうだ。
もちろん、部屋は一部屋だし、広いとも言えない。
広さ的には六畳一間、その3分の1ほどをベッドが使っていた。
だがこれで十分だ。
「カッパドギャラス!カッパドギャラス!」
突然、俺の家の前を、奇妙な馬車が通って行った。
馬車と言うか…鳥車?
青い綺麗で巨大な怪鳥が、車を引いている。
鳥を操っていた男は、意味の分からない言葉を発していた。
まあ、俺への手厚い歓迎だと受け取っておこう。
まずは所持品を確認。
所持品、特になし。
これはマジで焦った。
家の中に入っても、あったのは変な本とか、水道とかそういう必要最低限のものだけだった。
洗濯機もなけりゃテレビもない。
まあ異世界だから当然か。
文明的には遅れてるという表現が正しいのか。
ただまあ、魔法はあるそうだからその辺に関しては進んでいるな。
俺の前を通った、二人組の男。
如何にも異世界といった格好をしており、剣を腰に下げている。
テンガロンハット的な帽子もお洒落だな。
もしかするとあいつらは、”冒険者”かもしれない。
俺も付いて行ってみよう。
後を付けていると、男二人はある建物に入っていった。
ギルドと書かれた建物だ。
割と大きい。
「お、兄ちゃん見ない顔だな」
「あんたも見ない顔だなおっさん」
俺は適当に返した。
スキンヘッドの恰幅の良いおっさんが出迎えてくれた。
人がよさそうだ。
「冒険者志願か?」
「なんだ、俺がまだ冒険者じゃないって分かるのか」
「そりゃあ俺は20年以上もこの場所で色々な冒険者を見てきたからな。そんくらいは一目で分かる。兄ちゃんは冒険者の体つき顔つきじゃねえ」
確かにまあ俺は痩せ型だ。
学校の健康診断でも、毎回のように「痩せている」判定。
だが、痩せているくらいの方が最近はモテるんだとか。
まあ別にだから敢えて痩せているわけじゃないんだがな。
モテたいのはマジだが。
「冒険者になるのは簡単か?」
「ああ、そこが冒険者の良い所でもある。気軽になれて、気軽にやめれる」
「いいのかそれ。職業だろ一応」
「結局金になりゃなんでも職業ってこった」
犯罪すらも肯定してしまう危ない発言だな。
まあ本意ではないのは分かるが、あながちその通りかもしれない。
結局金になれば、それはそれだ。
「兄ちゃんあれか。楽して稼ぎたいタチか」
「おう。楽が出来りゃ一番だ。努力ほど無駄なことは無い」
努力している方々にぶん殴られるのは覚悟の上。
だが俺には既に、努力せずとも成功を収めることのできるスキルがある。
アイテムドロップ率85%、冒険者にはぴったりのスキルだ(そんな気がする)。
「んじゃ、この紙に名前を書きな」
俺はペンと紙を渡された。
とりあえずカタカナで”アユム・キサラギ”と書いてみようとする。
しかし、カタカナで書いたつもりの俺は、見たこともない文字を書いていた。
しかし、しっかり”アユム・キサラギ”と読める。
「アユムだな」
「お、おう」
んー、言語とか文字の概念は、心配しなくて良さそうだ。
そのうち慣れるだろうし、文字から覚えなきゃいけないとかじゃなくて良かった。
「さて、記念すべき最初の仕事、どれにする?」
おっさんは依頼書が貼ってあるボードを差し出した。
ボードの右上には、”Eランク専用”と書かれていた。
言わずもがな、俺は駆け出しのEランク冒険者というわけだ。
「別に何でもいいんだよな~」
「荷物運びとか、薬草採取とかが良いかもな」
「でもそれじゃつまらんだろ」
「じゃあこいつはどうだ?」
おっさんが指し示したのは、所謂調達の依頼だった。
ビットゥの毛皮を5枚調達してほしいとのことだ。
報酬は1000ゴールド。
「ビットゥってなんだ?」
「知らねえのかい?ビットゥはウサギの魔物さ。ビットゥがドロップする毛皮を5枚とってこいっていう内容だな」
ドロップ!
これだ、俺にぴったりの仕事ではないか!
調達任務となれば、アイテムドロップ率85%の俺に任せろって話だ。
「よし、じゃあそれでいいや」
「ビットゥはそんなに強くねえから安心しな。ほれ」
おっさんは俺に一本の剣を渡した。
しっかりと鞘にしまってはあるが、だいぶ錆び付いている。
「俺からの支援、錆びたショートソードだ。最初だけだぞ?」
「気持ちは有り難いけど、これ大丈夫か?」
「ビットゥ程度なら最悪素手でも倒せるから問題ねえよ」
俺はその錆びたショートソードを片手に、街を出た。
記念すべき一回目の依頼。
街を出ると、至る所にウサギがいるのが分かった。
勘だけど、たぶんこれがビットゥだな。
早速剣を抜く。
「ビットゥさん、こんにちは」
丁重に挨拶をしながら近づくと、ビットゥはおびえて逃走。
なるほど、これは楽勝ですわ。
だって向こうから攻撃を仕掛けて来ないんだからな。
俺は逃げるビットゥに追いつき、剣を振るう。
ビットゥはいとも簡単に両断され、煙と化した。
「なるほど。魔物は死ぬと跡形もなく煙になるのか」
跡形もなく、とは少し語弊があった。
その場には、何枚かの硬貨と、毛皮、そして肉が落ちていた。
「ん?」
硬貨は占めて100ゴールド。
毛皮は1枚だけで、気になるのは肉だった。
これまた俺の勘だが、この肉はレアアイテムな気がする。
レアと言っても、ドロップ率70%くらいのやつだ。
序盤でドロップされると助かるタイプの。
早速スキルの効果が発現したと思っていいだろう。
俺はその調子でビットゥを斬り続けた。
剣を握って振るうのなんか初めてで、何度か空振りもしたが、それでも簡単な作業だ。
やっているうちに、こんな楽な作業なら依頼してくんなとか思っちゃってた。
ダメダメ、これも一応仕事のうちだからな。
結局、30分くらいビットゥを倒し続けて、毛皮を22枚と肉を15個、そして2500ゴールドを手に入れた。
既に報酬金額を超えているが、まあ25匹も倒せばそうなるだろうな。
25匹倒して、毛皮が22枚。
確率的には88%。
25匹倒して、肉が20個。
確率的には80%。
平均してドロップ率は84%だ。
すごい、ほぼドロップ率85%だ。
これはやばいな。
とにかく俺は、一杯になった報酬をおっさんに貰った袋に入れて、街へ戻った。




