技術、求む
ゆっくりと目を開けると、そこには土の天井があった。
なんだここ…。
体を起き上がらせると、腰のあたりに少しだけ痛みが走った。
「目が…覚めましたか、アユム殿」
最初に目に入ったのは、ジャガだった。
ジャガは以前よりも明るい顔で俺を見ている。
あんまり見るな、俺は別にジジイフェチじゃない。
「あれ、ここは…ってか…」
「もう昼ですぞ」
「え?」
それから、13人の落獣人たちは一斉に俺に頭を下げた。
数日前にも見た光景だ。
「本当に…ありがとうございました…!おかげで我々は救われた…命がある…」
「あ、そっか…」
俺はアホドラを倒したんだ。
そして確か、たぶん湖の中で意識を失ったんだろうな。
ラトが俺をここまで運んでくれたって感じか。
「この御恩は必ずいつか…お返しいたします」
「おう、待ってるぜ」
御恩があるなら受け取るに越したことは無い。
するとその時、ラトが地下室の階段を駆け下りてきた。
「アユム様っ!」
ラトは勢いよく俺に抱き着く。
おぉ…胸が柔らかい…良い匂いだ。
「ラト…」
「申し訳ありませんアユム様…私が魔法を放てなかったせいで…アユム様を危険な目に…」
「あー、それはいいぞ別に」
「そのうえ…アユム様を蹴るような真似を…」
蹴る…?
ああ、俺が落下する時ね。
「いやあれが無かったら今頃俺はグッチャグチャに…」
「本当にごめんなさい…役に立たなくて……迷惑ばかりかけて…」
おいおい泣くなって…。
っていくら言っても自分を責めるだろうな、こいつは。
俺はとりあえずそのまま頭を撫でた。
「…まあ、次頑張ろうぜ」
アホドラを倒して得られたものがあった。
まず3万8000ゴールド。
これは非常にうれしい収穫、なぜならスライムボールよりも高いからな。
そして、岩の体表。
最初はアルマジロの奴と同じものかと思ったが、色合いやら何やらが違う。
強度も違うんだろうな、ってか違くあれ。
あとはドラゴンの肉、そして変な赤い玉。
肉はともかく、この玉はなんだろう。
後でギルドのおっさんに聞いてみた方が良さそうだ。
アホドラを倒した翌日の朝、俺に一つの名案が浮かんだ。
この名案に関しては、今までの案よりもはるかに名案だ。
ここ最近、魔物を倒して得たアイテムがかさばり始めてきたのだ。
特に肉と毛皮。
そこで、この村をアイテム保管場所にするというのが今回の案だ。
いわば中継地点…第二の拠点といったところである。
落獣人達に提案してみた所、文句の一つも言わずに了承してくれた。
まあ、俺には恩があるわけだから断るわけもないか……自分で言うのもあれだけど。
その日から、村の復興作業が始まった。
落獣人達が森から木を切って、こちらへ運んでくる。
パワーとスピードはあるからその辺に関しては迅速なんだな。
それを加工し、って感じなんだが…。
「なんかガサツじゃね?」
落獣人達が頑張って家を作っているのは分かるんだが、どうも違和感がある。
木材も歪な形をしているし、手際も悪い。
俺も素人だから偉そうなことは言えないのだが、ちょっと不安だ。
「んー…」
「一応、依然と同じようにはしておるんじゃが…」
「素材が悪いのかな~」
明らかに加工技術の問題ではあるが、どうせなら素材を一新するのもいいかもしれない。
といっても、木はもちろん使う。
だとしたら、この辺の魔物からとれる岩を使えばいいのでは…?
「腐るほどあるぜ、岩は」
一度村に戻り、息を荒げながら岩を調達。
軽く50キロ以上はありそうなくらいの量だ。
まあアイテムドロップ率85%スキルは伊達じゃないからな。
「あとは技術者か…」
久々のコルグの街だ(2,3日ぶり)。
当然の如くギルドに戻り、おっさんと対面する。
なんかほんとに久々に見た感じだ。
「おぉ、なんか久しぶりだなアユム」
「俺もそう思った」
「どうだ、なんかいいことあったか?」
俺はアホドラから取れた岩、肉、赤い玉を見せつける。
「お前…こりゃあ…」
「名前忘れたけど、岩のドラゴンのドロップアイテムだ」
「この岩は上等っちゃ上等だな。今アユムがしてるみてえに部位に装備するのに最適だな」
「んーそうか」
どうも決定打に欠けるんだよな~
もっと全部が全部上等な鎧になるとか、そうはいかないのね。
「この肉は?」
「ドラゴンの肉は大して上手くねえなァ…まあ餌にはなるが」
あぁぁぁぁぁ!
なんでこう、俺のスキルは役に立たんのだ!
今一番役に立ってるのってスライムボールなんじゃないか?
いいのか?それでいいのか俺!?
「じゃあこの赤い玉は…?」
「赤い玉……うおあぁぁぁっ!おまっ、これは…!!」
おっさんはいい歳こいて興奮気味に声を上げた。
周りの冒険者たちが一斉にこっちを振り向くが、おっさんは知らんぷり。
冒険者たちが興味を失うまでの我慢勝負だ。
冒険者たちが興味を失い始めた頃になりようやく。
「お前…これは竜の玉じゃねえか」
「ドラゴンボールかな?」
「こいつはすげえぞ。武器でも防具でも…これを練り合わせたら竜の魔力が宿るんだ。剣の切れ味も、防具の耐久性も爆発的に上がるぞ」
おぉ、所謂竜騎士になれるということか!?
すごい!すごいぞ俺!
「ドロップ率0,3%だぞ?お前、スライムボールと言い、運がいいな」
「あ、あ~まあな。日頃の行いが良いからでしょうね」
キタコレ俺の時代。
やっとのことで俺のアイテムドロップ率85%のスキルが牙を剥いたって感じだな。
「…こうなるともう上げてもいいな」
「え?何を?」
「ランクだ。お前は今日からDランク冒険者だ」
ランク…?
そういえばあまり意識したことがなかったが、冒険者にはランクがあったな。
俺は今まで最低のEランクだったが、つい今、Dランクに昇格した。
「ランクが上がるとどうなる?」
「受けれる依頼が増える。あとは周りからの信頼も厚くなるし、場合によっちゃ行けない場所に行けたりもする」
上がるに越したことは無いってことか。
「本当だったらCランク相当だぞ、ドラゴン討伐なんて」
「ははっ、飛び級でもいいんだぜ?」
「悪いがそれは出来んきまりでな」
「そうっすよね」
だがこれで依頼の幅も移動の幅も増えたことになる。
金稼ぎも捗りそうだ。
「そうだおっさん」
危うく本題を忘れるところだった。
「おっさんが知ってる人の中で…技術者と言えばこいつ!みたいなのっている?」
「技術者?……ぱっと思いつくのはドワーフだな」
「ドワーフ?」
「獣人族ドワーフ種ってのが正式名称だな。所謂技術集団。建築や鍛冶を任せたら右に出る者はいない」
んー、どうも汗臭そうな奴らだな。
ただそういう方々がいるから世の中はやっていけるのだ。
感謝しなくてはならない。
「どこに行ったら会える?」
「…あ、今しがたドワーフ関連の依頼が来たぞ。Dランク以上限定の依頼だ」
「お!マジ?」
「送り込んだ素材を持ってドワーフの所に行き、武器を作って来てもらってくれっていう内容だな。報酬は5万ゴールド」
5万!
「そんな大金を叩いてる奴がいんのか?」
「冒険者からの依頼だから何とも言えんな」
冒険者が冒険者に依頼って…俺かよ。
いるんだなそういうやつ、ちょっと安心したわ。
「ちょっと待った!」
突然、俺の背後で女の声がした。
溌剌とした真面目そうな声だ。
振り返ると、赤い眼鏡に黒い長髪の、如何にも女剣士っぽい奴が立っていた。
「え?誰?」
「おー、シズクか」
おっさんがフレンドリーに話しかける。
「こんにちはバングさん」
シズクとかいう女剣士はおっさんに挨拶をすると、ずんずんと俺に歩み寄ってきた。
顔が近い。
シズクは一つ咳ばらいをした。
「その依頼、私がいただきます」
「は?なんでだよ」
「私もドワーフに用があるからです」
「知るかよ。俺が先に見つけた依頼だぜ。お前、順番って言葉知らねえの?」
俺の煽り文句に案の定シズクはちょっとイラついている。
こればっかりは譲れないな。
俺には俺のプライドというものがあるし、村復興のためにも絶対に必要だ。
「あなたみたいな人がそんな大金を貰って、世の中が良い方向に動くとは思えません!」
「どういう意味だよ…」
「毒付きのナイフを持ち歩いているような人に…!」
こいつ、鞘にはまっている状態のポイズンダガーを毒付きだと見切ったのか?
何者だ?感知タイプか?
「おーおー、じゃあ二人でパーティ組んでやればいいじゃねえか」
「パーティ?」
「二人で一つの依頼を受けるんだよ。取り分も半分ずつになるが、効率は良いぜ。それにここからドワーフの国まではだいぶ距離があるからな。魔物にも遭遇するだろうよ」
パーティか、そんなのもあるんだな。
試しに一回やってみて効率を確かめるのも良いかもしれない。
俺のアイテムドロップ率85%スキルがバレることが懸念されるが、その辺は何とかごまかさなくては…。
「俺は別に構わん」
「だ、誰がこんな人と…!」
「あーそうかい、じゃあ俺一人で行かせてもらうぜ~」
「あ、そうやって…卑怯な人だ!」
おいおい、どの口が言うんだ。
悪いが今回俺に非は全くない。
先に依頼を受け取ったのも俺だし、パーティを組んでの行動も俺は拒んでいない。
こいつどこまで我儘なんだ。
「シズク、文句が過ぎるぞ?」
「しかしバングさん、こんな人に…」
「アユムは悪い奴じゃねえさ。そりゃあ初対面の相手にため口聞くわ、年がら年中慈悲の欠片もなく魔物を狩るわで良い印象はねえと思うが…」
おいおい、俺そんなイメージなのか。
勘弁してくれ、どいつもこいつも。
「…わ、分かりました。今回だけです。その代わり、足を引っ張らないでくださいね?」
「こっちのセリフだメガネ女」
「誰がメガネ女ですか!」
「お前しかいねえだろ」
嗚呼、別な奴とパーティ組みたかったなぁ。




