危険、岩竜
俺は、階段の下からちょい大きめの声でラトを呼ぶ。
ラトは少し驚いた後、ゆっくりと階段を下りてきた。
「何かありましたか?」
「落獣人?ってのがいた。危害は加えて来ないと思うから大丈夫だと思うぜ」
俺たちは再び地下の扉を潜った。
そして、落獣人のリーダーっぽいおじいさんに導かれ、ボロい椅子に腰掛けた。
落獣人は全部で13人。
村民として考えれば少なすぎるくらいだ。
「申し遅れた、ワシはここのリーダーをしておる、ジャガという」
「俺はアユム。こっちはラトアーネだ」
ラトが奴隷であるということは伏せておいた。
バラしたらバラしたで、こいつら「なんと…!奴隷…!?」みたいな反応で俺を冷たくあしらう恐れもあるからな。
別にそうされても問題はないのだが、されない方がマシだ。
「アユム殿。おぬしは冒険者であるか?」
「ああ、一応な」
「…恥を承知で頭を下げよう。アユム殿、我々を助けてくだされ」
突然ジャガはそう言って、土下座をしてきた。
他の者たちも頭を下げ始める。
急な行動に思わず立ち上がる。
「おいおい、どうしたんだよ」
「…落獣人とは、生まれたときに完全な獣人の特徴を持ち合わせていない者たちの総称じゃ。言わば落ちこぼれ。落獣人は獣人に煙たがられ、ここから遠く離れた獣人の国より追放されました」
道理でこいつらの耳やら尻尾やらはなんかこう控えめと言うか、弱弱しいというか…。
ラトは亜人だが、ラトの耳や尻尾の方が完成度が高い気もする。
亜人と獣人の大きな違いは、パワーと爪と牙だと、ピエロから聞いたことがある。
やはり、爪や牙は鋭いな。
「我々は命辛々ここまでたどり着き、村を作り上げました…。しかしその時には既に追放された落獣人の数は半分の50人ほどになってしまっていました…」
「50人?…この場には20人もいないぜ?」
「…我々を二度目の悲劇が襲いました。強力な魔物が、我々が作り上げた村を襲い始めたのです。犠牲者は増えるばかり…村は崩壊し、我々は地下へ逃げました」
なるほど。
不幸に不幸が重なったということか。
本当に可愛そうな方々だな。
要するに人種差別で迫害を受け、逃げ切ったところで魔物に襲われたってことだ。
「俺に助けてほしいっていうのは…その魔物を倒して村の復興を手伝えってことだな?」
「はぁ…」
話はよく分かったが、即決は出来ない。
俺に明らかなメリットがあれば引き受けてもいいのだが、どうしても決め兼ねる。
まずは様子見、ってところかな。
「…その頼みにはすぐに乗れない。今日は一度街に戻るから、考えさせてくれ」
「おぉ…検討してくださるか…!ありがとうございます…ありがとうございます…」
皆が涙ながらに再び頭を下げる。
こんな風にやられてしまったら、解決せざるを得ないな。
ここで俺がこいつらを見捨てたら、俺は一生後悔するんだろうなァ。
「あ、そうだ、一個気になることがあるんだけど……外にあった土の人形みたいなのって…何?」
荒廃した集落の中心に置いてあった、あのゴーレム的人形のことだ。
あれを聞かずにはいられない。
「…あれは人工ゴーレムと呼ばれるもので…我々の仲間が作り出した対魔物用の秘密兵器じゃ」
「人工か…その仲間っていうのは?」
「逃げました!」
突然、一人の若い落獣人が立ち上がって、叫んだ。
犬のような顔立ちをしている落獣人だ。
小柄で耳も小さい。
「…逃げた?」
「自分が作った人工ゴーレムが負けたことを知って…怖気づいて逃げたんだ!」
相当キレてんな。
双方の気持ちも分かる気がする。
自分の奥の手が通用しなかったら逃げるしかないだろうし、だからと言って逃げられた仲間は溜まったもんじゃないだろうし。
ってか、そうまでしても止められない魔物って…。
「お前らがおびえてる魔物ってのは…なんなんだ?」
「ログザムドラゴン…岩で覆われた二足歩行のドラゴンじゃ」
ド・ラ・ゴ・ン!
いよいよ来たって感じだなァ
今までチンケな魔物としか遭遇してこなかったから、ドラゴンと聞くと迫力がすごいな。
すげえ防御力高そうだし…。
「そいつはどこにいる?」
「奥の巨大な岩山を住処にしています。毎晩、餌を求めてこの村に降りてきます」
この村に降りてきても、地下室までは足を踏み入れることが出来ないってわけだ。
となると鼻は利かないのか、それとも地下室が小さすぎて入れないのかのどっちか。
いや、流石のドラゴンだからいざって時はぶっ壊せば事足りる話だ。
となると後者は無いな。
「夜か…こりゃあ住処に突撃した方が早いかもなぁ」
「それは無理です。岩山は足場が悪い上に、ログザムドラゴンが最も戦闘を得意とする環境です。一瞬で殺されてしまう…」
ふむ、確かに周りが岩だらけで、舞い上がらない岩ドラゴンなんていないよな。
となると夜にこの近辺で戦わなきゃいけないことになるなァ。
ってか、ドラゴンになんか勝てるのか?
その日は、街に戻ってマイホームで夜を過ごした。
今頃、あの村はドラゴンに襲われていると思うと、鳥肌が立つ。
地下室は安全なんだろうが、それでも落獣人たちは不安でしょうがないだろうな。
俺はベッドに横になりながら、机に座って魔法書を読むラトを横目で見やる。
「どうだ、魔法は」
「難しくはありますが、楽しいです」
「そうか。実戦では使えそうか?」
「微妙なところです」
もちろん、実戦で100%成功させろなんて、鬼みたいな要求はしない。
ただ魔法は覚えてもらいたい。
その方が戦闘も楽になる。
ラト自身がそれを望んでいるのなら尚更だ。
翌朝、あの村に戻る。
話を聞くと、昨晩もドラゴンの足音が聞こえたという。
街からは割と距離があるから、ドラゴンがいつ来襲したかなど全く分からなかったな。
その日は村周辺を探索した。
そこで俺たちは、村からそう遠くない場所に大きな湖を発見した。
これは戦闘に活用できるかもしれない。
また、その間も、ラトは魔法の鍛錬を怠っていなかった。
そしてその日も街に戻り、計画を練った。
翌日、俺たちは朝から村に行く。
俺は地下室内の落獣人13人を集めた。
二日ほどで考えた即席の作戦を伝える時が来た。
「まず第一に、明かりを用意してくれ。松明でもランプでもなんでもいい。夜の戦闘は明かり無しじゃ危険だからな」
俺の言葉に皆、真剣に耳を傾けて聞いている。
「次に、主な作戦内容だが…そのドラゴンを近くの湖まで誘導する。ただ俺とラトだけが動いたところで見向きもされないだろうから…お前ら全員で囮になってくれ」
「囮…」
「怖いのは分かる。俺だって怖い。だが湖に引き込むだけでいい。誘導が完了したらみんなはすぐに安全な場所へ避難してくれ」
これが大雑把な作戦内容だ。
無論、湖に引き込んだ後のこともちゃんと考えているが、それは落獣人には言わない方がやりやすい。
落獣人たちは不安げな表情を浮かべているが、やってもらわなくては困る。
「ぼけっとしてると日が暮れる。明かりを用意するんだ」
皆がそれぞれ動き出す。
本当は一晩明かしてからの決戦でも良かったのだが、待つのもめんどくさい。
あと、地下室で寝てる最中にドラゴン襲来とか、安全だと分かってても怖すぎるわ。
面倒ごとはさっさと済ませてしまおう。
なんかもう、完全に助ける前提で動いているな…。
「アユム殿、我々は戦闘には加担しなくていいのですか?」
「ああ。湖に引き込んだ後は、俺とラトに任せてくれ」
俺はラトの方を見やる。
ラトは不安げな表情で魔法書を眺めていた。
「ラト、いけそうか?」
「不安ではありますが、全力を尽くします」
「ああ。やばいと思ったら逃げていいんだからな」
そうして、段々と夜が近づいてきた。




