荒廃、集落
翌朝、目を覚ました俺は、隣に既にラトの姿がないことに気付いた。
起き上がると、ラトは既に起きており、椅子の上でじっと座っていたのだ。
「おはようございます、アユム様」
「あれ、早くね」
「二時間ほど前に起きました。奴隷ですのでアユム様より早く起きるのは当然ですよ」
やっぱりこの子はしっかりしている。
礼儀正しいし、可愛いし、早起きだし。
初日に俺より長く寝ていたのが嘘のようだ。
まああの日はきっと死ぬほど疲れてたんだろうな。
「アユム様、私事ではあるんですけど…」
「なんだ?」
「私、お料理を嗜んでみたいと思うんです」
料理か、いいな。
確かに最近じゃ燻製肉だの果物だとパンだのと、既製品ばかりだった。
そもそも俺は料理など得意ではないのだから当然と言えば当然だな。
しかし、ラトが自らやりたいと言うならば、やらせる以外に道はないだろう。
「いいと思うぜ。でもこの家じゃ水くらいしか使えねえから、まだ無理だなァ」
「そうでしたか…」
「いや、でもその心意気は良いと思う。料理本でも買いに行くか?」
「いいのですか?」
「構わん構わん。ラトには俺に出来ないことをしてもらいたい」
俺たちは朝早くから料理本コーナーに行き、取り敢えず試しに一冊買ってみた。
見たこともない料理のレシピが書かれているものであったが、どれもこれも知らんがなって感じだ。
料理には無縁だったからな。
その後、ラトは魔法を学びたいとも言いだした。
俺はこれ見よがしに魔法書を買いに行った。
魔法を習得するのに一番確実で一番安全な方法が、魔法書によるものらしい。
とりあえず回復補助系の魔法書を一冊。
そして…
「適性をはかってあげるよ」
魔法書店の店員(優しそうなおにいさん)にそう言われた。
なんとこのおにいさん、ラトにはどんな魔法が向いているのかを知ることが出来るそうで。
「んー、君は氷属性の魔力が濃いね」
「氷…ですか…」
氷か。
そういえば奴隷屋に初めて入ってラトのことをピエロに聞いた時、雪国がどうとか言ってたな。
そういうのも関係しているのだろうか。
「いいじゃん氷。多様性ありそうだし」
そうして、氷魔法系の魔法書を一冊購入した。
俺たちはその後、森の中に入り、先日の山道の所まで来た。
今日に関しては、戦闘は主に俺が請け負い、ラトは後方で魔法のお勉強ということになっている。
危ないからマイホームに戻ってやれとは言ったのだが、多少の緊迫感があった方が早く覚えられそうとの理由でついてきた。
理屈はよく分からんが、山道は森に比べれば視界も良好だから、まあ危険はないだろう。
そうそう、俺はここへ来る前に防具屋に寄った。
アルマジロの岩の体表からちょっとした小防具なるものを作ってもらった。
肩と腕に多少だが。
あまり付けすぎると重すぎて困るんだとか。
ラトにもつけてあげようと思ったが、出来るだけ負担は減らしておきたいのでやめた。
あと、金がない。
道中、アルマジロを倒したり、ゴツゴツした蛇を倒したりした。
ゴツゴツ蛇は脱皮の殻とかいう訳のわからないアイテムをドロップした。
他にも似た様な岩系の魔物に何匹か遭遇した。
防御力の高さだけは認めるが、全員腹が丸裸で笑いが止まらなかった。
頭隠して尻隠さずとは、まさにこのことである。
暫く歩いていると、とある場所に着いて、立ち止まる。
それは、小さな村のような場所だった。
村と言うよりも、集落に近い感じか。
何が一番変って、人っ子一人いない荒廃した雰囲気が漂っていることだった。
「アユム様…これは…」
さすがのラトも読んでいた魔法書を閉じた。
不気味な雰囲気が漂っている。
家も何軒かあるが、ほぼ半壊状態で、人はいない。
他にも車輪が壊れた馬車や、使われていないであろう井戸もあった。
そして極め付けは…
「なんじゃこりゃ…」
集落の中心にあったのは、大きな岩の人形だった。
表現が難しいのだが、身長は2メートルほどありそうな人型の岩の塊だ。
今にも動き出しそうだが、もちろん動き出すことは無い。
ところどころにヒビが入っている。
これあれか?ゴーレムとかそういう感じか?
「ラト、なんか知ってる?」
「いえ…ですが…」
ラトは何やら目を細めてしゃがみ込み、地面に耳を当てた。
耳と言っても頭の上から生えているから、傍から見ると変な光景だ。
ラトは顔を上げる。
「地面の下から…何か物音が聞こえます」
「地面の下?地下室かなんかかな…」
人っ子一人いないとは思ったが、まさか全員地下に逃げ込んだパターンか?
街からは多少離れているので、あんまり目立たないのかも。
とりあえず、半壊した家を見て回る。
三軒目の家に入ると、地下へと続く階段があった。
入ってすぐ階段があったので、地下階段専用の建物って感じの家だな。
「ラト、お前はここで待っててくれ。警戒して、何かあったら伝えてくれ」
「分かりました。気を付けてください」
ラトの顔にも緊張が走る。
当然だ、こんな得体のしれない場所…。
正直入りたくないが、物音がすると言われると気になってしまう。
階段を一段一段下る。
すべて下り終えると、薄暗い廊下が続いていた。
壁には一定間隔で松明が備えられていて、思った以上に明るい。
廊下を歩いていると、一つの扉を発見。
道はここで閉ざされていた。
「この扉を潜るしかないってことね」
吉と出るか凶と出るか。
俺は勢いよく扉を押した。
しかし開かない…。
「鍵でも掛かってんのか?」
不意に引いてみると、扉は簡単に開いた。
ああ、押してダメなら引いてみろってことね。
ちょっとイラッとしつつ、俺は中に入った。
中は広く、明るかった。
生活感あふれる居住スペースと言った感じだ。
そしてそこには、明らかに普通の人間ではない方々がいらっしゃった。
小さな耳や小さな尻尾、鋭い牙や爪などが特徴的だな。
そいつらは一斉に俺の方を見る。
「いやぁ、急な訪問悪いね」
「な、何者だッ!」
年寄りの声が響く。
「とある冒険者ってとこ。俺は人間だ」
「に、人間…」
人間と聞くなり、そいつらは何か安堵したような様子だった。
「お前らは人間じゃねえよな?」
「…我々は落獣人。獣人世界から追放された一族じゃよ」
おっと、なんか色々事情がありそうな方々だ。




