理性、保つ
俺とラトは初めて二人で街を出た。
ラトの戦闘能力をはかるというのが主な理由でだ。
手始めに草原にいるビットゥを倒すように指示を出してみる。
いきなりの森は流石に可愛そうだからな。
「えっと…あのウサギさんを斬ればいいのですね?」
「ウサギさんとか言ってると情が沸いてくるから、ビットゥと呼べ」
「はい、すいません…」
そんなマジに凹むな。
ラトの戦闘能力には、やはり目を見張るものがあった。
俺も戦闘初心者だから偉そうなことは言えないが、素人目に見てもそのセンスの良さは明らかだった。
初めて武器を握ったとは思えないほど堂々とした剣捌きだ。
なんか、ビットゥが気の毒になってくる。
「ラト、やっぱお前は強かったな」
「い、いえまだまだでございます…」
「俺よりは強いぜたぶん。まあ俺にはその分武器のアドバンテージがあるんだけどな」
俺はそう言いつつ、腰からポイズンダガーを取り出す。
初めて見るポイズンダガーの刀身に、ラトは少し狼狽えていた。
「…なんだか、不気味な色ですね……あ、いや!決してアユム様の武器を貶したわけではなくて…」
「分かってるよ。迂闊に触るとマジで死ぬから気を付けろよ?」
ちょっと言い方がキツいようにも思えるが、事実なのだから仕方がない。
そのまま俺たちは森に入った。
ゴブリンや蜘蛛に対しても、ラトの敵ではなかった。
一体一体着実に、一撃で仕留めている。
ただやはり戦い慣れしていないのか、足元がおぼつかなくて体勢を崩しそうにはなっている。
しかし持ち前の剣捌きでカバーしていると言った感じだ。
そして俺は気付いてしまったのだが…。
ラトが俺の奴隷であっても、アイテムドロップ率85%の力はラトには関係がない様だ。
当然と言えば当然だが、ちょっと期待していた自分がいる。
血の誓約とか交わせば譲渡されるのかもしれないが、そんなことをやるつもりはない。
俺とラトの関係はもっとこう、フランクにいきたい。
「ということでラト。敬語を禁止にしないか?」
「え、いや…それは無理でございます。私は奴隷なので…主にため口など…」
「んー、じゃあその、ございますとか、何とかでありますとか、そういうのはやめよう」
「…分かりました」
従来のラトなら承知しましたとか言うところだが、やはりこっちの方がしっくりくる。
あまり堅苦しいのは好きじゃない。
それにまあ、ラトもまだ若干緊張しているのかもしれない。
そうして俺たちは、未踏の地へと足を踏み入れていた。
それは森を抜けた先にある山道だった。
若干勾配になっている山道は、木々がなく、広い空が広がっていた。
「ここからは俺も初めてだから、気を付けろよ」
「は、はい…」
ラトは強くラスソードを握りしめた。
俺もポイズンダガーをしっかり握りながら歩を進める。
早速、初めての魔物にお出ましだ。
全身岩で覆われたアルマジロみたいな魔物だ。
アルマジロは俺を見るや否や、何の躊躇もなく転がってきた。
「ラトは離れろ!ここは俺が様子を見る」
「はい!」
ラトが下がった後、俺は身構え、アルマジロの突進を躱す。
しかし、アルマジロはすぐにブレーキをかけ、Uターンして再度突進してきた。
躱すくらいなら最初からポイズンダガーを食らわせるまでだ。
しかし、ポイズンダガーの刃はアルマジロの体表の岩を通らず、弾かれてしまう。
不意に、ポイズンダガーの刃に目をやる。
「アユム様!またきます!」
ラトの声でアルマジロに目を移した時には、俺の腹にアルマジロが突進していた。
俺は勢いよく後方に吹き飛ばされる。
まともにダメージを受けたのは初めてかもしれない。
だが、さほど痛くはない。
あのおかまコーディネーターの腕は本物だったというわけだ。
それにしても、ポイズンダガーが通用しないというのは驚きだ。
今のでなんとなくわかったが、ポイズンダガーは相手に傷をつけることが出来て初めて効果があるようだな。
つまり、岩の体表に弾かれた程度では無意味と言うこと…。
さて、どうするか。
「アユム様、腹です!腹を狙ってください!」
ラトが大きな声を上げて俺に指示を出す。
腹か、そんな初歩的なことにも気付けないとは俺も終わってんな。
いや、ここはラトの判断を褒めておくべきか。
流石亜人、その辺のセンスは抜群だ。
アルマジロの再びの突進を俺は躱す。
アルマジロはUターンする直前に一瞬腹を全面こちらに向けて助走をつける。
その時を狙う。
俺はアルマジロが腹をこちらに向けたのを見逃さず、ポイズンダガーを投げてやった。
見事に傷が付き、アルマジロは毒されて煙と化した。
その場には1500ゴールドと、岩の体表がドロップされていた。
「やりましたね、アユム様!」
「おう、ラトのおかげだ。ありがとな」
「い、いえ私は何も…」
「次はお前が戦ってみてくれ」
「はい!」
ラトは気合いが入っているようだ。
結論から言うと、アルマジロはラトの敵ではなかった。
最初こそ多少の苦戦はあったものの、ラトはアルマジロの岩の体表の僅かな隙間を見切って、そこにラスソードを刺し込んでいた。
刀身が細く長いラスソードは、アルマジロには相性抜群だ。
そんなこんなで、森を抜けてから30分ほどで早くも1万ゴールドを超えた。
「いいぞラト、なかなかの稼ぎだ」
「はい!」
一つ懸念されるのは、アイテムのドロップだな。
アルマジロ程度では大したものは落とさないっぽいが、強い魔物に関してはドロップアイテムが気になる。
となると、とどめは俺が刺した方がいいってことになる。
良いとこ取りみたいに聞こえるが、これは致し方ない。
「ラト、話がある」
俺はラトに、アイテムドロップ率85%スキルのことをバラした。
もちろん異世界から来たことは伏せたままだ。
疑い深い人間であれば、スキルを手にした経緯などを問い詰めてきそうなものだが、ラトに限ってそんなことはしないだろう。
「それは…すごいスキルですね」
「そう。でも戦闘能力はお前の方が上だ。だから俺はとどめを刺すことになる」
「構いません。アユム様の為になるのなら、命をかける覚悟があります」
そいつは有り難いが、何も命をかけろとは言っていない。
ヤバくなったら逃げてもらって構わない。
「そう堅くなるなよ」
「いえ…堅くなどなっていません。…私はアユム様に救われました。その恩返しがしたいだけです」
「俺はただお前を買っただけだぞ。金で」
「それが私にとっての救いです。あの檻の中から私を見つけ出し、外の世界へと誘ってくれたのは……アユム様ではありませんか」
またしても、ラトの唇ギュッが炸裂。
俺はポイズンダガーにでも切られたのかってくらい胸が破裂しそうだった。
可愛いな、ほんとに。
「取り敢えず、今日はもう街に戻ろうぜ」
「……あ、あの、アユム様…」
「ん?」
ラトは頬を染めて俯いた。
頬の赤色はより濃さを増していく。
「その…今日はその…」
「…ん?」
「お、同じベッドで……一緒に…」
俺は自らの覚醒を抑えた。
元来の俺であればここでラトを押し倒してしまうところだったが、生憎今の俺は少し違う。
抑えろ、抑えるんだ如月歩!
「い、いいぜ。寝よう」
「……すいません…変なお願いして…」
ラトは頭から生えてる耳を丸め、尻尾をぎゅっと握りしめた。
可愛すぎて死にそうだったが、何とか抑えた。
結局その日の夜は、理性を保つことが出来た。
お互いになんか恥ずかしくて多少距離があったしな。
ただ、夜が明けるまでは、俺のナニはギンギラギンのままだったとさ。




