ラト、外出
翌朝、目を覚ますと、ベッドで横になっているラトアーネの姿があった。
まだぐっすりと眠っているようだ。
起こすのも忍びないと思い、俺は一人支度をして森に入った。
朝の運動も兼ねて魔物を狩る。
金になるかならないかは関係なく、実は俺はこの魔物狩りが楽しくて仕方がない。
ポイズンダガーが強すぎるってのも理由の一つだ。
途中で奇跡的にスライムに遭遇した。
倒して得たスライムボールをイーデムの所へ持って行って取引するように頼んだ。
流石に二度目は、二万ゴールドしか受け取れなかったが、まあ文句など無い。
2時間ほど森の中で金稼ぎをしてマイホームに戻ると、ラトアーネが起きていた。
「おはようラトアーネ」
「お、おはようございますアユム様」
「眠そうだな」
「申し訳ありません…奴隷の分際でアユム様より長く眠ってしまっていて…」
「いや良いよ別に」
ふかふかのベッドで寝るのも久しぶりだったのだろうしな。
俺には一つ、考えがあった。
これからラトアーネと共にこの世界で生きていくわけだ。
その際に、アイテムの調達や依頼の達成、金稼ぎなどの理由から、魔物との戦闘は恐らく避けて通れないだろう。
だとすると人手は多いに越したことは無い。
「ラト、お前戦闘経験はあるか?」
「ほ、ほとんどありません……というかアユム様、その呼び方は…」
「ラトアーネって長いから、略してみた。嫌いか?」
「いえ、うれしいです」
ラトは頬を僅かに染めていた。
可愛いが、もちろん”まだ”手は出さない。
俺がラトに手を出すのは、もっと時間が経ってからだ。
「今日はすることが山積みだ、お前もついてきてくれ」
「もちろんでございます!」
ございます…か。
ラトは日差しに眩しそうに目を細めていた。
何やら落ち着かない様子でソワソワしている。
「どうした?」
「いえ…本当に久しぶりの外なので…なんだか落ち着かなくて…すいません」
「まあしょうがないよね」
そもそもラトはなぜ奴隷になったのか…そんな話もいずれ聞けると良いな。
俺たちはまず、仕立て屋に向かった。
ギルドのおっさん(名前忘れた)の話によると、俺が死ぬほど手に入れた蜘蛛の糸は、良い装備品の素材になるらしい。
どうせ有り余っているのだから、良い服を作ってもらおうという魂胆だ。
ラトの服もみすぼらし過ぎるからな。
ちなみにだが、仕立て屋と防具屋は違うらしい。
仕立て屋はお洒落に重点を置いた所謂”アウター”専門店って感じで、防具屋は防御力に重点を置いた”インナー”専門店って感じなんだと。
「ん~、醜い!実に醜いわっ!お二方ッ!」
仕立て屋に入ると、やばい奴が出迎えてきた。
俺よりはるかに身長が高く、ムキムキな奴。
口紅は真っ赤で、髪も長い。
これはあれだ、マッチョなおかまだ。
加えて、ファッションにうるさいタイプ。
天才コーディ―ネーター感は溢れ出ているから良しとしよう。
「えっと…巨大蜘蛛の糸があるからそれで服を作ってほしいんだけど…」
「いいわっ!でも!コーディーネートはあたしにお任せて!」
「お任せます…」
俺はおかまコーディネーターに蜘蛛の糸を渡した。
その数58個。
おかまコーディ―ネーターは若干狼狽えていたが、プロ根性から成る営業スマイルでごまかした。
「まずは男児!そこの男児の服よっ!」
「男児って言うな、俺はアユムだ」
「アユミンの服のデザインを決めますわっ!」
アユミンって、なんか女のあだ名みたいだな。
まあ好きに言わせておこう。
俺が相手にするには、こいつはクセが強すぎる。
ラトも苦笑いが止まらないと言った感じだった。
暫くして、おかまコーディネーターが服を持ってきた。
「着る!着るべくして着るのよッ!」
格言っぽい一言を上げながら、おかまコーディネーターは強引に俺に服を着せた。
それは、お洒落なベストとマントだった。
黒を基調とした如何にも異世界っぽい装飾だ。
触り心地もよく、軽くて全然気にならない。
「ん、蜘蛛の糸って白じゃなかった?」
「蜘蛛の糸は加工して色を変えられるのよッ!これはコーディネートにおいて基本中の基本よッ!」
「はい、すいません…」
なんかもう勢いが別格だ。
「手触りもいいな」
「蜘蛛の糸の特徴よッ!防御力もあって、尚且つお洒落!お洒落は美しさ!美しさとはすなわち―――――」
だいぶうるさいな。
「続いてそこの女児!」
「女児っていうな、こいつはラトアーネだ」
「ラトッチ!」
もう知らない。
ラトの服は、俺の服なんかよりも全然出来が良いように見えた。
白と水色で出来た優しい服だ。
空色の髪のラトにはピッタリの代物だ。
「こっちもアユミンと素材はほぼ一緒よッ!」
「こんな素敵な服……いいんですか、アユム様」
「いいのよッ!あなたは美しいからねッ!」
「お前はアユム様じゃねえだろ」
俺はおかまコーディネーターに一応ツッコミを入れた。
「いいんだ、どうせなら綺麗な方がいいだろ」
「…ありがとうございます」
ラトは嬉し恥ずかしそうに唇をギュッとしめた。
ああ、キスしたい。
全部占めて1万ゴールドを支払った。
思っていたよりも全然安かったから正直驚いている。
おかまコーディネーターの御厚意あってのことかもしれないが、真意は謎だ。
その後俺たちは、武器屋に行った。
武器屋のおっさん、バドロスが作業をしていた。
「アユムか。っと、そっちの可愛い姉ちゃんは?」
「ラト、俺の仲間だ」
「初めまして…その…アユム様の奴隷のラトアーヌと申します」
「ははっ!アユム、お前奴隷にお洒落させるたぁなかなか心が広いじゃねえか」
こいつ普通に言ったな。
まあ別にいい。
「それより武器を買いたい」
「そっちの姉ちゃんのかい?」
「そうだ。種類は…そうだな…」
俺はラトを見る。
ラトは店に並んでいる武器に釘付けだった。
正直、適性が一切分からない以上、使ってみないことには何とも言えないのが現実である。
俺が短剣だから、それ以外となるか。
「ラトは何が良いんだ?」
「えっと…私は武器を使ったことがないので、何とも…」
「なんかないの?どれが使ってみたいとかでもいいぞ」
出来るだけラトが使いたいものの方が上達は早いだろう。
好きこそものの上手なれ的な?
ギルドのおっさんから聞いたことがあるが、ラトのような亜人は人間に比べると身体能力も高く、戦闘センスも抜群らしい。
正直どれでもいけるとは思う。
「じゃあ、これで…」
ラトが指差したのは、ラスソードと呼ばれる剣だった。
俺が最初に使っていたショートソードよりも長く、細い。
「バドロス、これはどんな剣?」
「女専用の剣だな。軽くて扱いやすいのが特徴だ。魔法との組み合わせも抜群にいいぞ」
「魔法との組み合わせ?」
「ああ。魔法を習得すれば組み合わせて使うことも出来るし、常魔鉄タイプの鉱石を練りこめば色々な付与効果が得られる、所謂マジックタイプの剣だ」
要は、魔法剣ってところだな。
「じゃあこれで」
「2万ゴールドだ」
俺は2万ゴールドを支払う。
懲りずに魔物を討伐していたおかげで、足りてよかった。
ただこれで所持金は1万ゴールドを切ってしまった。
また集める必要がありそうだ。
「よし、じゃあラトは今日からこれで頑張れよ」
「ありがとうございます。強くなれるように…一生懸命頑張ります!」
初めて聞く、ラトの気合いに入った声。
綺麗なラスソードの刀身は、ラトによく似合っていた。




