最初の愛③
家に帰るとそこは薄暗く雨音だけが響く空間だった。両親は仕事で帰ってくるのはいつも19時を回った頃だった。中川敦と一緒に雨の中足早に帰宅した私はまず玄関に明かりを灯す。
『先にシャワー浴びていいよ。私はその後で入るから。』そう言うと、『ありがとうごさいます。』と彼は呟き二人で脱衣場へと足を運んだ。
私は脱衣場からタオルを取るとその場を後にし、髪をタオルで拭きなから2階の自室へと足を運んだ。まず身に着けていたものを全て脱ぎ、新しい下着と部屋着に着替える。その後リビングに降り冷蔵庫から1000mlの牛乳パックを出しコップへと移していく。コップはレンジに乗るとクルクルと回り残り2分と表示されていた。回るコップを見つめながら私は数十分前に起こした自分の行動を振り替える。なぜあんなことをしたのか?自分一人でも帰れたはずなのに。犬のようなしぐさや、年下ということもあり愛着のようなものが湧いたのだと自分を納得させ、レンジから湯気の立つコップを取りだしソファーへと腰かけた。
ホットミルクを飲み終わる頃中川敦はリビングへと足を運んだ。
適当なジャージを着て髪をタオルで乾かしていた。
『はい、ホットミルク』ソファーに腰かけた中川敦にコップを手渡す。
『ありがとうごさいます。』その言葉を聞いてから私はすぐに脱衣場へと向かった。
シャワーを済ませた後リビングに戻ると彼がまぶたを重くしながら首を縦に数回振っていた。ホットミルクには睡眠を促進する作用があると本で読んだことがあるがここまで効果があるとは思いもしなかった。
『眠いなら少し寝たら?』私が問うと彼は返事なのか眠気のせいなのか分からないまま首を縦に振り横になった。彼が眠っている間私は乾燥機にかけた衣服を取りだし畳んでいた。彼の寝顔はなかなかに可愛らしく子犬のようだった。
『おかあさん…』彼の口から母を呼ぶ声が漏れた。どうやら寝言らしい。目からは涙が一筋流れている。彼にも彼なりに思うことがあったのだろう。あまり凝視しないように私は残りの衣服を畳んだ。
いつの間にか私は意識を失っていた。衣服を畳終えた後リビングの机でうつ伏せ目を閉じた後の記憶がない。目を開けるとそこは自分の部屋のベットの上だった。首を左に向けると彼がいた。
『あのまま寝てると風邪引くと思って。』どうやら彼が私をここまで運んだらしい。男の子の力はすごいと改めて思った。45kgある私の重みを彼は2階まで運んだのだ。私には到底できないと思った。
『寝てるとき泣いてたよ?おかあさん…って言ってた。』
彼はびっくりした表情で私を見た。ベットから降り彼の前まで足を運ぶ。『寂しかったんだね?』そういうと私は彼の背中に手を回し抱き締める。直接見た訳ではないがどうやら彼は泣いているらしい。すすり声が聞こえ身震いしているのが私の体に伝わる。数秒経ってお互い顔が見える距離まで離れる。次の瞬間自分の唇に彼の唇が重なるのが視覚的、触覚的に認知できた。
唇が重なったのはほんの数秒の出来事だったがこのとき私が感じた時間は雨宿りしていた時間よりも長く感じた。
互いの唇が離れると私は無言のまま彼の目を見る。彼は何も言わず再びお互いの顔が見えなくなった。




