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(2)ナナミ

 新宿へは、若い時はめったに来なかった。まして、夜の新宿なんて…何の興味もなかった。

 カンナが、この世界にやすやすと溶け込んでいったのは意外というか、最初は信じられなかった。出会った頃、つまり無原罪の聖母学園初等部の試験会場で見た時のカンナは、恵まれた環境にいる幸福そうな若い主婦そのものだったからだ。いえ、じっさい、あの頃の彼女は本当にそうだったのだ。そしてカンナはカンナで、あたしのことを受験する子供の母親ではなく姉で、まだ女子大生かと思ったと言い、二人して笑った。

 本当は女子高生に見られる自信があっただけに、ちょっとむかついたけれど、多分お受験向きの地味なワンピースのせいだろうとむりやり納得することにした。

あれから、いろいろあった…ちょっとした感傷に浸りながら、あたしはマクドナルドで差し入れを買うと、区役所通りのカンナの事務所へ向かった。 



 カンナは、相変わらず黒のパンツスーツという色気のない格好をしていた。まるで制服みたいだ。あたしがマックの袋をかかげてみせるまでもなく、コーヒーをいれてくれて、あたし達は夜の仕事に向けてお腹ごしらえをした。

 「リュウ君は元気?」

 カンナの問いにあたしは、可愛く、にっこり笑った。

 「元気過ぎて困るの。」

 「そりゃけっこうだわね。」

 リュウは、あたしの可愛い二十三才の彼氏。丹沢で警官をやっている。三ヶ月前に、家族で丹沢へドライブに行った帰りに交通事故に巻き込まれ、それがきっかけで知り合ったのだ。

 あたしは結婚していて子供もいるけれど、リュウがあまりに可愛くて愛想がよかったから、ふとイタズラ心がわいて誘惑した。もちろん、相手がすごくあたしに関心を持っているみたいだったからだ。

 案の定リュウは簡単に乗ってきて、あたし達はつき合い始めた。あとはもう、リュウがあたしに夢中のメロメロになって、早く離婚して自分と一緒になって欲しいと、そればかりだった。あたしは困ったけれど、幸せの絶頂でもあった。うれしい悩みって、まさにこのことだ。だからあたしは、いかにリュウをとりこにしているか、その証拠をカンナに見せつけてやることにした。

 「ほらア、見て。今日もこんなにつけられたのよ。」

 たっぷりしたギャザーの寄ったスカートをめくりあげた。リュウのつけたキスマークが、あちこちについている。胸元につけられたのも、見せた。

 カンナは、ハンバーガーにかぶりつこうと大口を開けたまま、目を白黒させた。おばあさんには、刺激が強すぎたかもしれない。可哀想なカンナ。

 それからあたしは、大好物のフライドポテトをつまみながら、昨日からのリュウのアパートでの出来事を細かく話した。カンナはいつものように落ち着いて、でもとても面白そうに話を聞いていた。

 そろそろ時間だ。あたしは食べた物の包みを片付けると、

 「じゃ、行くわね。」

 と立ち上がった。

 あたしと入れ違いに、若い女の子二人が出勤してきた。モデルのように綺麗だけれど、あきらかに痩せ過ぎだ。あんなののどこがいいんだろう。きっと、年寄りだけにもてるんだ、そうに違いない。そんなの、何の意味もないのに。



 

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