jam in a cup
父親が再婚することになったのは、私が大学に入った時だった。
父親は私を溺愛しているのでもちろん共に住むことを前提にしていたが、同居していた祖母の あんな子は他所へやって跡取り息子を育てろ という言葉が私の気に障った。どうしても納得いかなくてやけに熱い涙が込み上げて止まらなかった。
結局、実家から通おうと思っていた大学の近くに部屋を借りることにした。実家から連れてきた猫をかえるようにペット可の物件を探して、家具も大体は自分で買いに行った。この時、父親は結婚式の準備をあれやこれやと騒ぎ立てる義母に付き合っていたから、殆ど私の準備は手伝ってくれなかった。
でも一つよかったのはお金が十分すぎるくらい与えられていたこと。家具なり家電なり好きな物を選んで良かった。
私はそのお金で大学の最寄駅から五分ほどの場所にある広い3LDKを借りた。猫の遊び場やら、私の服の置き場やら、色々考えるとこれくらいの広さが必要だと思った。
そうして自分の好きに選んだのに、家具がまばらなベッドと寝具だけ揃った部屋で白桃のジャムたっぷりのロシアンティー片手にぼんやりしていると急に心細くなって、涙があふれた。
誰かと一緒に住まなくちゃ駄目だ、そう思った。
涙を舐めて目を細めた猫が隣でにゃあと鳴いた。