対空射撃訓練
各中隊から2名選出の対空射撃訓練に選抜された。
なぜの想い。
中隊幹部の耳にはまだ噂が届いていないのか。
また他の中隊員との数日。
苦痛。
初めての姫路。
4中隊へ配置された同期生も来ていた。
彼は確実に中隊からの信頼と期待を持ちこの訓練に来ているだろう。
私は周囲から人格を否定されて、何処にいても充実感も達成感もない。
性格は破壊され、喜怒哀楽さえためらう明日のない不毛地帯にいる。
考えるのは死だけ。憤りしかない。
気が狂いそうな孤独感で夜も寝付けない。
同期生が羨ましく思えた。
10年勤続しても体験できない対空射撃訓練などどうでもよかった。
初めて見るライトアップされた姫路城は真っ白に光り輝き素晴らしい光景だった。
あの天守閣から武将はどのような思いで城下を見下ろしていたのだろう。
引き込まれるような感覚を姫路城に感じた。
帰隊後、考える事は不安しかなかった。
今回の訓練で知り合った人らも暫くすればシカトされる。
醜い物を睨むような視線とあざ笑う視線。
そもそも何故?俺がこんな馬鹿な噂を言われ始めたのか?いったい誰が流したのか?。
考えても仕方ない。解決の糸口さえ浮かばない。
この頃の記憶。
どの訓練が先であったのか記憶があやふやとなり今では整理できていない。
深い海の中。
呼吸も出来ない。
そんな心境だった。
ある防護演習で梅雨の時期だったのか、山は荒い雨が降り続いた。
この時も機関銃豪構築だった。数日の掘削で体力は限界に近かった。
個人用テント。止まない雨音。
俺は疲労で寝袋の上に倒れた。
靴も脱げずに沈むように寝ていた。
気付くと耳の中に水が入ってきた。
その冷たさで目がさめた。
テントは浸水していた。
突然、左足首に激痛が走った。
靴を脱ごうとしたが足首から膨張して太ももまで腫れている。
昨夜あたりから足への違和感はあったが、班長へ足の異常を報告、歩行出来ないと伝えた。
救護班の車両で私は一人下山して医者へ送られた。
看護婦が靴を脱がそうとしたが脱げない。
医者は半長靴のヒモをハサミで切った。太ももから指先まで腫れていた。
検査で左足靭帯損傷。
二度と走れないだろうと医者は言った。
約一ヶ月間、絶対安静と診断。即入院した。
すべての運から見放された心情だった。