前編
「ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください」
屋上のベンチに座りぼっーと空を眺めていると、ふとそんな男子生徒の声が聞こえてきた。
妙な場面に出くわしたものだ。
幸いな事に、今俺のいる場所は建物の影に位置しているため、自分から出て行かない限り彼らに俺の存在が気づかれる可能性は少ないだろう。
「……ごめんなさい」
数秒の沈黙の後、今度は女子生徒の声が聞こえてきた。
……本当に、妙な場面に出くわしたものだ。告白の、しかも失敗の方だなんて。
「……理由を聞かしてもらえるかな?」
「今はそういう気分じゃないの……」
「そう」
その後、少しの間があり、扉の閉まる音がした。
どうやら、屋上を出て行ったのは男子生徒だけのようだ。
それにしても、やけにあっさりと引き下がったな。まるで最初から断られると分かっていたような……。
「はぁー……」
女子生徒の溜め息。
そして、続いてがしゃりと転落防止用フェンスの揺れる音がした。
「帰りたくないな」
女子生徒の独り言が、俺の意思とは関係なく勝手に俺の耳に届く。
「ずっと、学校にいれればいいのに。そうしたら……」
その時だった。
ボオーと篭った音が辺り一体に響いた。
音の発生源は、俺のズボンのポケットの中。携帯のバイブ音だった。
「誰!?」
女生徒がこちらに向けて大きな声を出す。
俺は観念するとベンチを立ち、女子生徒の前に姿を現した。
「あなた、いつからいたの?」
「ずっと。君たちが来る前から」
「そう……」
それだけ言うと、女子生徒はフェンスに凭れてその場に座り込んでしまった。
「ごめん。聞くつもりはなかったんだけど」
「あなたの方が先にいたんだったら、別に謝る必要はないじゃない。途中で出て来られても迷惑だったし」
まぁ、そりゃ、そうだが。
女子生徒がポンポンと自分の横を叩く。
座れという意味らしい。
このまま出て行くのもなんなので、素直に女子生徒の意向に従う。
「私の家、今、色々あって大変なの」
「え?」
突然の告白に、思わず声を上げる。
「独り言よ。独り言。気にしないで」
「……」
とはいうものの、気にしないわけにはいかないだろう。
「お母さんは仕事人間であまり家に帰って来ないし、お父さんはそんなお母さんに始終イラついてる。正直、家にいるより学校にいる方が楽なの。だから――」
そして、さっきの言葉に繋がるわけか。
「あなたには何かない? 人には言えない悩み事」
「独り言じゃなかったのか?」
「私の独り言はお仕舞い。次はあなたの番」
「そう言われても……」
「何もないの? 悩み事」
「特には」
頭をフル回転させるが全然思いつかない。
「何か一つぐらいあるでしょ?」
「……妹が――。……いや、なんでもない」
これは本当に人に言う悩みではない。
「何よ。言い掛けて止めないでよ」
「……妹が、やたらと俺の事を過大評価してるようで正直困ってる」
「……何、それ。自慢?」
「そう言われると思ったよ。だから、言いたくなかったんだ」
「幸せなのね? あなた」
「少なくとも、自分が不幸だと感じた事はない」
女子生徒は俺を数秒見つめて言った。
「羨ましいわ」
なんだが、もの凄く申し訳ない気分になった。
「あなた、名前は?」
「早見直」
「……私は高木円香。よろしく」
高木円香? 目の前の彼女があの……。
「何?」
「いや、君の噂を聞いた事があって……」
「そう。奇遇ね。私もあなたの噂を聞いた事があるわ」
「それって、どんな?」
俺は、噂の対象になるような人間では到底ないんだが……。
「早見楓の兄貴が二年にいて、その兄貴は妹の楓が夢中になるぐらい格好いいらしい」
「……」
「さっきの言葉、撤回するわ。あなたも苦労してるのね」
同情されてしまった。しかも、自分より苦労していそうな少女に。
「あ、お兄ちゃん」
購買前のベンチに座って待っていると、楓が俺の元に嬉しそうに寄ってきた。
「もう。なんで、すぐにメール返してくれなかったの?」
「ちょっとな」
女子生徒と一緒にいた手前、携帯を取り出す事を憚られたのだ。
「帰ろう。お兄ちゃん」
楓と並んで、下駄箱を目指す。
「あ。そういえば、お前、友達とかに俺の事変な風に話してないだろうな?」
「変な風って?」
「なんか、妙な噂が流れてるらしいんだよ」
「あぁ……」
楓の耳にも、俺に関する噂は届いているらしかった。
「いいじゃん。悪い噂じゃないんだから」
そうは言うが、自分の知らない所で勝手に自分のハードルを上げられているというのはあまり気分のいいものではない。
「でも、実際に、お兄ちゃんの評判結構いいんだよ。私の周りの子も格好いいって言ってるし」
「実物を知らないからだろ?」
「え? でも、顔は知ってると思うよ。私が見掛けた時に、あれがお兄ちゃんだって教えてるから」
「……」
これからは、学校内での行動を今まで以上に気をつけた方が良さそうだ。
一旦校舎の外に出て、中庭を横切り、再び校舎の中に入る。
本来なら、外に出る時には下靴に、中に入る時には上履き代わりのスリッパに履き替えなければいけないのだが、短い距離や少しの時間の場合においてはいちいちそんな事をしている生徒は全くと言っていい程おらず、教師もその現場を見掛けても一応注意する事はあっても咎める事まではしない。つまり、暗黙の了解というやつだ。
それぞれの下駄箱で靴を履き替えるために一度別れ、昇降口の前ですぐさま合流する。
「ちょっとこれ持って」
そう言って、数枚の封筒が渡される。
「またか」
「そう。はい。ここに入れて」
自分の鞄を開けて楓が、俺に向けてそれを構える。
仕方なく、俺は鞄の外ポケットにその数枚の封筒を差し入れた。
「ありがとう」
「一応、持ち帰るんだな」
「なんで? 当たり前でしょ?」
俺の言葉に、楓がきょとんとした顔をする。
「だって、どうせ反応しないんだろ?」
「まぁね。でも、一通り目は通しておきたいから」
「考えてみれば、お前。そういうの、直接断った事ってないよな」
「うーん……。そうだね。呼び出されてもまず間違いなく行かないし、手紙以外でいきなり告白された経験もないからね。何かあったら怖いし、行って変に期待させるのも……ねぇ」
確かに、呼び出されてのこのこ行ったら男がたくさんいたでは洒落にならないからな。ま、ウチの学校に限ってそんな生徒がいるとも思えないが、用心に越した事はないだろう。
「お兄ちゃんは呼び出されたら行く方だよね」
「……どうだろう?」
「経験ある癖に」
妹相手に惚けたところで、無意味な行動以外の何物でもなかった。なので、正直に答える事にする。
「まぁ、呼び出しの内容にも寄るけど、呼び出されたら行く……かな」
「でしょ? お兄ちゃん、優しいもんね」
優しい? どうなんだろう。どちらかと言えば、行かない事によって自分が不快な思いをするのが嫌なだけの気がするが……。
翌日の昼休み。
ジュースを買いに購買前の自動販売機に行くと、
「お」
「あ……」
昨日の女子生徒に会った。
「ん」
何を思ったか、高木さんがいきなり俺の目の前に拳を突き出してくる。
「何?」
「手、出して」
言われるまま、拳の下に手を差し出す。
「パー」
「パー?」
俺が手を開くと、高木さんも続けてその上で手を開いた。
チャリンという音と共に、俺の手の平に三枚の小銭が落ちる。百円玉が一枚に、十円玉が二枚。
つまり、……百二十円?
「何、これ?」
「昨日のお礼。話、聞いてくれたから」
なるほど。
お礼を言われる筋合いはないが、好意は受け取っておくか。
高木さんから貰った小銭を使って、自動販売機でジュースを買う。
それを手に、俺は近くのベンチに腰を下ろした。
昼休みが終わるまでまだ時間がある。ここで飲んで行くとするか。
俺がベンチに座りジュースを飲んでいると、同じく自動販売機でジュースを買った高木さんが俺の隣に腰を下ろした。
「昨日は、なんであんな時間にあそこにいたの?」
「ん? あぁ……。妹を待ってたんだ。学級委員の集まりがあったから」
「ふーん……。一緒に帰ってるんだ」
「兄妹なんだから、別におかしくないだろ?」
「どうだろう?」
まぁ、確かに、俺自身高校生にもなって兄妹で登下校するのはどうかと思う事もあるぐらいだから、傍から見たらそれはおかしい事なのかもしれない。
「ま、楓のブラコンぶりはみんな知ってるから――」
「あれ? 楓の事知ってるの?」
この場合、聞いているのは、話に聞いて知っているという意味合いでの知っているではなく、面識があるので知っているという意味合いの方の知っているだ。
「ん? あれ? 言ってなかったっけ? クラスは違うけど、友達だよ」
今の話と昨日の楓の話を組み合わせると……。
「もしかして、俺の事も名前を名乗る前から知ってた?」
「……うん。もしかしたら、そうかなって。前に楓に教えてもらった時は遠目だったし、ちゃんと見たわけじゃなかったから」
高木さんが気まずそうに手の中の缶を弄ぶ。
「……怒ってる?」
「なんで?」
「黙ってたから……」
「別に。俺も聞かなかったわけだし、そんな事ぐらいで怒ったりしないよ」
「良かった」
俺の言葉を聞き、高木さんは嬉しそうに微笑んだ。
「正直、興味あったんだ。楓のお兄ちゃんの事」
「実際に会ってみてどう?」
「うーん……。まだ分かんない」
ま、昨日会ったばかりだからそんなもんか。
「楓は、やっぱり友達によく俺の事話したりしてるの?」
「まぁ……」
高木さんの苦笑が、何も言わずとも楓の普段の様子を十分過ぎる程物語っていた。
「それこそ白馬に乗った王子様の事でも話すみたいに、生き生きとした眼で」
その時の様子を思い出してか、高木さんが優しい笑みを見せる。
「楓って可愛いよね。なんか、子どもみたいに無邪気で」
あの年にしては、少し無邪気過ぎる気もするが……。
「お」
時計を見ると、昼休みが終わるまでもう十分程の時間しかなかった。
「俺、もう戻るから」
残っていたジュースを飲み干し、ベンチから立ち上がる。
「あ、うん……」
空き缶をゴミ箱に捨て、階段の方に向かう。
ふと振り向くと、高木さんがこちらに向かって手を振ってきた。
少し気恥ずかしさを感じつつ、俺も軽く手を振り返す。
それだけの事なのに、俺は頬が熱くなる感覚を覚え、思わず階段に着くまでの短い道のりを少しだけ早足に歩いた。
「よぉ。遅かったな」
自分の席に戻ると、前の席の隆治が俺の方に体を向けた。
「ちょっと、自販機で人に会ってな……」
「人? 楓ちゃんか?」
「いや……」
隆治とは出身中学が同じで、楓とも少なからず面識がある。
「それより、知ってるか?」
「何が?」
「新入生の中では一二を争う美人と評判の、あの高木円香。彼女に、どうやら親しい男がいたらしいんだ」
隆治はこの手の話は好きで、よく俺に聞きもしないのに校内で流れている噂話を聞かしてくる。
「別に。それぐらい、いるだろう」
男嫌いや男性恐怖症じゃあるまいし。
「それが、今まではいなかったんだよ」
「単に、入学したてで仲良くなってなかっただけじゃないか?」
「……」
隆治自身その可能性を認めてか、一瞬沈黙する。
「しかも、――」
だがそれもほんの瞬間の事、すぐに調子を元に戻した。
「帰りのホームルーム終了から大分経った放課後の校舎を、仲良さ気に二人で歩いてたっていうんだ」
隆治が今話しているという事は、その情報は今日もしくは昨日仕入れられた情報というわけだ。そして、隆治の話す状況……。
「なぁ。それって、いつの話なんだ?」
「お。ようやく、興味持ったか。昨日の放課後、一年生の男子生徒が見たっていう話だ」
昨日の放課後? つまり、その仲良さ気に歩いてた男っていうのは……。
「その話はもう結構広まってるのか?」
「さぁ? どうだろう? 俺はサッカー部の後輩から聞いたんだけど、一年生の間ではもう大分広まってるんじゃないか?」
「そうか」
その中に、相手が俺だと気づく奴はいるだろうか?
「どうした? 変な顔して」
「いや、なんでもない」
ま、見られて不味い場面っていうわけじゃないし、別にいいか。
「やっぱり、彼氏かな?」
「違うんじゃないか?」
「なんで、そう思うんだ? お前の言葉じゃないけど、あれだけ可愛いんだから彼氏ぐらいいてもおかしくないだろ?」
「……そうだな」
だが、その噂の相手が高木円香の彼氏でない事だけは断言できる。何せ、当人が言ってるんだから間違いようがない。
翌日の朝。
下駄箱を開けると、一枚の便箋が入っていた。
差出人の名前は書かれておらず、一時半に屋上に来て欲しいという内容の文章のみが便箋には書かれていた。
そして、昼休み。
昼食をいつもより早く食べ、屋上に向かう。
鉄の扉を開け、屋上に足を踏み入れる。
辺りを見渡すが、人影はない。
来ていないのか、それとも……。
「だーれだ?」
声と共に、突然視界が塞がれる。
「……高木円香」
「正解」
柔らかい感触が消え、視界が元に戻る。
「でも、なんで、フルネーム?」
「……なんとなく」
「……あ。そうか。まだお互いの呼び方決めてなかったね。呼び捨てでいいよ。私も直って呼ぶから」
俺が呼び捨てで呼ばれる事は、すでに決定事項らしい。
一応、俺、先輩なんだけどな……。
「じゃあ、高木」
「円香」
名前の方で呼べという事らしい。
「……円香」
「うん。よろしい」
満足気に微笑む円香。
年下相手に何やってるんだ、俺は。
「で、なんの用だよ? わざわざ、こんな手の込んだ呼び出し方までして」
「一度やってみたかったんだよね。こういうの。いつも呼び出される側だからさ。それに、直接呼びに来られたら、それはそれで迷惑でしょ?」
「まぁ……」
確かに。
「で?」
「でって?」
分かってって聞いてるな、こいつ。
「冗談。冗談だからそんな怖い顔しないでよ」
「たく」
後輩の悪ふざけに付き合う程、俺も暇ではない。……別に、付き合えない程、忙しいわけでもないが。
「用事。うん。そうだね。用事……」
「おい」
「大丈夫。今、作るから」
つまり、用事はない、と。
「帰る」
「え? あ、ちょっと」
踵を返しかけた俺を、円香が腕を掴み止める。
「なんだよ。特に用事はないんだろ?」
「あ。そうだ。携帯の番号とメアド交換しようよ」
「は? 別にいいけど。なんで?」
「いいじゃん。嫌なの?」
「そうじゃないけど……」
ズボンのポケットから携帯を取り出し、オーナー情報の場所を開く。
番号だけなら口頭でも伝えられるが、メールアドレスとなると見せた方が断然早い。
「ほらっ」
携帯の画面を円香に向ける。
少しの間待っていると、登録し終わった円香から俺の携帯にメールが届いた。
メールアドレスと、本文部分に書かれた電話番号を登録し携帯をポケットにしまう。
「直は結構メールやる人?」
「そんなには。そりゃ、来たら返すけど」
「そっか……」
円香が顎に手を置いて、考え込む仕草を見せる。
「なんで、そんな事を?」
「だって、あんまり頻繁にメールしたら、男の人って迷惑なのかなって……」
「いや、別に。そんな事ないけど」
「本当に?」
「ああ」
「そっか。そっか」
そう嬉しそうに呟く円香を見て、俺は不覚にも可愛いと思ってしまった。
枕元に置いてあった携帯が震える。
手だけを伸ばし、俺はそれを手に取った。
電源ボタンを押してディスプレイを見ると、そこにはメールの受信を報せるマークが。
スタンバイを解錠し、メールの受信ボックスを開く。
メールの差出人は高木円香。本文に書かれていたのはたった七文字の言葉。
電話していい?
俺はすぐに構わないという内容のメールを円香に返信した。
手の中で携帯が震え、ディスプレイに着信を報せるマークと電話を掛けてきた相手の名前が。
俺は着信ボタンを押すと、ベッドの上に体を起こして携帯を耳へと当てた。
「もしもし」
『……今、何してた?』
「ベッドに寝転んでた」
『そう……』
そして、沈黙。
実際に会っている場合と違って、電話越しの沈黙というのはどうも居心地が悪い。相手が目の前にいれば声以外の媒体から相手の状態を推測できるが、電話越しではそうはいかない。
「……そういえば、晩飯って円香が作ってるのか?」
『そうだけど……。急に、何?』
「いや、もうすぐ晩飯だなって思って」
『……』
再び訪れる沈黙。
これは俺の方から切り出すしかないか。
「何かあった?」
『え?』
「なんか、そんな気がしたから」
『……今日もお母さん晩御飯ウチで食べないって連絡入って、お父さんはそれ聞いて溜め息吐くし……。学校にいるとそうでもないけど、家帰って部屋で一人になると暗い考えばかり浮かんできちゃって……。それで、誰かと急に話したくなって……。でも、私、学校じゃそういうキャラじゃないし……』
それで、俺の所に電話を掛けてきたわけか。
『ごめんね。迷惑だよね。もう、切るから』
「は? ちょっと待て」
……本当に、切りやがった。
なんなんだよ。いきなり掛けてきたと思ったら、勝手に切りやがって。
「……」
一応、気になるので、いつでも電話を掛けてこいという内容のメールを送っておく。
返事はすぐに返ってきた。
今度はさっきより少ないたった五文字。
ありがとう。
携帯を閉じ、再びベッドに寝転がろうとしたその時、ドアが外から二度ノックされた。
「お兄ちゃん。もうすぐご飯だから、手伝って」
俺の返事を待たずして、楓がドアを開けて顔を覗かせる。
「ん。分かった」
携帯をズボンのポケットに入れ、ベッドから立ち上がる。
部屋を出ると、俺たちは一緒に一階へと向かった。
「なぁ。楓」
「ん?」
前を歩く楓が、振り向かず返事をする。
「高木円香って知ってるか?」
「友達だけど、なんで?」
階段の途中で立ち止り、今度は振り返り聞く。
「クラス、教えてくれないか?」
「お兄ちゃん。告白だったら、まずは手紙から始めた方がいいと思うよ。どうしてもって言うなら、紹介するけど……」
「違う。そうじゃなくて」
俺は円香と知り合った経緯とさっきの電話の内容を、当たり障りがない程度に要約して楓に話した。
「ふーん……。そんな事が……」
「通話の終わり方が終わり方だったから、少し気になって」
「別に、円香のクラスは教えてあげてもいいけど、教室にお兄ちゃんが行くのはどうなんだろう?」
「どうして?」
「円香、何かと騒がれる質だから、お兄ちゃんが直に教室に行くとまた噂になっちゃうかも」
「……」
確かに、円香の周辺を掻き回すのは俺の本意ではない。
「だから、代わりに私が行ってきてあげるよ」
「お前が?」
「もちろん。電話の内容を詳しく聞いてない事は説明するよ。お兄ちゃんが心配してたって伝えるだけ」
うん。それなら……。
「楓に頼もうかな」
「任せて。ちゃんと、お兄ちゃんの気持ちは伝えてきてあげるから」
「……」
なぜだろう。楓の言い方にどことなく不安を覚えるのは……。




