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たらのめたべた

作者: たすぽ

山菜が復讐する話。若干汚い話かもしれません。

甘いといえば、チョコレイト。苦いといえばエスプレッソ。いがいがと、腹に詰まったような刺激。催してしまうような、我慢できるような。私は、足先をぴんと伸ばし、この苦痛に耐える。

何がいけなかったのだろうか。のたうち回る痛みでもない。けれども、確実に私の脳を侵している。痛みでまともな思考がぐるぐる。まわってまわって、お腹を押さえた。やはりトイレに行こう。


さすりさすり、二階にある薄いピンクの便座へと足を早める。階段はこんなに長かったろうか。相対性理論。アインシュタインは大したものだと、今更ながらに気付く。

きゅうきゅうと大腸が、水を吸収しては物体を作り出して行く。私は抗えず、ジーパンとパンツを膝まで下げた。

いたい、いたい。下腹の脂肪をてのひらで揉み揉みと解しながら、この痛みを乗り切る。なんだか、赤子を産んでいるみたいだ。

唾をごくりと飲み込む。揉み込んでいた脂肪は次第に汗をかいて。私は、この痛みに耐えている。

耐えている、耐えているのだ。目頭が熱くなる。痛く、いたくて。目を瞑れば神様が私の内腑をちくちくといたぶっている。あぁいたい。けれども、途中じゃやめられない。そもそも自業自得なのだ。



スーパーに買い物へ行った母は、春の味覚を買ってきた。ふきのとう、うど、ぜんまい。東京に出回っている、ビニルものは風味が落ちる。それは母の昔から言う持論であった。

では、なぜ今日。山菜など買ってきたのか。山のものは柔らかいと、硬いものは好きでないと、彼女は繰り返し話したいたのに。

母はくたびれている顔をして山のものはここらじゃ手に入らないわ。と言い訳した。私は 、そう。一言言葉を口にした。

我が家は、揚げ物をしない。天ぷらは特に。油の片付けが好きでないし、トロや粉の処分にも困る。けれども今日はやっぱり違った。

母は、何リットルかの油をなみなみ鍋の中にいれた。160度、それが野菜の温度だ。私も手伝い、たらのめに白粉をつけトロに沈めた。ウドは、アクを抜きゼンマイなどはさっと茹でていた。

其の間、無言。もう春であるというのに、私たちは冷戦。

私は天ぷらが好きだった。食べるのがでない、揚げるほうである。

美しく広がる、緑。広げれば花開く。盛り付けば、へたれずに凛とした立ち姿。

私は私にうっとりし、美味しそうに見えるこいつらに、笑みを零した。

母は何も言わなかった。


夕食どきの沈黙は、なんだか面白くない。せっかく美味しく盛り付けた、ビニルものの山菜たちも浮かない顔をしていた。

箸を着ければきっとうまくない、うまくないけれど美味しそうに。無言を貫けば、いっそ箸が進み、15分経たずして奴らは腹に収まった。

油を含んだてらてらと。唇は艶かしく光る。けれども目の前は母。つまらぬ、つまらんとて席を立つ。

会話のないご飯は美味しくない。食ってすぐ寝て牛になれ。私が幾分かごろ着いていると、奴らの復讐が始まったのである。



いたい、いたい、いたい。腹が捩れるような痛みと、刺激臭。いっそ絞り出してしまいたい。

一度流れた涙は留まらず、私の頬をぬらぬらさせた。ばかめ、ばかめ、たらのめがいう。

私はちょっと哀しくなった。まるで母の言葉である。

その後20分格闘し、私はようやく水を流した。やってられない、階段を下りて玄関へ向かう。木製の戸を閉めて、 ポケットを探った。ライタァとマルボロが顔を出す。思い切り吸った味は、なんだかたらのめのようだった。

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