第六話
「おういらっしゃい。客……ではないか。新しい開拓者かい?」
リーフが居たのは街の東北部の大通りから少し入ったところにある、小奇麗な酒場のカウンターの中だった。リーフは刈り込んだ髪に、あごに蓄えられた髭、身長は俺とさほど変わらないが、ごつい作りをした体と、まさに歴戦の勇士といった姿をしていた。顔の真ん中に斜めに入っている大きな傷の跡が、リーフの歩んできた日々に説得力を増す。
「ああ、はい。つい先ほど開拓者になりました」
「そうかそうか。まあ座れや」
俺が言うとリーフは手をくいくいとして俺たちをカウンター席に招く。少し暗く感じる明かりに、しっかりとした調度品。カウンター席に座ってから辺りを見渡すと、予想以上にいい店だという印象を受けた。
「なるほどなるほど……」
席に着くと俺たちを見ながらリーフはしばらく考え込む様子を見せた。
「お前さんが戦士でお嬢ちゃんが魔法使いかい?」
「よく分かりますね」
「まあそんなもんだ。とりあえずあれだな、開拓者の心得を学んで欲しい……最初はだな……」
☆★☆
その後チュートリアルが始まり、この街でいろいろな店を回ったりして装備を整えたりした。
「ありがとなー」
「おう、何か分からないことがあったらまたこの店に来い。仕事の斡旋とかもしてるからな」
そして外見とは違い気さくだったリーフに軽く挨拶をして酒場をあとにする。
俺たちはこの短時間で、リーフの仲介を通じてたくさんの知識と知り合いを得た。
この街の北には『ジーム商会』という大きな開拓者用の商店があり、日用品から冒険用の道具まで各種を取り揃えている。西には鍛冶屋や防具屋があり、冒険のお供を得ることが出来る。南には『鳥の宿り木』という洒落た宿屋があり、体を休めることができる。そして外とつながる唯一の門がある東には開拓者をたくさんの方面からサポートしてくれる開拓者補助ギルドがある。
ゲームの中とはいえ、リーフ様々だった。
「いやー、しかし時間が経つのも早いよの」
そう言われてみれば、もうゲームの中でも日は暮れかけている。
「一旦夕飯にするか」
「おう」
アデルがそう答えるのを聞くと、俺はまたシステムボードを開いた。リーフのクエストを通じて見慣れたこの青いボードをさくさくと操作していき、ログアウトのボタンを押す。
「じゃあまた向こうで会おう」
そうアデルに告げると、俺の体が徐々に発行し出し、粒子状になっていき、最後には暗転する。
そこから若干のタイムラグがあり、目を開けると、見慣れた我が家とアデルの姿が戻っていた。結衣の姿はなくなっていた。
「いやあ本当にお前らの作り出すものは凄いな」
目を覚ますなりアデルは感嘆の様子を見せる。
「そりゃそうだ。お前を違って俺らは弱いからな」
「その通りお前らは弱かったが私は負けてしまった。得てしてわからないものじゃ。しかしこのゲームの中だと私もお前も他の人間もみんな対等じゃ。それが一番面白い」
アデルも魔王なりにいろいろ感じていたようだった。確かにゲームの中では空も飛べなければ瞬間移動をできない。異界の魔王と言えどもレベル相応の力しか持っていなかった。
「めっちゃ楽しんでるな」
「めっちゃ楽しんでるぞ。こんな世界など壊すべきでない」
本当に戦う意志はないようだ。
「じゃあとりあえず夕飯にするか」
ゲームをしてる間も当然現実の体はエネルギーを消費している。空腹に帰結するのも当たり前だ。
アデルが頷くので、とりあえず冷蔵庫を開ける。しかし何もない。
「買い物行ってくるぞー」
「行ってらっしゃいなのじゃ」
テレビをつけて寝転がり、完全にオフモードに入ろうとする魔王を尻目に、俺は寒くなってきている夕暮れの街へと繰り出した。




