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第五話



 外に出ると、そこには淡いレンガで作られた大きな広場が広がっていた。中央に噴水があり、それに沿うように建物が立ち、道が飛び出ている。


 おそらくここが街の中心にあたるのだろう。それはこの活気からしても予想がつく。


「武器安いよー、買ってけ! 買ってけ!」

「誰か次の街までパーティー組みませんか? 魔術師募集中です!」

「お兄さんといいことしない?」

「商業ギルド『海辺連盟』です! 商人目指してる方募集中です!」

「なんか初心者狙いのPk出没してるらしいぞ」

「私には連れがいるもんでの。また今度じゃな」


 なんていう活気の中から聞き慣れた声を見付ける。


「アデル!」

「おう、待っとったぞ勇二」

「ゲームの中じゃユキトと呼んでくれ頼むから」

「おうなるほどな」


「なんだほんとに連れがいんのかよ」


 なんてゲームの中で再会した、現実とほぼ容姿の変わらないアデルと会話をしていると、そのすぐ隣にいた安いチンピラのようなナリをした男がそう吐き捨てて去っていった。


「なんだ今のは」


「お前を待っていたら話しかけられた」


「ゲーム内でもあんなんいるんだな。すげえロールプレイ」


 なんて言いながらこの創られた世界のリアリティに圧倒される。こういったゲームにありがちな取ってつけたような美男美女だけではなく、今みたいなツーブロックのサングラスかけたお兄ちゃんみたいな人もいる。


 少ししゃがんでレンガに触れてみると確かなごわごわとした質感がそこにはある。

 

「やはり凄いのう。人族というものは」


 同じように落ち着いて周りを見回しているアデルもそうこぼす。


「そりゃあいつまでもふんぞり返っているだけでは勝てなくなるはずじゃ」


 そんな事まで言っている。


 しかしそんな思いに浸っているうちにも時間は過ぎていく。どうやらチュートリアルが始まったようで、ピロンという電子音と共に眼前に青い色のボードが出現した。


『ようこそグリードライフオンラインの世界へ。あなた達には開拓者として、この失われた大陸を開拓してもらうわ。でももちろんそれだけじゃないの。気に入った街に定住するもよし。鍛治や料理をするもよし。多種多様の生活が待っているわ。でもまだまだあなたは新米。冒険のノウハウを聞きに行こう。 クエスト:元開拓者、リーフに会え』


 その下にあるクエスト受領ボタンを押すと、また電子音が鳴り、画面にクエストを受領しましたとの文字が出てくる。そこからまたクエストの情報を読み込んでいくとどうやらそのリーフという人物は街の東北部に住んでいるようだ。


 ボードにあるマップを確認し、大体の位置を把握する。そしたらオーケーだ。


「なあユキトよ。これをどうすればいいのだ」


 しかし旅路というものはそれほどうまく行くものではない。現にアデルはいきなり出てきたクエストの文字にあたふたしている。ゲーム初心者にとっていきなり提示されるクエストなんてどうしたらいいかもわからないものだ。


「とりあえずクエスト受領ってのが右下にあるからそれを押せ」


「そのくらいはわかるわい。しかしあれか、行動を縛られるということか」


「いやまあやんなくてもいいのかも知んないけど、やった方が絶対に得だ。後は何と言ってもストーリーは進めなきゃ損だろ」


「まあよくわらかんがいいだろう。私はお前に付いていく」


 アデルはそうしてサクサクと指を動かす。クエストを受領したようなので、出発する。


 出発するといっても様々な露店や商店が軒を連ねる活気のある広場だ。俺たち以外のプレイヤーも多く、そこまで自由に動けるわけでもない。しかしアデルはこの人の多い状況をわりかし、少なくとも俺よりかは楽しんでいるようなので、文句を言うのはやめにする。


 今はそんな人波に揉まれながら、北に繋がる大通りを目指すことにする。


「なあユキト」

「どうした」

「あれ食べたい」


 人波といっても、周りに少し腕を伸ばせるくらいのスペースはある。アデルはそこスペース目一杯に腕を伸ばし、ある露店を指差す。


『ジャンボたこ焼き10z』


 その先には必ずお祭りに一つはあるだろう黄色い布を垂らし、そこにこの文字を赤くでかでかと書くたこ焼きの屋台があった。


「いやでも食いもんってこういうゲームだとステータスのボーナスのために使うんだぞ」


 とは言ってみたものの、別に本気で攻略しようとかは考えてはいない。ここは目をキラキラさせているアデルに負けるとする。


「すいませんたこ焼き一つ」


「さんきゅーな」


 会話を交わすと、俺の前にまたボードが出てくる。


『プレイヤートラキチ様から、食品たこ焼きを購入しますか?』


 迷わずはいを押す。


 するとアイテム欄にたこ焼きが出現した。もう一度それを押すと今度は本当にたこ焼きが手のひらに現れた。


「回りくどいシステムですね」


「まあしょうがないっちゃしょうがないすけどねえ。負荷もかなりかかっちゃうし。でも今度もっと簡単にプレイヤー同士の商売を出来るようにするシステムが実装されるらしいっすよ」

「へえ。詳しいんですね」

「まあそこそこっすね。ではまた機会があれば」

「ごちそうさまです」


 たこ焼き屋の金罰釣り目のお兄ちゃんと軽く会話を交わして後にする。


「はいよ」


「ありがとうユキト」


 たこ焼きを渡すと、爪楊枝を使ってアデルがひょいと一つ口に放り込む。


「む?」


「どうした? 毒でも入ってたか?」


 笑いながら俺がそう聞くと、アデルはむっとした表情を作る。


「味がないぞ」


 それを聞いて更に笑う。


「知ってたのかユキト!」


「はあはあ。そりゃそうだ。さすがに味覚まで再現されていたら恐ろしいわ」


 笑いを抑えてアデルに答える。


 アデルはむかついているようでぽかぽかと殴ってくるが痛みはない。


 ここはゲームの世界。


 俺もアデルも、新米開拓者だ。



 





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