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第四話



「しっかしこんなどこにでもあるようなもんでほんとに仮想空間にいけんのかよ」


 せわしなかった帰還した日から三日。アデラとよく分からない距離感での日々が続き、そろそろ気まずさに耐え切れなくなってきたところにそれはきた。


 昨年に発表され、新たな可能性をこの世界に示しているVR世界に潜り込むのを補助してくれるヘッドギアという機械だ。 


 見た目はバイクのフルフェイスのヘルメットを柔らかくしたような感じで、それが俺たちの前に三つ並んでいる。


「十年もあれば全部変わっちゃうもんなんですよー」


 説得力のあるようでないような言葉だ。少なくとも結衣の容姿に十年経ってもがらっと変わったという印象を持たせるほどの変化はなかったのに。


「まあいいや。で何で三つもあるんだ。結衣のを入れても二つでいいだろう」


「所長に話したらアデルちゃんに興味を持ったみたいでー、そいつにもこれやっていいぞって」  


「相変わらず豪快な人で」


 なんて言いつつ隣を見ると、肩を震わせるアデルの姿があった。


「どうした」


 そう俺が聞くと、楽しそうな返事が帰ってくる。


「最高だな、この世界はーー」


「楽しみすぎだろ魔王様」


「私はこの身体以外に別の魂を持つ魔法など聞いたことすらもないぞ」


 正確に言うと別の魂とかではないのだが、顔を紅潮させた様子のアデルにしいてそれを伝えようとは思わない。それよりもやはり確認しておきたいことはこのゲームの中で俺が何を為さなければならないのかだ。


「結衣」


「なんですかー?」


「そろそろ目的を教えてくれてもいいんじゃないか」


「いーえ。とりあえずゆーくんはこのゲームを楽しんでくれればいいんです。その為にアデルちゃんにもこのヘッドギアを渡したのー。まあ多少の指示は加えるかもしれないけど」


 腑に落ちないところも多いが、ここは納得しておくことにする。要は大きな仕事の後の長期休暇だと思えばいいのだ。最大のライバルつきの。最も今は牙のきの字もないようだが。


「じゃあまずはこのゲーム『グリードライフオンライン』のスタート時の設定についての指示だけ出しとくね」


 ゲーム名を聞いた時、俺とアデルの目が合った。結衣の説明は続いていたのでそれ以上はなかったが、ちょっと気になることが出来た。


☆★☆




 ヘッドギアを装着し、電源を入れることを意識すると、意識が遠のいていくかのような感覚、世界を行き来するのと似たような感覚が俺を襲う。


 目をつむり、暗闇の中その感覚にしばらく身を任せていると、ふと全ての重力から解放されたかのように体が感じた。そこで恐る恐る目を開けると、広がっていたのはただ真っ白な空間だった。


 上にも横にも果ての見えない白い空間。そこに三十秒ほど一人でぽつんと立っていると、電子合成を施したかのような女性の声が耳に入ってきた。

  

「これより、キャラクリエイトを開始します」


 この流れは結衣から聞いていたので、ちゃちゃっと済ませる。結衣が言っていたのは、極力自分の容姿から離れたものにしないように。昔はゲームの中では美男美女という異次元への自己投影を楽しんでいるのがこういったゲームだったと思うのだが、また話しも変わってきているのだろうか。


「続いて種族・職業の設定をしてください」


 とまた女性の声が言うと、眼前にホログラムのボードが浮き上がる。そこには四つの職業が記されていた。そこも事前の打ち合わせ通りヒューマン・戦士を選択する。


「では最後に、思いの設定をしてください」


「ん?」


 また同じようにボードが浮かび上がる。しかしこんな質問をされることなど聞いていなかった。


 ボードにかかれている選択肢は三つ。【希望】【絶望】【傍観】だ。何を選ぶのが正解なのかは分からないが、たいていゲームの中に出てくる哲学的な質問はストーリーの本筋に意味をもたらさなかったという経験があるので、悩みすぎるのも良くないと一番上の【希望】を選択した。


「以上で、初期設定は終了となります。では良き『グリードライフ』を」


 なんていう声とともに意識は再び深淵の中に飲み込まれる。次に目を覚ます時が、このオンラインゲーム『グリードライフオンライン』のスタートだ。


 


 再び独特の浮遊感を感じ目を覚ますと、喧騒が俺を迎える。


「あなたの旅に神のご加護があらんことを」


 喧騒だけではなく、豊かにひげを蓄えた、風格ある白髪の神官が俺を出迎えた。


 どうやらベッドに寝ている所からスタートするらしく、起き上がると荘厳な雰囲気を醸し出す教会のようなその建物の入り口にぐいぐいとこの神官が押してくる。


 建物の外からは強い光が差し込んでいて、扉が開いているにも

関わらず、未だに視界で捉えられていない。しかし飛び交う声の様子から、かなりの盛り上がりを想像できる。


 もうおっさんに近付いてきてるとはいえ、わくわくが止まらない。


 一つ深呼吸をして、神官に押されている勢いのまま、俺は外へと走り出した。


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