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第二話


「わからない、ってどういうことだ」


「言葉の通りじゃ。確かに私はお前の剣に刺された。完全に致命傷だったの。まあ仕返しに満身創痍だったお前に一発くらわせてやったが」


 魔王と最後の衝突を終えた後、その場に立っていたのは俺だった。ほっとけば三秒と持たずに勝手に倒れていたのに、アデラは容赦なく魔法を胸にぶつけてきた。その時ノことを考えると、左胸が少しうずく。


「それでお前が倒れたことを確認した私は安心して眠りについたわけじゃ。そして再び目覚めたら見たこともない世界よのう。山中から出れば見慣れぬ無骨な建物ばかり。そこに一つ知ってる匂いがあったから、そこにきたのじゃ」


 お前は犬か。

 とはいえあれだ。仮にも全知全能に限りなく近かったアデラが、自分の意思でないままにこっちに飛ばされる。


「まあ奇妙な話しだな」


「でも意外とこちらは楽しいの。私を見ても好奇の目を向けるだけで誰も平伏しようとせん」


「ってその格好で歩いてきたのか!?」


 アデラが何気なくこぼした一言に驚く。アデラの格好は純白のワンピースに素足と、それだけで目立つなりをしている。しかしそれだけではない。絹のような銀色の髪。底の見えない赤い瞳。そして非の打ち所のない人形のように揃えられた顔。そんな姿をしたぱっと見中学生にも満たない少女がいれば視線を向けてしまうのも当然の道理だ。


「そりゃそうであろう。こちらには誰も飛んでる者がいないようでの」


「飛んでたら大騒ぎだったからあながち悪い判断でもなかったのかもしれないな。つうか全く長い話じゃねえ! 一行で済む話だったじゃねえか!」


「含みを持たせるのも魔王の務めぞ」


「ねえ本当に魔王なの! そっくりさんだとかいうオチはないの!」


「断言しよう。ない」


 なんてもう大の大人になった俺の言葉を全て華麗にアデラは流す。


 そりゃあそうだ。だってアデラは俺の何倍、何十倍も長い年月を独りで生きてきていたのだから。


「レディーの齢を軽々しくいうとはマナー知らずにも程があるぞ」


「心を読むな!」




☆★☆




 一通り熱い戦いを終えた俺とアデラが感じたのは抗いようがない空腹感だった。


 こっちに戻ってきてから気付けば二時間が経過し、空を茜色に染まっている。


 俺は外に行きたいと駄々をこねるアデラを何とか説得し、懐かしさのある地元の商店街へと繰り出していた。


「おばちゃんこのハムカツ二つとヒレカツ四つ」


「はいよー。あんた一人暮らしかい」


 商店街に入ってすぐのところにある肉屋さんの陽気なおばちゃんは十年前と変わっていなかった。パーマをかけているであろう髪に白髪は増えたが。そんなおばちゃんは袋に注文したものを詰めるかたわら会話をしてくる。この年代の女性のお喋りへの情熱は世界という壁すら簡単に越えていくらしい。


「ん……あ、ああ一応」


「なんか最近放火魔が出るらしいのよ。しかも人が空けた家だけを狙ったやつらしいのよそれが。そんなん気を付けようもないかしれないけどまあ片隅にでも置いときなさい。はいということでハムカツ二つとヒレカツ四つで合わせて800円になります」


 はいよと千円を差し出すと、おばちゃんはレジをいじくり始めた。その姿も昔と何も変わらない。


「はいお釣りの200円。あんたあれだよね、十年くらい前によく来てくれてた子よね。まあ世の中大変だろうけど頑張りなさいよ」


 覚えてたんですか、なんて言葉はすんでのところで飲み込む。


 必要以上に深い関係を作ることは仕事の支障になるとさんざん言われている。でも心に来るものがあったのは確かだ。


 俺は品物を受け取るとおばちゃんに背を向け歩き出す。


「あり……がとう……」


 聞こえるかわからないくらいの小さなつぶやき。


「どういたしましてー!」


 しかしおばちゃんの地獄耳というのも全国共通だった。背中には手をブンブンと振るおばちゃんがいる、前にはまじまじと見るのは久々の綺麗な夕陽がある。後はアデラの服と靴を買って我が家に帰るだけだ。


 人との関わりっていいもんだなと、久々に感じた二十八の秋。


 この後子供用の服を買おうとした俺が訝しげな目で店員に見られていたのはまた別の話。

 

 


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