蹂躙
思考が上手く働かない。血管が直接火に焙られて沸騰しているようだ。激しい怒りの感情だけが俺を支配する。俺は何をするつもりだったのか。
足先にチクリとした痛みが走った。首を向けると男が剣を俺の足へと突き刺している。だが硬い竜鱗はそれを通さない。虫に刺されたような感覚だったが、怒りの矛先を向ける切っ掛けにはなった。
肺の中へと息を落とし込む。灼熱の炉となっているその場所で、超高温の炎と空気を混ぜ合わせて一気に膨張させた。それを吐き出す先はもちろん足元の小虫にだ。最後に見た男の顔は、どこか茫然とした表情をしていた。信じられないものを見た時に人はこのような表情をするのかもしれない。
灼熱の炎塊は男と触れた瞬間、爆音とともにその身体を焼き尽くした。地面の一部ごと溶解させ、穿たれた穴の中にはドロリと赤熱した物体が流れる。そこに男の姿は影形も残っていなかった。
残りは三人。どうやら勇敢な二人は仲間が蒸発した光景を見ても向かってくるらしい。俺は爪を振り上げてから、勢いよく二人まとめて薙ぎ払った。一人はそれで身体が千切れ飛び、二人目は数十メートル程度空中を浮遊しながら地面へ激突した。生死を確かめる必要はないだろう。
最後の一人は混乱しているのか、ひたすらに町とは反対方向へと遁走していく。どうやらミルや獣人の少女についてはもうどうでもいいらしい。逃げ切ることができると思っているのだろうか。
俺は背中にある翼の感覚を確かめる。
ちゃんと動くようだ。
このような巨体を飛ばすことができるのかと思ったが、その翼は驚くほど力強く、巨体を宙へと浮かび上がらせた。人の足で空を飛ぶ生物から逃げることなどは不可能だ。一瞬で距離は縮まり、巨体を支える大木のような足は地面へと着地する際、男をすり潰した。
不快な感触を地面に擦りつけ、今度はミル達の方へと向かう。激しい震動とともに着地後、様子を窺う。どうやら無事のようだ。
しかし、俺が安堵の息を漏らした先にいるミルの姿は、見慣れた姿ではない。小さな身体をただ震わせていた。獣人の少女も毛を逆立ててこちらを威嚇しているように見える。まあこんな姿を見れば当然かもしれない。俺だって自分で驚いてる。
突如、身体から力が抜けて倒れそうになった。それを必死で踏みとどまらせて意識を保つ。ここで倒れたりしたら二人を巻き込みかねない。
段々と自分の身体が小さくなるのが分かった。時間にしては数秒――俺は元の姿へと戻っていた。今度こそ地面に遠慮なく倒れたが、とてつもなく身体がダルイ。いや、というより指一本動かせない。
「い、イサヤ……さん?」
ミルが、ゆっくりであるがこちらへと近づいてくるのが見えた。
「ミル……無事で良かった」
俺の意識は、そこでプツンと途切れた。




