第一章 竜宮城
注意:この作品には前作「赤靴忌憚」に登場したある人物が出てきます。前作をお読みでない方は先に「赤靴忌憚」を読まれることをお勧めします。
時は現代日本、
浦島太郎という冗談みたいな名前の男がいた。
浦島という名字は仕方ないとして何故よりによって太郎なんて名前なのかは、
昨年両親が交通事故で死に、永遠の謎となってしまった。
この浦島太郎、いわゆるニートである。
大学受験に失敗し、浪人を自称しながらプラプラしているうちに両親が亡くなり、
当面生活していけるだけの遺産と保険金が入った。
勉強も仕事もする気がおきず、毎日釣りとネットゲームをして暮らしていた。
ある日、太郎は釣りに行ったが収穫はなく、竿を担いで海岸をブラブラと歩いていた。
すると子供達の歓声が聞こえる。
見れば子供達が三人ほどで、亀をいじめていた。
亀は体長1メートル程の大きな亀で、
ワニガメのような獰猛な顔つきをしているが、
甲羅を蹴られると慌てて首を引っ込めるのだった。
謎の大型亀に興味を覚えた太郎は子供達を追い払った。
毎日釣りばかりしている太郎は浅黒く日焼けし、見た目だけは強そうなのだった。
子供達を追い散らすと亀の側にしゃがみ込み、
「おい、大丈夫か」なんて声をかけてみる。
すると甲羅の中から厳めしい頭がニュッと出てきて、
「やい、テメエ、何してくれんだコラ」
なんてドスの効いた声で返事をしてきた。
「こいつ、喋るぞ!」
驚愕する浦島太郎。
「おう、コラ、人の話聞いとんのかワレェ。何してくれんじゃって聞いとるやろがぁ」
驚愕の余り口をパクパクさせてる太郎をよそに亀は喋り続ける。
「ショタっ子に虐めてもらうなんて特殊プレイ、幾ら払ったと思っとんねん。
しかも複数プレイやぞ?4Pやぞ?それも野外露出プレイ!
しかももうちょっとでイケるっちゅう所を邪魔しくさりおって。
まだ20分も時間あったんやで?まだあんな事やこんな事も出来たのに…」
亀が喋ってる時点で異常なのに、話してる内容も意味が解らない。
脳ミソがフリーズした太郎はただただ立ち尽くすのみだが、亀はマシンガントークを止めない。
「おう、コラ、この落とし前、どうやって付けてくれる気じゃあ?
テメエの不細工なヨメ売った位じゃどうにもならん金額やぞワレェ!
おう、なんとか言ったらどうや?誠意見せてみい、誠意」
何か発言を求められているらしいが、何と言ったものかわからない。
ヨメとかいないし。
「ああ、そうだ、オメエでええわ。ちょっとオメエ、ホレ、ココに乗れ」
どうも甲羅の上に座るように催促されているらしい。
ビジー状態の脳ミソは慎重に検討することもなく、太郎は亀の上に座ってしまった。
「振り落とされるなヨォォォォォォォォォォォォ!!!」
突然、奇声を上げながら亀は海に向かって驀進し始めた。
「うわ、ちょっとま、グハァ!ちょ、水が…!」
あっという間に海面が顔面の高さに達する。
「大丈夫大丈夫、俺が見たところオメエは深き者の末裔だ。すぐに馴染む。」
「………………………」
必死で息を止める太郎だったが、潜水訓練を受けたわけでもなく、すぐに限界に達する。
「ガハァッ!!」
口から空気の塊が吐き出され、海水が流れ込む。
「し、死ぬ!!」
「だから大丈夫だって。話せてるだろ?」
「え?ああ、本当だ。でも、なんで?」
「お前の先祖は元々海の深い所で暮らしていたんだ。
生命の危機に瀕して、その能力が顕れたんだよ。ホレ、首筋にエラが出来てるだろう?」
ほ乳類も元を辿れば水生動物に辿り着くって事を言いたいのだろうか?
首すじに手をやると、左右に一本ずつ切れ込みが出来ているのが感じられた。
エラなのだろうか?
解らない事だらけではあるが、当初の混乱は少し落ち着き、太郎は亀に聞いてみた。
「俺をどうする気だ?」
「竜宮城へ連れて行く」
目眩がする。やっぱりこんな名前をつけた両親が悪いのか。
それとも浜で亀を助けた(?)自分が悪いのか。
「竜宮城ってどこだよ?」
「南緯47度9分、西経126度43分」
まったくイメージがわかない。
「まあ、分かり易く言えば南太平洋のど真ん中よりやや南。イースター島の南西あたり」
「遠い!そんなとこまで泳いで行く気かよ!」
「ああ、心配すんな。さっき沖縄沖を通過した。あと一時間半もすれば着くだろ」
嘘だ。そんなに早く泳いでいるようには感じられない。
「竜宮城ってアレか? 絵にも描けない美しさなのか? 四季がいっぺんに味わえる庭とかあんのか?
きわどい衣装のオネエチャン達がアロハオエ〜とかやってんのか?」
「一度に質問連呼すんなや。まずアレな、竜宮城な。まあ、オメエが考えてるアレだ。
絵にも描けないっていう点は保証する。ただし、美しいかどうかはオメエの感性次第だ。
四季がいっぺんに味わえる庭ってのは、あるのかもしれんが、俺は知らん。まあ、広いからな。
きわどい衣装のオネエチャンは、いない事もないが、これもオメエ次第だ。
あと、アロハオエ〜ってのは多分ないと思うぞ」
「そうか。で、何のために俺をそこへ連れて行くんだ? 俺にお楽しみを邪魔された仕返しでもするのか?」
「それは乙姫様から直接聞いてくれ」
「誰だよ乙姫…」
しばらく要領を得ない質問と回答が続けられた後、
前方に人工的な建造物群が見えてきた。
近づくにつれ、それらは海底に広がる巨石建造物の大群であるのがわかった。
建造物はどれもねじくれ歪み、非ユークリッド幾何学的な設計によって建てられ、
その表面を緑色の粘液状の物質が覆っていた。
グロテスクで醜悪な巨石都市ははるか視界の果てまで続いており、ある種の荘厳な雰囲気を醸し出していた。
「……これが、竜宮…城…?」
「そうだ。我々はルルイエと呼んでいるが、好きに呼べばいい。偉大なる九頭竜様の御寝所、ルルイエだ」
つづく




