【超超短編小説】うらぼんえ
迎え火を焚いた。
木の燃える臭いに混ざって、海風が運ぶ磯の匂いとドブ川の臭いが鼻腔をいたぶる。
うんざりした背筋を深呼吸で伸ばすと、肺いっぱいに家業のLPガスだとか田舎っぽい料理だとか埃っぽさとか疲れとか閉塞とか交互監視とか妬みとか、とにかく田舎が充満していく。
そしてその真ん中を、ひと筋の煙が立ち昇っていった。
「おばあちゃん、ここが分かるかな」
ちろちろと燃える迎え火を見ながら、甥は心配そうに呟いた。名前はなんだっけ?
「安心しな」
俺は笑ってポケットから煙玉を取り出した。
漫画に出てくる爆弾の様な形をしたその導火線に火をつける。
ヂヂヂと弾ける様な音がして、すぐに毒々しい色の煙を大量に噴き上げ始めた。
「これで他の家がやってる迎え火と混ざらないから、すぐに分かるだろ」
名前の分からない甥は曖昧な愛想笑いを俺に向けると、またすぐに迎え火に視線を戻した。
鼻から浸入した田舎が蓄膿になって脳みそまで到達したあたりで、ジジイの運転するスカイラインが雑な運転でやってきた。
相変わらずの寸止めで、叔父が乗ってきたポルシェカレラにぶつけそうだった。
死んでからは好き放題に酒を飲み煙草を吸っているが、相変わらず首からはグリセリンをぶら下げている。
銀色の弾丸みたいなそれは、少し格好いいと思っていたのを思い出す。
スカイラインのドアを乱暴に閉じたジジイに手を挙げる。
「ひさしぶり」
「ん?」
「ひさしぶり」
「なに?」
「久しぶり!!」
怒鳴るほどの大声でようやくジジイは「あぁ」とだけ返した。
愛想もなにもない。
長男の長男が異常独身男性だからって、いくらなんでもその態度はないだろう?
だいたい死んでからも耳の遠さと無愛想さは変わら──ババアが来た。
ストレッチャーに乗せられたババアはやはり手に搔き壊し防止のミトンをはめていて、生気のない目をこちらに向けていた。
もうもうと爆煙をあげる煙玉と迎え火。
「な?ちゃんと来たろ」
甥に向かって言うが、甥はとっくに興味を失って携帯ゲーム機を遊んでいた。
ジジイもババアもあまり知らないし、そんなもんだ。
暇になったおれはジジイに35年越しの復讐でシザーズロックをかけたが、一度死んでしまうと何ともないようだった。
ムカついたので硬い桃を投げつけた。
硬い桃をぶつけられたジジイはグネグネと軟体化して形を変えると、やがて迎え火の中に身を投じてひと筋の煙に変化すると空へと昇っていった。
ババアがどうなるかは知らない。
おれはジジイのスカイラインに乗って磯とドブの臭いが混ざった道を走った。
ソープランドにでも行こう。田舎の臭いを落として帰ろう。
町中から立ち上る煙が呼ぶそれぞれの過去が、スカイラインのルームミラー越しに見えていた。




