表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

恋愛小説集【企画ものも含まれます】

願わくば、この幸せはずっと続きますように。

作者: ありま氷炎
掲載日:2025/11/22

 

 三年つきあった彼氏に振られた。

 彼は素直な彼女を好きになったみたい。

 わかる。

 私も男なら、きっと彼女を選ぶだろう。

 私は素直じゃない。

 素直って気持ちをきっとどこかに忘れてしまったのだろう。

 褒められても喜ばないし、常に怒ったような顔をしているみたいだ。

 怒ったような顔、普通の表情がそう見えるらしい。


 彼女はとても素直で、みんなに愛される子。

 可愛いは正義、それは彼女のためにある言葉だろう。


 私が頑張っても空回り。

 無駄が多いみたい。

 頑張ってるのはわかるけど、結果がねぇと上司に言われた。


 頑張っても結果が出せない私。

 あの子は、要領がいいのか、ううん。愛嬌。

 私が取れない仕事も、あの子は笑顔で取ってくる。

 どうして、私はこの仕事を選んだんだろう。


 仕事も上手くいかず、彼氏にも振られて、私は仕事をやめた。

 実家に戻った。

 田舎が大嫌いで出たはずなんだけど、結局戻ってきた。

 生きるためには仕事をしないといけない。

 だから、私は母の友人のお店を手伝うことにした。

 雑貨屋だ。

 レジは母の友人の茜おばさんがして、私はそのお手伝いだ。

 空いている時間はスマホを触って過ごした。

 毎日が過ぎていく。

 平和に、何もなく。

 だけど、田舎だから、やっぱり興味あるみたいで私に色々聞いてくる人がいる。

 茜おばさんがいる時は止めてくれるけど、ちょっと席を外した隙に、噂好きな人が聞いてくる。

 都会はどうだった?

 どうして戻ってきたの?

 彼氏はいるの?

 私は曖昧に答えたが、質問は止まない。

 茜おばさんがやってきて、やっとその人は質問を止めた。


 面倒くさい。

 だから、田舎なんて嫌いなんだ。

 だけど、どこにいく?

 都会に出たけど、私は結果を出せなかった。

 折角できた彼氏さえ、失った。


 生きていくためには働かないといけない。

 親にも申し訳ない。

 だから、茜おばさんのお店の手伝いを続けた。


 ある時、小学校の時の同級生が店にやってきた。

 私はまったく気が付かなかったけど、向こうは気が付いたみたいだ。

 私は小学校からあんまり顔が変わっていないから。

 その人はかなり外見が変わっていて、身長も伸びて、痩せていた。

 昔は、小太りでデブリンで呼ばれていた子だった。


「島田さん。お久しぶり。俺、デブリン。覚えている?」

「……うん」


 デブリン、話したことなかったけど、覚えていた。

 本名なんだっけ?


「島田さん、戻ってきてたんだね。田舎が嫌いだったみたいだから、戻ってくるとは思わなかった」


 ぐさりときた。

 そうだよね。

 私は曖昧に笑った。


 その日からデブリンはたまにお店に来て、私に話しかける。


 彼は青色の作業服を着ているので、多分案山子建設の人だろうと思う。

 いくつか建設会社があるけど、作業服の色で会社は区別できる。


「島田さん。今、彼氏いるの?ああ、いないか。いたら、戻ってこないよね」


 本当、このデブリン。

 頭にくる。

 私はまた曖昧に笑った。

 デブリン、本名は思い出せないけど、いつも私を苛立たせる。

 私だって戻ってきたくなかった。

 彼氏だって失いたくなかったよ。

 だけど、彼は彼女を選んだ。

 まあ、私なんかより彼女を選ぶのは当然だと思うけど。

 仕事だって、私は全然ダメだった。

 都会で、私は生きていけなかった。

 だから戻ってきた。

 嫌いな田舎に。

 情けない。

 一番、悔しくて、泣きそうなのは自分なのに、デブリンは笑いながら嫌な質問をしていく。


 会いたくない。

 デブリンに会いたくない。


 茜おばさんのところで働き始めて半年、私は初めて休んだ。

 お腹が痛いと言って、休みをもらった。

 実際、デブリンと会うと思うとお腹が痛くなっていたから、嘘じゃない。

 デブリンは間違ったことは言ってない。

 すべて事実だ。

 私は田舎が大嫌いだったから、いつもクラスから孤立していたし、一人だった。

 デブリンは揶揄われていたけど、みんなと一緒に楽しそうに過ごしていたな。


 どうして、彼は私に絡んでくるんだろう。

 私、何か彼にしたのだろうか?


「ちょっと、あんた!」


 部屋の外で声がして、いきなり襖があいた。

 デブリンがそこにいた。

 吐くかと思った。

 なんで、ここに?


「ごめん!」


 デブリンは正座して、頭を深々と下げだ。

 土下座だ。


「俺、全然、なんていうかデリカシー?がなかったみたいで、色々聞いてごめん。そんなに傷ついているって思わなくて……。俺のために仕事もつらくなっていたなんて、本当にごめん。これから、もう行かないようにするから。ごめん」


 デブリンは一人でそう捲し立てて、いなくなった。


 翌日、私は仕事に復帰した。

 茜おばさんに謝られた。


「いや、謝れられることじゃないですから。実際事実でしたし」

「いや、でもね。ほら、言っていいことと悪いことがあるでしょう?」


 茜おばさんには悪気がない。

 心配してくれた。


「まあ、とりあえず謝ってくれたのでいいです」


 どう返していいかわからず、そう言ってから私は仕事を再開した。

 デブリンはそれから現れなかった。

 かわりに、青色の作業服をきた別の人がやってくるようになった。

 デブリンと同じ位の年齢、だけど見たことない人だ。

 同級生ではないと思う。

 その人は淡々と買い物して帰る。


 その日から私の生活に静けさが戻った。

 淡々と仕事をして、空いている時間でスマホを見る。


 デブリンが来なくなって一か月がたって、珍客が現れた。

 元彼氏だ。


「よりを戻したい。静かに暮らしたい。前みたいに」


 彼はそう私に言った。


「いや、でも私、仕事ないから」

「仕事は探せばあるよ。しばらくは俺が養ってもいいし」


 何があったんだろう。

 田舎の生活は静かだけど、私はやっぱり都会に憧れている気持ちがあって、彼に元へ戻ることにした。

 あの子とは別れていた。

 というか振られたらしい。

 あの子は別の人と付き合っているみたい。


 私はとりあえず、コンビニでアルバイトをすることにした。

 田舎の雑貨屋とやってることは同じだから大丈夫だと思ったから。

 仕事で成果だすとか、そういうのを気にしなくてもよさそうだし。

 面接に受かってコンビニで働くことになった。

 だけど、彼のためにご飯をつくったり家事をしたりするから、勤務時間が彼に合わせたものだ。

 彼は私の作ったご飯を美味しいと言って食べてくれる。

 だけど、以前と違って、私はあまり嬉しくない。

 どうしてだろう。


「え、島田さん?」


 ある時、店長に頼まれて深夜のシフトをしていると、デブリンが現れた。


「ごめん!」

「あの、デブリン!」


 私の顔を見ていなくなろうとしたから、思わず呼び止めてしまった。

 同じシフトで働いていた前田君がびっくりしていた。

 あ、本名、聞いとけばよかった。


「あ、俺、野村」


 そうだ。野村君。そんな名前だった。


「野村君、あの、気にしないでいいから。会計も、この前田君がするし」

「え、俺ですか?」


 前田君にお願いして、私は後ろの倉庫に隠れた。

 しばらくしてから、前田君が戻ってきた。


「あの、デブじゃなくて、野村さん。元彼氏ですか?いや、デブリンって呼んでいたからそれはないか」

「ないない。ありえない。なんで、そんな勘違いできるの?」

「だって、あの人、めっちゃ俺のこと睨んでましたよ。俺の事、島田さんの彼氏とか思ってるんじゃないですか?」

「ないない。ありえない。妄想しすぎ」


 なんて想像しているの。前田君は。

 ありえないから。

 デブリンじゃなくて、野村君はなんか私によくつっかかってきたから、多分私のことが嫌いなんだよ。


「ごめん。百合子がよりを戻したいって言ってきて」


 三日後、彼からとんでもないことを言われた。


「え?なにそれ」


 さすがの私もそう言ってしまった。

 よりを戻すから、別れたい?

 え?


「さすがに呼んできて、出て行けっていわない。俺が出ていくから」


 彼はそう言ったけど、そういう問題じゃない。

 家賃は折半しているけど、私の今のお給料じゃこの家賃全部払えるわけがない。

 この人、頭おかしい。

 前に別れを切り出された時は悲しかったけど、今回は怒りしかなかった。


「いやいい。私が出ていくから!」


 私らしくない。

 本当に。

 私は鞄に服をまとめると、そのまま家を出た。

 折り返し電話がかかってくるかと思ったけど、かかってくることはなかった。

 それはやっぱり悲しかった。

 なんだったんだろう。


 荷物を抱えて、ファミレスに一人で入った。

 どうみても夜逃げっぽい。

 だけど、店員さんは普通の対応、しかも一番奥の席に案内してくれて、泣くかと思った。


「ご注文決まりましたら、お呼びください」


 店員さんの声が優しい。

 泣くのは悔しかったので、私はこれからのことを考える。

 家は彼名義で借りていたから、私が何もすることはない。

 出て行ってあげるんだから、流石に何も言わないと思う。

 家に残したものは捨てられて困るものはない。

 一回別れた時は段ボール箱に色々詰めて、引っ越ししたけど、田舎から戻ってきたときは、何も買わなかったこともあって、私のものはすごく少ない。


「……店長に連絡して、辞めること言わないと。新しい人が入るまでいたいけど、泊まるところないから」


 店長に電話して事情を話したところ、また折り返すって言われて、待っていたら、前田君から電話あった。

 どこにいるか聞かれて、何も考えずにファミレスの名前と支店名を伝えたら、待っていてと電話を切られた。

 店長といい、前田君といい、何なんだろう。

 よくわかんないけど、お茶でも飲もうとドリンクバーをオーダーして、お茶を飲んでいるとデブリンがやってきた。


「デ、野村君?」

「話は前田から聞いた」


 デブリン、野村君はちょっと怒っていた。

 なぜ?

 前田君とも呼び捨てする仲?


「島田さんは田舎が嫌い。これからもここで暮らしたい?」


 いきなりの質問。

 私もわからない。


「俺、今、雁多建設で働いているんだ。家も近く。泊まるところないなら、俺のところ来る?」

「……いえ、ご遠慮します」

「島田さん、ぜひ、野村の家に泊まって。うちの店、人手不足だからやめられると困るし、お願いします!」


 突然声が降ってきた。

 前田君だった。


「野村は大丈夫な男です。不埒なことはしないです。な?」

「うん。もちろんだ」


 前田君に説得されて、とりあえず野村君の家にお世話になることになった。

 本当、いつの間に二人は仲良くなっていたのか、本当に不明。

 野村君の家はちゃんと二部屋あって、一部屋を貸してもらうことになった。

 どうやら、同僚とシェアしていたらしいけど、最近いなくなったみらい。

 なんていいタイミング。

 野村君がなんでこんなに親切にしてくれるか、謎なんだけど、ちゃんと家賃を払うのでしばらく置いてもらうことにした。


 食事を作るのは好きだったので、野村君が食べるかわからなかったけど、作るようになった。

 一人分をきっかり作るのが苦手で、二人分くらいがちょうどいい。

 作ってもらっているからと洗い物は野村君にお願いした。

 そうして奇妙な同棲生活が始まった。

 いや、共同生活。

 同棲は好き同士だから、違う。


「島田さんは、これからどうしたいんですか?」


 前田君がちょくちょく遊びにくるようになった。


 彼にそう質問されて、私は答えられなかった。

 どうしていいかわからないからだ。


「前田はどうしたいんだ?」

「俺は店長みたいな、店長になる!」


 前田君は店長を尊敬しているし、素直だ。

 いい店長になるだろう。

 私は、何をしたいんだろう。

 田舎でもただ過ごして、元彼の言葉にのせられて、都会に戻ってきても、また捨てられた。

 もう恋愛はこりごりかもしれない。

 一人で生きていく術を身に着けたい。


「だったら、島田さんも店長めざしましょうよ!」

「いや、私は…。野村君は将来どうしたいの?」

「俺は、結婚したい」

「早すぎ!」

「いや、早くないんじゃない?もうすぐ三十歳だし」

「だよな。うん」

「野村。勘違いするなよ」

「してないよ」

「結婚か。野村君は好きな人がいるの?それとも今から作るの?」

「好きな人はいる」

「そうなんだ。あ、だったら、私出て行った方がいいよね」

「必要ないから。うん」

「でも」

「ああ、島田さん、そこは突っ込まない。とりえあず、島田さんも店長目指しましょう」


 なんだか出来上がった前田君が急にテンションをあげて、飲み会はそれで終わった。


「片付けは私はするから」

「あ、俺がする。島田さんは休んでいて」

「いいよ」


 デブリンと呼んでいた時は築かなかったけど、野村君は優しい。

 あの突っかかれた時が懐かしく思えるくらい、今はとても優しい。

 だけど、好きな人がいるなら。


「野村君、あのさ。ずっと部屋をシェアしてくれて、ありがとう。だけど、好きな人がいるんだったら、私出て行った方が」

「必要ないんだって!本当」


 野村君が珍しく大声を出して、びっくりしてしまった。


「ああ、ごめん。だけど、本当いいから」

「……出て行ってほしい時は早めにいってね。突然はびっくりするから」

「そんなこと絶対にないから」


 やけに真剣にそう答えられて、ドキドキした。

 野村君は身長が高くて、ガタイいい。

 中学から別々だったけど、そこから痩せて身長が一気に伸びたんだろうな。

 羨ましい。

 私はずっと変わらない感じだから。


 それから一か月過ぎた。


 私は、あの子を街中で見かけた。

 彼女は野村君と一緒にいて、心臓が止まるかと思った。

 反射的にその場から逃げ出していて、びっくりした。


 無我夢中で走って、立ち止まって考える。

 あの子、また別れたのかな?

 二回も振ったの?彼を。

 そして次は野村君?

 野村君が好きだったのは彼女だったんだ。

 私はまた彼女に奪われるの?

 奪われる?

 何言ってるんだろう。

 奪われるとか。

 野村君はただの同居人だ。


 ちょうどよく、その日はシフトが入ってなくて、私は家に戻ると荷物をまとめる。

 馬鹿みたいに、色々買ったから、鞄一つで家を出られない。

 近くのスーパーで段ボールをもらって、荷物をまとめていると扉が開く音がした。


「島田さん?!」


 驚いた声がして、彼が扉をノックする。


「ごめん。ちょっと待って。後で話する」


 何でか涙が込みあげてきて、すぐに彼と会いたくなかった。

 なんで悲しいのかな。

 馬鹿みたいに泣くのは嫌だし、荷物をまとめて冷静になろうとした。


「今、話できる?荷物、まとめてる?なんで」


 扉越しに彼は質問してくる。


「うん。出ていこうと思って。ほら、彼女がいるでしょ?」

「彼女?!」


 余計なことを言ってしまった。

 馬鹿だ。


「あ、ごめん。ちょっと彼女と一緒にいるところを見て。好きな人って彼女でしょ?ごめんね。もっと早く出ていけばよかった」

「島田さん、何言ってるの?彼女って、ああ、あの女か。ちょっと話したい。本当に。お願い」

「ごめん。話したくない。後でいい?荷物纏めたいから」

「今、今話ししたい。扉開けてくれないから、このまま話す。うん、このまま話すから。彼女ってさっき、俺が一緒にいた女のことだよね?変な女で島田さんのこと聞かれたんだ。馴れならしくて嫌だなあと思っていたけど、見られていたなんて」

「別に隠さなくていいよ。彼女可愛いよね。野村君もきっと彼女を好きになるよ」


 ちょっと涙が出てきた。

 嫌だ。

 こんなの。


「ごめん。後でいい?本当に」

「嫌だ。絶対に今話したほうがいい。勘違いしてるよね?」

「勘違い?勘違いじゃないでしょ?」

「ああ、もう埒があかない!」


 野村君は扉に体当たりすると、べりべりっと扉を壊して、入ってきた。


「の、野村君、大丈夫?」


 この人、何してるんだろう。

 っていうか怪我してる。


「病院行こう。怪我している!」

「病院行かない。話し聞いてくれたら、病院いく」

「なに、それ。病院行こうよ!」

「だったら、話を聞いて」

「わかった。話を聞くから」

「よし。俺よくやった。島田さんはあの女のこと勘違いしてるみたいだけど、今日会ったのが初めてだ。あと俺の好きな人は島田さん」

「は?」

「俺が好きなのは島田さん。わかった?」

「わからない。全然」

「俺が好きなのは島田さん。俺が好きなのは島田さん。俺が好きなのは」

「もう、いいから。っていうか血が出てる。病院いこ!」

「島田さん、勘違いしてないよね?まだしてる?」

「してないから」

「してるでしょ?俺が好きなのは島田さんだから。本当。わかって」


 わかるわけない。

 なんで、そんな突然。

 私が好かれるわけがない。

 あの子はとても可愛くて、仕事もできる。 

 私が好きなんてありえない。

 だけど、とりあえず、それは置いといて、病院に連れていく。


「病院行こう。保険証は?」

「島田さん、島田さん」


 ちょっと野村君、やばいかも。

 どうにか保険証の場所を聞いて、私は彼を連れて病院へ向かった。

 骨は折れてなかったけど、数針縫うことになった。

 けど入院の必要はなく、だけど、しばらく仕事にいけなくなった。あと、利き腕がやられたので、しばらく私が彼のご飯を手伝うことに。


「怪我してよかった。こういうの怪我の功名っていうんだっけ」


 野村君はのんきだ。

 本当に。

 彼女のことはもう口に出していない。

 だけど、どうなのかな。


 翌日、元彼氏から連絡があった。

 また別れたらしい。

 驚くことはなかったけど、よりを戻したいというメッセージにはきっちり返事をした。


『もう恋愛はこりごりなので、私は一人で生きていきます』


 人の気持ちなんて不安定すぎて、それに頼って生きていけない。

 やっぱり前田君のいうように私も店長を目指すかな。


「治ちゃった。仕事いかないといけない。三食、島田さんのご飯食べていたかった」


 野村君は本当に残念そうだった。

 それでも夕食は作るから一緒だけど。


 彼が仕事に復帰、私は自分のシフト通りにコンビニへ通う。

 ある時、一人で家にいる時、彼女が訪ねてきた。

 扉を開けたくなくて、無視していたら、扉越しに野村君の声がした。


「こんにちは」


 彼女の甲高い声で甘えた声を扉越しに聞く。


「気持ち悪いな。なんで家の前にいるの?ストーカー?警察呼んでいい?」

「ひっどい!カンナが会いにきたのに。嬉しくないんですか?」

「気持ち悪い。話さないでくれる?それ以上纏わりついたら、警察呼ぶから」


 野村君がそう言うと、彼女の声が聞こえなくなって、扉が開かれた。

 しっかり閉める音、チェーンまでかけてから、彼が部屋に入ってくる。


「気持ち悪い人がいた。あいつ苦手」


 私は酷い人だ。

 だけど、その言葉が嬉しかった。


「俺は島田さんが好きだから。本当」


 野村君の言葉が切っ掛けで涙が溢れてきた。


「最初、俺、最悪だった。ごめん。俺もなんであんな風に言ったか、わからなくて。島田さんが都会に戻ったって聞いて、俺も都会に住んでみようと思って。偶然会えてとてもうれしかった。一緒に暮らせて、夢かと思った。島田さん、俺と付き合ってください。俺は絶対に裏切らないから」


 彼の言葉一つ一つが嬉しくて、涙が止まらなかった。


「前田にも感謝。あいつのこと勘違いしていたけど、一緒に飲んで全部教えてもらって、誤解が解けた。あと島田さんの可愛い話も聞けてよかった」


 可愛い?

 私が?


「島田さん。あんまり深く考えなくていいから。とりあえず、これからもよろしく。たまに島田さんの料理も食べたい」


 私は野村君と付き合うことになった。

 あの子の声を聞いたのは、あの日が最後だった。

 元彼も、私のメッセージに返信することはなかった。


 私はやっぱり仕事できないし、可愛くないと思う。

 だけど、野村君にいつも褒めてもらったり、好きって言われるととてもうれしくて、それだけで幸せで泣きたくなる。

 願わくば、この幸せがずっと続きますように。


(終)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ