願わくば、この幸せはずっと続きますように。
三年つきあった彼氏に振られた。
彼は素直な彼女を好きになったみたい。
わかる。
私も男なら、きっと彼女を選ぶだろう。
私は素直じゃない。
素直って気持ちをきっとどこかに忘れてしまったのだろう。
褒められても喜ばないし、常に怒ったような顔をしているみたいだ。
怒ったような顔、普通の表情がそう見えるらしい。
彼女はとても素直で、みんなに愛される子。
可愛いは正義、それは彼女のためにある言葉だろう。
私が頑張っても空回り。
無駄が多いみたい。
頑張ってるのはわかるけど、結果がねぇと上司に言われた。
頑張っても結果が出せない私。
あの子は、要領がいいのか、ううん。愛嬌。
私が取れない仕事も、あの子は笑顔で取ってくる。
どうして、私はこの仕事を選んだんだろう。
仕事も上手くいかず、彼氏にも振られて、私は仕事をやめた。
実家に戻った。
田舎が大嫌いで出たはずなんだけど、結局戻ってきた。
生きるためには仕事をしないといけない。
だから、私は母の友人のお店を手伝うことにした。
雑貨屋だ。
レジは母の友人の茜おばさんがして、私はそのお手伝いだ。
空いている時間はスマホを触って過ごした。
毎日が過ぎていく。
平和に、何もなく。
だけど、田舎だから、やっぱり興味あるみたいで私に色々聞いてくる人がいる。
茜おばさんがいる時は止めてくれるけど、ちょっと席を外した隙に、噂好きな人が聞いてくる。
都会はどうだった?
どうして戻ってきたの?
彼氏はいるの?
私は曖昧に答えたが、質問は止まない。
茜おばさんがやってきて、やっとその人は質問を止めた。
面倒くさい。
だから、田舎なんて嫌いなんだ。
だけど、どこにいく?
都会に出たけど、私は結果を出せなかった。
折角できた彼氏さえ、失った。
生きていくためには働かないといけない。
親にも申し訳ない。
だから、茜おばさんのお店の手伝いを続けた。
ある時、小学校の時の同級生が店にやってきた。
私はまったく気が付かなかったけど、向こうは気が付いたみたいだ。
私は小学校からあんまり顔が変わっていないから。
その人はかなり外見が変わっていて、身長も伸びて、痩せていた。
昔は、小太りでデブリンで呼ばれていた子だった。
「島田さん。お久しぶり。俺、デブリン。覚えている?」
「……うん」
デブリン、話したことなかったけど、覚えていた。
本名なんだっけ?
「島田さん、戻ってきてたんだね。田舎が嫌いだったみたいだから、戻ってくるとは思わなかった」
ぐさりときた。
そうだよね。
私は曖昧に笑った。
その日からデブリンはたまにお店に来て、私に話しかける。
彼は青色の作業服を着ているので、多分案山子建設の人だろうと思う。
いくつか建設会社があるけど、作業服の色で会社は区別できる。
「島田さん。今、彼氏いるの?ああ、いないか。いたら、戻ってこないよね」
本当、このデブリン。
頭にくる。
私はまた曖昧に笑った。
デブリン、本名は思い出せないけど、いつも私を苛立たせる。
私だって戻ってきたくなかった。
彼氏だって失いたくなかったよ。
だけど、彼は彼女を選んだ。
まあ、私なんかより彼女を選ぶのは当然だと思うけど。
仕事だって、私は全然ダメだった。
都会で、私は生きていけなかった。
だから戻ってきた。
嫌いな田舎に。
情けない。
一番、悔しくて、泣きそうなのは自分なのに、デブリンは笑いながら嫌な質問をしていく。
会いたくない。
デブリンに会いたくない。
茜おばさんのところで働き始めて半年、私は初めて休んだ。
お腹が痛いと言って、休みをもらった。
実際、デブリンと会うと思うとお腹が痛くなっていたから、嘘じゃない。
デブリンは間違ったことは言ってない。
すべて事実だ。
私は田舎が大嫌いだったから、いつもクラスから孤立していたし、一人だった。
デブリンは揶揄われていたけど、みんなと一緒に楽しそうに過ごしていたな。
どうして、彼は私に絡んでくるんだろう。
私、何か彼にしたのだろうか?
「ちょっと、あんた!」
部屋の外で声がして、いきなり襖があいた。
デブリンがそこにいた。
吐くかと思った。
なんで、ここに?
「ごめん!」
デブリンは正座して、頭を深々と下げだ。
土下座だ。
「俺、全然、なんていうかデリカシー?がなかったみたいで、色々聞いてごめん。そんなに傷ついているって思わなくて……。俺のために仕事もつらくなっていたなんて、本当にごめん。これから、もう行かないようにするから。ごめん」
デブリンは一人でそう捲し立てて、いなくなった。
翌日、私は仕事に復帰した。
茜おばさんに謝られた。
「いや、謝れられることじゃないですから。実際事実でしたし」
「いや、でもね。ほら、言っていいことと悪いことがあるでしょう?」
茜おばさんには悪気がない。
心配してくれた。
「まあ、とりあえず謝ってくれたのでいいです」
どう返していいかわからず、そう言ってから私は仕事を再開した。
デブリンはそれから現れなかった。
かわりに、青色の作業服をきた別の人がやってくるようになった。
デブリンと同じ位の年齢、だけど見たことない人だ。
同級生ではないと思う。
その人は淡々と買い物して帰る。
その日から私の生活に静けさが戻った。
淡々と仕事をして、空いている時間でスマホを見る。
デブリンが来なくなって一か月がたって、珍客が現れた。
元彼氏だ。
「よりを戻したい。静かに暮らしたい。前みたいに」
彼はそう私に言った。
「いや、でも私、仕事ないから」
「仕事は探せばあるよ。しばらくは俺が養ってもいいし」
何があったんだろう。
田舎の生活は静かだけど、私はやっぱり都会に憧れている気持ちがあって、彼に元へ戻ることにした。
あの子とは別れていた。
というか振られたらしい。
あの子は別の人と付き合っているみたい。
私はとりあえず、コンビニでアルバイトをすることにした。
田舎の雑貨屋とやってることは同じだから大丈夫だと思ったから。
仕事で成果だすとか、そういうのを気にしなくてもよさそうだし。
面接に受かってコンビニで働くことになった。
だけど、彼のためにご飯をつくったり家事をしたりするから、勤務時間が彼に合わせたものだ。
彼は私の作ったご飯を美味しいと言って食べてくれる。
だけど、以前と違って、私はあまり嬉しくない。
どうしてだろう。
「え、島田さん?」
ある時、店長に頼まれて深夜のシフトをしていると、デブリンが現れた。
「ごめん!」
「あの、デブリン!」
私の顔を見ていなくなろうとしたから、思わず呼び止めてしまった。
同じシフトで働いていた前田君がびっくりしていた。
あ、本名、聞いとけばよかった。
「あ、俺、野村」
そうだ。野村君。そんな名前だった。
「野村君、あの、気にしないでいいから。会計も、この前田君がするし」
「え、俺ですか?」
前田君にお願いして、私は後ろの倉庫に隠れた。
しばらくしてから、前田君が戻ってきた。
「あの、デブじゃなくて、野村さん。元彼氏ですか?いや、デブリンって呼んでいたからそれはないか」
「ないない。ありえない。なんで、そんな勘違いできるの?」
「だって、あの人、めっちゃ俺のこと睨んでましたよ。俺の事、島田さんの彼氏とか思ってるんじゃないですか?」
「ないない。ありえない。妄想しすぎ」
なんて想像しているの。前田君は。
ありえないから。
デブリンじゃなくて、野村君はなんか私によくつっかかってきたから、多分私のことが嫌いなんだよ。
「ごめん。百合子がよりを戻したいって言ってきて」
三日後、彼からとんでもないことを言われた。
「え?なにそれ」
さすがの私もそう言ってしまった。
よりを戻すから、別れたい?
え?
「さすがに呼んできて、出て行けっていわない。俺が出ていくから」
彼はそう言ったけど、そういう問題じゃない。
家賃は折半しているけど、私の今のお給料じゃこの家賃全部払えるわけがない。
この人、頭おかしい。
前に別れを切り出された時は悲しかったけど、今回は怒りしかなかった。
「いやいい。私が出ていくから!」
私らしくない。
本当に。
私は鞄に服をまとめると、そのまま家を出た。
折り返し電話がかかってくるかと思ったけど、かかってくることはなかった。
それはやっぱり悲しかった。
なんだったんだろう。
荷物を抱えて、ファミレスに一人で入った。
どうみても夜逃げっぽい。
だけど、店員さんは普通の対応、しかも一番奥の席に案内してくれて、泣くかと思った。
「ご注文決まりましたら、お呼びください」
店員さんの声が優しい。
泣くのは悔しかったので、私はこれからのことを考える。
家は彼名義で借りていたから、私が何もすることはない。
出て行ってあげるんだから、流石に何も言わないと思う。
家に残したものは捨てられて困るものはない。
一回別れた時は段ボール箱に色々詰めて、引っ越ししたけど、田舎から戻ってきたときは、何も買わなかったこともあって、私のものはすごく少ない。
「……店長に連絡して、辞めること言わないと。新しい人が入るまでいたいけど、泊まるところないから」
店長に電話して事情を話したところ、また折り返すって言われて、待っていたら、前田君から電話あった。
どこにいるか聞かれて、何も考えずにファミレスの名前と支店名を伝えたら、待っていてと電話を切られた。
店長といい、前田君といい、何なんだろう。
よくわかんないけど、お茶でも飲もうとドリンクバーをオーダーして、お茶を飲んでいるとデブリンがやってきた。
「デ、野村君?」
「話は前田から聞いた」
デブリン、野村君はちょっと怒っていた。
なぜ?
前田君とも呼び捨てする仲?
「島田さんは田舎が嫌い。これからもここで暮らしたい?」
いきなりの質問。
私もわからない。
「俺、今、雁多建設で働いているんだ。家も近く。泊まるところないなら、俺のところ来る?」
「……いえ、ご遠慮します」
「島田さん、ぜひ、野村の家に泊まって。うちの店、人手不足だからやめられると困るし、お願いします!」
突然声が降ってきた。
前田君だった。
「野村は大丈夫な男です。不埒なことはしないです。な?」
「うん。もちろんだ」
前田君に説得されて、とりあえず野村君の家にお世話になることになった。
本当、いつの間に二人は仲良くなっていたのか、本当に不明。
野村君の家はちゃんと二部屋あって、一部屋を貸してもらうことになった。
どうやら、同僚とシェアしていたらしいけど、最近いなくなったみらい。
なんていいタイミング。
野村君がなんでこんなに親切にしてくれるか、謎なんだけど、ちゃんと家賃を払うのでしばらく置いてもらうことにした。
食事を作るのは好きだったので、野村君が食べるかわからなかったけど、作るようになった。
一人分をきっかり作るのが苦手で、二人分くらいがちょうどいい。
作ってもらっているからと洗い物は野村君にお願いした。
そうして奇妙な同棲生活が始まった。
いや、共同生活。
同棲は好き同士だから、違う。
「島田さんは、これからどうしたいんですか?」
前田君がちょくちょく遊びにくるようになった。
彼にそう質問されて、私は答えられなかった。
どうしていいかわからないからだ。
「前田はどうしたいんだ?」
「俺は店長みたいな、店長になる!」
前田君は店長を尊敬しているし、素直だ。
いい店長になるだろう。
私は、何をしたいんだろう。
田舎でもただ過ごして、元彼の言葉にのせられて、都会に戻ってきても、また捨てられた。
もう恋愛はこりごりかもしれない。
一人で生きていく術を身に着けたい。
「だったら、島田さんも店長めざしましょうよ!」
「いや、私は…。野村君は将来どうしたいの?」
「俺は、結婚したい」
「早すぎ!」
「いや、早くないんじゃない?もうすぐ三十歳だし」
「だよな。うん」
「野村。勘違いするなよ」
「してないよ」
「結婚か。野村君は好きな人がいるの?それとも今から作るの?」
「好きな人はいる」
「そうなんだ。あ、だったら、私出て行った方がいいよね」
「必要ないから。うん」
「でも」
「ああ、島田さん、そこは突っ込まない。とりえあず、島田さんも店長目指しましょう」
なんだか出来上がった前田君が急にテンションをあげて、飲み会はそれで終わった。
「片付けは私はするから」
「あ、俺がする。島田さんは休んでいて」
「いいよ」
デブリンと呼んでいた時は築かなかったけど、野村君は優しい。
あの突っかかれた時が懐かしく思えるくらい、今はとても優しい。
だけど、好きな人がいるなら。
「野村君、あのさ。ずっと部屋をシェアしてくれて、ありがとう。だけど、好きな人がいるんだったら、私出て行った方が」
「必要ないんだって!本当」
野村君が珍しく大声を出して、びっくりしてしまった。
「ああ、ごめん。だけど、本当いいから」
「……出て行ってほしい時は早めにいってね。突然はびっくりするから」
「そんなこと絶対にないから」
やけに真剣にそう答えられて、ドキドキした。
野村君は身長が高くて、ガタイいい。
中学から別々だったけど、そこから痩せて身長が一気に伸びたんだろうな。
羨ましい。
私はずっと変わらない感じだから。
それから一か月過ぎた。
私は、あの子を街中で見かけた。
彼女は野村君と一緒にいて、心臓が止まるかと思った。
反射的にその場から逃げ出していて、びっくりした。
無我夢中で走って、立ち止まって考える。
あの子、また別れたのかな?
二回も振ったの?彼を。
そして次は野村君?
野村君が好きだったのは彼女だったんだ。
私はまた彼女に奪われるの?
奪われる?
何言ってるんだろう。
奪われるとか。
野村君はただの同居人だ。
ちょうどよく、その日はシフトが入ってなくて、私は家に戻ると荷物をまとめる。
馬鹿みたいに、色々買ったから、鞄一つで家を出られない。
近くのスーパーで段ボールをもらって、荷物をまとめていると扉が開く音がした。
「島田さん?!」
驚いた声がして、彼が扉をノックする。
「ごめん。ちょっと待って。後で話する」
何でか涙が込みあげてきて、すぐに彼と会いたくなかった。
なんで悲しいのかな。
馬鹿みたいに泣くのは嫌だし、荷物をまとめて冷静になろうとした。
「今、話できる?荷物、まとめてる?なんで」
扉越しに彼は質問してくる。
「うん。出ていこうと思って。ほら、彼女がいるでしょ?」
「彼女?!」
余計なことを言ってしまった。
馬鹿だ。
「あ、ごめん。ちょっと彼女と一緒にいるところを見て。好きな人って彼女でしょ?ごめんね。もっと早く出ていけばよかった」
「島田さん、何言ってるの?彼女って、ああ、あの女か。ちょっと話したい。本当に。お願い」
「ごめん。話したくない。後でいい?荷物纏めたいから」
「今、今話ししたい。扉開けてくれないから、このまま話す。うん、このまま話すから。彼女ってさっき、俺が一緒にいた女のことだよね?変な女で島田さんのこと聞かれたんだ。馴れならしくて嫌だなあと思っていたけど、見られていたなんて」
「別に隠さなくていいよ。彼女可愛いよね。野村君もきっと彼女を好きになるよ」
ちょっと涙が出てきた。
嫌だ。
こんなの。
「ごめん。後でいい?本当に」
「嫌だ。絶対に今話したほうがいい。勘違いしてるよね?」
「勘違い?勘違いじゃないでしょ?」
「ああ、もう埒があかない!」
野村君は扉に体当たりすると、べりべりっと扉を壊して、入ってきた。
「の、野村君、大丈夫?」
この人、何してるんだろう。
っていうか怪我してる。
「病院行こう。怪我している!」
「病院行かない。話し聞いてくれたら、病院いく」
「なに、それ。病院行こうよ!」
「だったら、話を聞いて」
「わかった。話を聞くから」
「よし。俺よくやった。島田さんはあの女のこと勘違いしてるみたいだけど、今日会ったのが初めてだ。あと俺の好きな人は島田さん」
「は?」
「俺が好きなのは島田さん。わかった?」
「わからない。全然」
「俺が好きなのは島田さん。俺が好きなのは島田さん。俺が好きなのは」
「もう、いいから。っていうか血が出てる。病院いこ!」
「島田さん、勘違いしてないよね?まだしてる?」
「してないから」
「してるでしょ?俺が好きなのは島田さんだから。本当。わかって」
わかるわけない。
なんで、そんな突然。
私が好かれるわけがない。
あの子はとても可愛くて、仕事もできる。
私が好きなんてありえない。
だけど、とりあえず、それは置いといて、病院に連れていく。
「病院行こう。保険証は?」
「島田さん、島田さん」
ちょっと野村君、やばいかも。
どうにか保険証の場所を聞いて、私は彼を連れて病院へ向かった。
骨は折れてなかったけど、数針縫うことになった。
けど入院の必要はなく、だけど、しばらく仕事にいけなくなった。あと、利き腕がやられたので、しばらく私が彼のご飯を手伝うことに。
「怪我してよかった。こういうの怪我の功名っていうんだっけ」
野村君はのんきだ。
本当に。
彼女のことはもう口に出していない。
だけど、どうなのかな。
翌日、元彼氏から連絡があった。
また別れたらしい。
驚くことはなかったけど、よりを戻したいというメッセージにはきっちり返事をした。
『もう恋愛はこりごりなので、私は一人で生きていきます』
人の気持ちなんて不安定すぎて、それに頼って生きていけない。
やっぱり前田君のいうように私も店長を目指すかな。
「治ちゃった。仕事いかないといけない。三食、島田さんのご飯食べていたかった」
野村君は本当に残念そうだった。
それでも夕食は作るから一緒だけど。
彼が仕事に復帰、私は自分のシフト通りにコンビニへ通う。
ある時、一人で家にいる時、彼女が訪ねてきた。
扉を開けたくなくて、無視していたら、扉越しに野村君の声がした。
「こんにちは」
彼女の甲高い声で甘えた声を扉越しに聞く。
「気持ち悪いな。なんで家の前にいるの?ストーカー?警察呼んでいい?」
「ひっどい!カンナが会いにきたのに。嬉しくないんですか?」
「気持ち悪い。話さないでくれる?それ以上纏わりついたら、警察呼ぶから」
野村君がそう言うと、彼女の声が聞こえなくなって、扉が開かれた。
しっかり閉める音、チェーンまでかけてから、彼が部屋に入ってくる。
「気持ち悪い人がいた。あいつ苦手」
私は酷い人だ。
だけど、その言葉が嬉しかった。
「俺は島田さんが好きだから。本当」
野村君の言葉が切っ掛けで涙が溢れてきた。
「最初、俺、最悪だった。ごめん。俺もなんであんな風に言ったか、わからなくて。島田さんが都会に戻ったって聞いて、俺も都会に住んでみようと思って。偶然会えてとてもうれしかった。一緒に暮らせて、夢かと思った。島田さん、俺と付き合ってください。俺は絶対に裏切らないから」
彼の言葉一つ一つが嬉しくて、涙が止まらなかった。
「前田にも感謝。あいつのこと勘違いしていたけど、一緒に飲んで全部教えてもらって、誤解が解けた。あと島田さんの可愛い話も聞けてよかった」
可愛い?
私が?
「島田さん。あんまり深く考えなくていいから。とりあえず、これからもよろしく。たまに島田さんの料理も食べたい」
私は野村君と付き合うことになった。
あの子の声を聞いたのは、あの日が最後だった。
元彼も、私のメッセージに返信することはなかった。
私はやっぱり仕事できないし、可愛くないと思う。
だけど、野村君にいつも褒めてもらったり、好きって言われるととてもうれしくて、それだけで幸せで泣きたくなる。
願わくば、この幸せがずっと続きますように。
(終)




