第9話 「集う希望」
エメラルド・メトロポリスの解放から一週間後。
9人は王都に戻り、次の派遣先を待っていた。しかし、彼女たちの元に届いたのは予想外の知らせだった。
「皆さんにお会いしたいという方々が、各地から王都に集まってきています」
宮廷魔術師が興奮気味に報告する。
「どんな方々ですか?」
ミナが尋ねると、魔術師は嬉しそうに答えた。
「チアダンスを学びたいという若者たちです。皆さんの活躍を聞いて、自分たちも世界を救う手伝いをしたいと」
その言葉に、9人は顔を見合わせた。
「私たちに、弟子ができるということ?」
カノンが驚く。
「そういうことになりますね」
翌日、王城の大広間には二十人を超える若者たちが集まっていた。
年齢は十代後半から二十代前半。男女半々で、様々な職業の人たちがいる。
「皆さん、ようこそいらっしゃいました」
ミナが代表して挨拶する。
集まった若者たちの目は、希望と決意に輝いていた。
「私は、東の村から来ました」
一人の青年が前に出る。
「皆さんが村を救ってくださった時、その美しい踊りに感動しました」
「僕も、僕も!」
別の少年が手を上げる。
「町が瘴気から解放された時、空に舞う光を見て、自分も誰かを助けたいって思ったんです」
次々と語られる体験談に、チアダンサーたちは胸を熱くした。
「皆さんの気持ち、とても嬉しいです」
アオイが温かく答える。
「それでは、まず皆さんの適性を確認させていただきます」
セレナが古い書物を開く。
「聖魔法には、基本的な資質が必要です」
一人ずつ、簡単な魔法の測定を行った。
「うーん......」
測定を終えたセレナが複雑な表情を見せる。
「どうでしたか?」
エマが尋ねる。
「半数の方に、聖魔法の素養があります」
セレナが報告する。
「ただし、レベルはまちまちです」
結果として、十二人の若者に基礎的な聖魔法の能力があることが判明した。
「では、この十二人の方々に、基礎から指導させていただきます」
ハルが提案する。
その日から、9人は十二人の希望者たちにチアダンスと聖魔法の指導を始めた。
「まず、基本的なストレッチから」
リコが指導を担当する。
「聖魔法を使うには、体の柔軟性と心の安定が重要です」
希望者たちは、真剣な表情で指導に従った。
「次は、基本のステップです」
ユカとサキが見本を示す。
「一つ一つの動きに意味があります。心を込めて踊ってください」
しかし、指導は思った以上に困難だった。
「なかなか、うまくいかないものですね」
カノンが苦笑いする。
希望者たちは熱心だが、チアダンスの経験がないため、基本的な動きでも時間がかかる。
「皆さん、一度に全員を指導するのは限界があります」
ミナが提案する。
「個別に、それぞれの得意分野で指導しましょう」
そこで、9人はそれぞれが得意な分野で希望者たちを指導することにした。
ミナはリーダーシップとコンビネーション全体。
ユカとサキは双子連携の技術。
ハルはベースの基礎。
アオイは戦略的な動きの分析。
エマとリコはタンブリングの技術。
カノンは音楽との合わせ方。
そして、セレナは聖魔法の理論と実践。
「この方法なら、効率的に指導できそうですね」
セレナが満足そうに言う。
個別指導を始めて三日後、希望者たちは驚くべき成長を見せた。
「すごい! もう基本的なコンビネーションができるようになってる」
エマが感心する。
「聖魔法の発動も、何人かは成功しています」
セレナが報告する。
特に優秀な四人の希望者は、既に簡単な聖魔法を使えるようになっていた。
「この調子なら、一ヶ月もすれば実戦に参加できそうですね」
ハルが希望的な観測を示す。
しかし、希望者たちの成長と共に、新たな問題も浮上してきた。
「皆さん、相談があります」
宮廷魔術師が深刻な表情で現れる。
「各地からの救援要請が、急激に増えています」
魔術師が大量の書類を持参していた。
「北の五つの都市、南の七つの町、東の三つの村......」
リストを読み上げる魔術師の声が重くなる。
「全て緊急度の高い案件です」
アオイが計算する。
「全部で十五カ所......私たちだけでは、とても回りきれません」
カノンも頭を抱える。
「一つの都市を救うのに数日かかるとして......」
「そうなると、救援が遅れる場所の人々は......」
ミナが言いかけて、言葉を飲み込んだ。
その夜、9人は緊急会議を開いた。
「現実を受け入れる時が来ました」
セレナが静かに言った。
「私たちだけでは、この世界を救いきれません」
エマが不安そうに言う。
「でも、希望者たちはまだ未熟です」
「いえ、そうではありません」
ミナが立ち上がる。
「私たち一人一人が、複数のチームを率いるんです」
その提案に、全員が息をのんだ。
「つまり......」
ハルが確認する。
「私たちが、それぞれ別々のチームを作るということですか?」
「そうです」
ミナが力強く頷く。
「私たち8人が、それぞれ希望者たちと組んで、8つのチームを作る」
アオイが冷静に分析する。
「確かに、それなら効率は上がります」
しかし、カノンが寂しそうに言った。
「でも......私たち、バラバラになってしまうのね」
その言葉に、部屋に重い沈黙が流れた。
「みんな、聞いて」
ユカが静かに話し始める。
「私たちは、確かにバラバラになる」
「でも」
サキが続ける。
「心は、いつも一緒よ」
リコも頷く。
「私たちの絆は、距離では測れないもの」
エマが涙ぐみながら言った。
「そうね......私たちは、もう家族みたいなものだから」
セレナが古い書物を開く。
「実は、王国には『魔法通信機』という道具があります」
「魔法通信機?」
ミナが興味深そうに尋ねる。
「遠距離でも会話ができる魔道具です。毎晩、みんなで話すことも可能です」
その言葉に、全員の表情が明るくなった。
「それなら......」
ハルが希望を込めて言う。
「離れていても、みんなで支え合えるわね」
翌朝、9人は希望者たちに決断を伝えた。
「皆さん、私たちはこれから8つのチームに分かれます」
ミナの発表に、希望者たちは驚いた。
「それぞれが異なる地域を担当し、より多くの人々を救うためです」
セレナが補足説明する。
「皆さんには、私たちのパートナーとして、一緒に戦ってもらいます」
希望者たちの目に、決意の光が宿った。
「はい! 喜んでお手伝いします!」
一人の少女が大きな声で答える。
「僕たちも、頑張ります!」
別の青年も力強く応じる。
こうして、チアダンサーたちは新たな段階へと進むことを決意した。
一つのチームから、8つの希望へ。
世界を救うという使命は、より大きな輪となって広がっていく――。