第8話 「さらなる挑戦」
クリスタルシティの解放から三日後。
9人は王都に戻る途中、さらに大きな都市『エメラルド・メトロポリス』への派遣命令を受けた。
「エメラルド・メトロポリス?」
ミナが使者の騎士に確認する。
「はい。この国最大の都市です。人口は二十五万人を超えます」
騎士の説明に、9人は顔を見合わせた。
「クリスタルシティの倍以上......」
カノンが呟く。
「でも、瘴気の状況は?」
セレナが専門的な質問をする。
「それが......異常事態なのです」
騎士が困った表情を見せる。
「瘴気が、都市を完全に覆い尽くし、外部からの視察も不可能な状態です」
エメラルド・メトロポリスに到着すると、その光景は想像を絶するものだった。
都市全体が巨大な黒い球体に包まれ、まるで巨大な悪夢のような存在と化している。
「これは......」
アオイが息をのむ。
「今までとは、レベルが違いすぎる」
瘴気の濃度は、これまで経験したものとは比較にならないほど濃密で、近づくだけで体調が悪くなりそうなほどだった。
「皆さん、無理は禁物です」
現地の騎士団長が警告する。
「我々の魔法使いも、瘴気に触れただけで意識を失いました」
ハルが震え声で尋ねる。
「中の人たちは......大丈夫なんでしょうか?」
「正直なところ、分かりません」
騎士団長が重い表情で答える。
「この状態が一週間以上続いています」
その夜、9人は緊急の作戦会議を開いた。
「これまでの方法では、とても対処できません」
セレナが古い書物を調べながら言う。
「記録を見ても、これほどの規模の瘴気は前例がありません」
エマが不安そうに言う。
「もしかして、私たちの力でも無理なのかしら」
「いえ、諦めてはいけません」
ミナが強い意志を見せる。
「中には二十五万人の人たちがいるのよ」
リコが地図を見ながら提案する。
「分割して攻略するのはどうでしょう?」
「それも考えましたが......」
セレナが首を振る。
「瘴気が連動しているようで、一部だけを浄化しても、すぐに他の部分から流れ込んできます」
ユカとサキが顔を見合わせる。
「じゃあ、一気に全体を浄化するしかないのね」
「でも、それには......」
サキが続ける。
「私たちの力を、今まで以上に高める必要がある」
セレナが突然立ち上がった。
「待ってください。一つ、可能性があります」
彼女は書物の奥の方のページを開く。
「古の聖歌隊の最終奥義『共鳴増幅術』です」
「共鳴増幅術?」
ハルが首をかしげる。
「複数の聖魔法使いが、互いの力を増幅し合う技術です」
セレナが興奮気味に説明する。
「通常の何倍もの力を発揮できますが…」
「何か問題が?」
アオイが尋ねる。
「極めて高度な技術で、心の同調が完璧でなければ失敗します」
セレナが真剣な表情で続ける。
「そして、一度失敗すると、全員が魔力を失う危険性があります」
危険を承知で、9人は共鳴増幅術の習得を決意した。
「まず、呼吸を完全に合わせることから始めます」
セレナの指導の下、9人は円座になる。
「全員の心拍を感じ取ってください」
最初は雑然としていた9人の呼吸が、次第に一つのリズムに統一されていく。
「今度は、魔力の流れを意識しましょう」
セレナが次の段階に進む。
「自分の魔力を隣の人に送り、また受け取る、循環させるイメージです」
この練習は非常に困難で、何度も失敗を繰り返した。
「うまくいかない」
カノンが疲れ果てる。
「魔力の流れが乱れてしまう」
「焦らないで」
ミナが優しく声をかける。
「私たちには、チアダンスがある。コンビネーションの経験を活かしましょう」
その言葉で、9人は新たなアプローチを試した。
「ダンスの動きに合わせて、魔力を流してみましょう」
エマの提案で、軽いステップを踏みながら魔力の循環を試す。
「あ…」
リコが驚く。
「今、みんなの魔力を感じた」
「私も!」
ユカが興奮する。
「ダンスのリズムに合わせると、自然に魔力が流れる」
三日間の集中練習で、9人は共鳴増幅術の基礎を習得した。
「あとは、実戦で使えるかどうかです」
セレナが最終確認をする。
「成功すれば、私たちの力は通常の十倍以上になるはずです」
「でも、失敗したら…」
ハルが不安を口にする。
「大丈夫」
ミナが力強く答える。
「私たちは、今まで一緒に困難を乗り越えてきた」
「これからも、みんなで一緒に進んでいきましょう」
アオイも頷く。
「二十五万人の人たちが、私たちを待ってる」
カノンが決意を込めて言う。
「やりましょう。みんなで力を合わせて」
翌朝、9人はエメラルド・メトロポリスの前に立った。
瘴気の球体は、昨日よりもさらに濃くなっているように見える。
「準備はいいですか?」
セレナが最後の確認をする。
「はい」
8人が声を揃える。
9人は手を取り合い、共鳴増幅術の陣形を組んだ。
「私たちの想い、届けましょう」
ミナの声を合図に、9人のダンスが始まる。
共鳴増幅術により、彼女たちの聖魔法は見る見るうちに強さを増していく。
「すごい!」
見守る騎士たちが驚嘆する。
「光が、虹色に輝いている」
9人の放つ光は、これまでとは次元の違う強さで瘴気の球体を包み込んでいく。
6時間に及ぶ戦いの末、エメラルド・メトロポリスの瘴気は完全に消失した。
都市から響く二十五万人の歓声が、大地を震わせる。
「やった! 私たちやったのね」
ミナが涙を流しながら笑う。
9人とも疲れ果てていたが、その達成感は言葉では表現できないほどだった。
「これで、私たちの力が証明されました」
セレナが嬉しそうに言う。
「どんな困難でも、心を合わせれば乗り越えられる」
しかし、この成功が新たな課題を浮き彫りにすることになる。
「でも…」
アオイが複雑な表情を見せる。
「まだ救うべき場所が、たくさんある」
ハルが地図を見ながらつぶやく。
「このペースだと、全ての都市を救うのに何年もかかってしまう」
セレナも同じことを考えていた。
「そうですね。私たちだけでは、限界があるのかもしれません」
9人の前に、新たな課題が立ちはだかっていた。
より効率的に世界を救う方法を見つけなければならない――。