第2話 小さな町の光
王国での混乱から数日後。
チアダンス部員たちは、冒険者ギルドから貸与された馬車に揺られていた。窓の外には、不気味な紫色に染まった空と、黒い霧に覆われた荒野が広がっている。
彼女たちの服装は、見慣れない冒険者用の簡素なもの。腰には、最低限の剣や食料を下げている。宮廷魔術師たちは、彼女たちを「聖魔法の使い手」として期待しつつも、戦闘能力がない彼女たちを、護衛なしで送り出すことはしなかった。
馬車の中は重い空気で満ちていた。
「ねぇ、本当に私たちにできるのかな……」
ハルが不安げにつぶやく。
「瘴気って、本当に生命力を吸い取るんだって……」
エマが震える声で言う。
ミナは、そんな仲間たちを勇気づけるように、力強く頷いた。
「大丈夫だよ。私たちは、ひとつなんだから」
その言葉に、全員の心が少し軽くなった。
馬車が止まると、目の前に一つの町が現れた。
町を覆う黒い霧は、まるで生きているかのように蠢き、不気味な音を立てている。
町の入り口では、数人の騎士が険しい表情で何かを話し合っている。彼らは瘴気に阻まれ、中に入ることができずにいた。
「この瘴気、一向に晴れる気配がないな」
「中にいる住民は、もう諦めているかもしれない……」
その言葉を聞いて、ミナは騎士たちに駆け寄った。
「あの、私たちが、この霧を晴らせます」
ミナの言葉に、騎士たちは呆れたような顔をする。
「なんだ、お前たちは? そんな子供たちに何ができる?」
その時、一人の少女が、町の門から顔を出した。
「お願い、助けて! 中の人たちは、みんな苦しんでいるの!」
彼女は、瘴気に侵されているのか、顔色が悪く、震えていた。
しかし、騎士たちは「君たちでは無理だ」と冷たく言い放つ。
ミナは、少女の絶望的な瞳を見て、決意を固めた。
「私たちはチアダンサーです。私たちのダンスで、この町を救ってみせます!」
ミナの言葉に、ハル、アオイ、ユカ、サキ、エマ、リコ、カノンが、それぞれ自分の役割を果たすべく、立ち位置につく。
音響水晶が奏でる音楽に合わせて、8人のダンスが始まった
ユカとサキの双子が中心となり、軽やかに踊り出す。二人の動きが完璧に重なると、彼女たちを中心に、暖かな光が放たれた。
それは、太陽の光のように温かく、騎士たちの顔を照らす。
光は徐々に強まり、8人の体が輝きを増していく。
「聖魔法」だ。
光は、瘴気を押し返すように広がり、町の入り口を覆っていた黒い霧が、陽に照らされる闇のように消えていった。
町の中に光が差し込むと、中にいた住民たちが、驚きと希望の入り混じった表情で外に出てくる。
「霧が晴れた!」
「あの光は、一体……?」
騎士たちは驚き、言葉を失っていた。
少女は、自分たちを救ってくれたチアダンサーたちを見て、涙を流す。
彼女たちのダンスは、絶望に満ちた世界に、希望という名の光を灯したのだった――。
瘴気が晴れたのを確認した騎士団が、一気に町の中へなだれ込む。
彼らは、瘴気の根源である魔物を討伐しに向かう。
町の人々は、久しぶりに外の空気を吸い、光を浴び、涙を流している。
「ありがとう……」
一人の老人が、ミナたちの手を握り、何度も感謝の言葉を繰り返した。
「あなたたちは、天使のようだ」
そう言って、子供たちは彼女たちの周りに集まり、目を輝かせる。
彼女たちは、自分たちのダンスが、これほどまでに人々を喜ばせる力を持つことを初めて知った。
瘴気の根源を討伐した騎士たちが戻ってきた。
騎士団長は、ミナたちの前で静かに頭を下げた。
「君たちの力は、我々の想像をはるかに超えていた。感謝する」
そして、町の少女が、ミナたちの前に歩み寄った。
「ありがとう。私、リサっていうの。あなたのダンス、すごくきれいだった!」
リサは、ミナに小さな花束を差し出した。
「私、あなたたちのダンスを見て、もう一度頑張ろうって思えたんだ。だから、次は、私もみんなを助けたい!」
彼女の瞳には、希望の光が宿っていた。
ミナたちは、リサの言葉に胸を熱くした。
自分たちのダンスが、誰かの心に光を灯したのだ。
こうして、チアダンサーたちは、この世界で初めての「友達」と出会い、
そして、自分たちがこの世界に召喚された意味を、確信したのだった――。