第13話 「双子の絆、新たな絆」 〜ユカ・サキ〜
東部農業地帯に到着してから一週間が経った。
ユカとサキのチームメンバーは、レイン(17歳・農家の息子)、フローラ(19歳・薬草師見習い)、そしてアルト(18歳・獣医見習い)、ニーナ(16歳・料理人見習い)の4人だった。
農業地帯らしく、メンバーたちは皆、自然と共に生きることに長けている。
しかし、ユカとサキの完璧な双子コンビに、新しいメンバーが溶け込むのは思った以上に困難だった。
「あー、もう一度お願いします」
ユカが少しイライラした様子で言う。
6人でのコンビネーション練習中、タイミングがどうしても合わない。
「ユカ、そんな言い方しなくても......」
サキが姉をなだめる。
小さな農村『グリーンフィールド』での初任務。
双子が中心となってダンスを始めると、息の合った完璧なコンビネーションが展開される。
しかし、他の4人がそこに加わろうとすると、どうしても動きがぎこちなくなってしまう。
「すみません......私たち、足手まといですね」
フローラが申し訳なさそうに言う。
「そんなことないわ」
サキが慌てて否定する。
しかし、ユカは正直だった。
「でも、実際問題として、私たちのペースに合わせてもらわないと......」
その言葉に、レインが少し硬い表情を見せる。
「俺たちも、頑張ってるんですけど」
空気がぎこちなくなった。
練習がうまくいかない中、6人は村の人々と交流する時間を持った。
農業地帯の人々は温かく、チアダンサーたちを家族のように迎えてくれる。
「あなたたち、本当に若いのに立派ねぇ」
村長の奥さんが、手作りの料理を振る舞ってくれる。
「私たちの畑も、もうすぐ瘴気に侵されそうで心配してたのよ」
農夫のおじいさんが不安そうに語る。
「大丈夫です。必ず守ります」
アルトが力強く答える。
その時、ニーナが村の子供たちに囲まれているのを見た。
「お姉ちゃん、踊り教えて!」
「うん、いいよ」
ニーナが優しく子供たちにステップを教えている。
その光景を見て、ユカは何かを感じた。
夕食の時間、6人は村人たちと一緒に食卓を囲んだ。
レインが農作物の話をすると、村人たちの目が輝く。
フローラが薬草の知識を披露すると、村のお年寄りたちが感心する。
アルトが動物の世話について語ると、子供たちが興味深そうに聞き入る。
ニーナの料理の腕前に、みんなが舌鼓を打つ。
そして、ユカとサキの美しいダンスに、全員が見とれる。
「みんな、それぞれ素晴らしい才能を持ってるのね」
サキがつぶやく。
しかし、ユカはまだ完全には納得していなかった。
「でも、チアダンスはチームワークが全てよ。個人の才能だけでは......」
翌日、グリーンフィールドの瘴気浄化に挑戦した。
音響水晶が、いつもの曲を奏で始める。
しかし、6人の息が合わず、聖魔法の光が不安定になってしまう。
瘴気は一部しか浄化されず、作戦は失敗に終わった。
「すみません......」
フローラが頭を下げる。
「いえ、私たちの責任です」
レインも謝る。
ユカは焦った。
「もう一度、今度はちゃんと私たちのタイミングに合わせて......」
「ユカ」
サキが姉を止めた。
「私たち、何か間違ってるんじゃない?」
「音楽も......なんだか、この場所に合ってない気がする」
ニーナが小さく呟いた。
その夜、双子は二人だけで話し合った。
「サキ、私たちのやり方は正しいのよ。実際、今まで成功してきたじゃない」
ユカが主張する。
「でも......」
サキは村で見た光景を思い出していた。
「レインくんが農作物の話をしてる時、村の人たちがどんなに嬉しそうだったか覚えてる?」
「それは......」
「私たちも、みんなの個性を活かすやり方を考えるべきなんじゃない?」
サキの言葉に、ユカは考え込んだ。
「でも、どうやって?」
「分からない。でも、今のままじゃダメってことは分かる」
翌朝、サキが提案した。
「みんな、今日は私たちが皆さんに合わせてみる」
「え?」
4人が驚く。
「これまで、皆さんに私たちのやり方を押し付けてしまって......」
サキが謝る。
「今度は、皆さんの得意なことを教えてください」
ユカは最初反対したが、サキの真剣な表情を見て折れた。
レインが農作業のリズムを教えてくれた。
フローラが薬草を摘む時の繊細な動きを見せてくれた。
アルトが動物と心を通わせる時の優しい身振りを示してくれた。
ニーナが料理をする時の楽しそうな動作を披露してくれた。
「これらの動きを、私たちのダンスに取り入れてみましょう」
サキの提案で、新しいコンビネーションが生まれ始めた。
そして、ユカが音響水晶に触れた。
「この村の人たちが歌っていた、収穫の歌......あれを使ってみない?」
優しく、牧歌的なメロディが響き始める。
それは東部農業地帯に古くから伝わる、豊穣を祝う歌だった。
フルートのような高音と、弦楽器のような柔らかな音色が、まるで風に揺れる麦畑を表現しているかのよう。
数日の練習を経て、6人は新しいスタイルのダンスを完成させた。
双子の完璧な技術をベースに、4人それぞれの個性が自然に溶け込んでいる。
そして、東部の収穫歌が、全ての動きを優しく包み込む。
再びグリーンフィールドでの浄化に挑戦した時、今度は美しい調和が生まれた。
音楽が流れ始めると、村の人々も一緒に歌い始めた。
「あ......みんなが......」
サキが感動する。
村人たちの歌声が、6人のダンスと重なり合い、より大きな力となって響く。
聖魔法の光は安定し、瘴気を完全に浄化することに成功した。
「やりました!」
アルトが歓声を上げる。
村人たちが外に出てきて、6人に感謝の言葉を伝える。
「ありがとう! 私たちの村を救ってくれて!」
「それに、私たちの歌を使ってくれて......嬉しかったよ」
老農夫が涙を流す。
「この歌は、何代も前から歌い継がれてきた大切な歌なんだ」
ユカは、今まで感じたことのない温かい気持ちに包まれていた。
それは、完璧な技術だけでは得られない、心からの繋がりだった。
その夜、魔法通信でミナたちに報告した。
「みんな、グリーンフィールドの浄化に成功したわ」
ユカの声には、以前とは違う温かさがあった。
「おめでとう! 調子良さそうね」
ミナが喜ぶ。
「ええ。私たち、大切なことを学んだの」
サキが続ける。
「完璧なコンビネーションより大切なのは、心の繋がりなのね」
通信を終えた後、ユカはサキに言った。
「サキ、ありがとう。あなたが気づかせてくれなかったら......」
「私たちは双子だもの。お互いの足りない部分を補い合うのが当然よ」
6人は、それぞれ異なる個性を持ちながら、一つの家族のような絆で結ばれていた。
真のチームワークを発見した彼らの前には、まだ4つの町村が待っていた――。