第12話 「真のリーダーシップ」 〜ミナ〜
ブラックマウンテンの成功から一週間後、ミナチームは次の目標である機械都市『ギアシティ』に向かっていた。
前回の経験で自信を得た4人だったが、ギアシティの規模は炭鉱都市とは比較にならなかった。
「すごい......」
マリアが息をのむ。
都市全体が巨大な歯車で構成されているかのような光景。そして、それら全てが瘴気に覆われ、不気味に回転し続けている。
「瘴気が機械と完全に一体化してしまってますね」
トーマスが専門家として分析する。
「これは......前回の方法では太刀打ちできません」
ギアシティに近づくと、巨大な歯車群が発する振動が地面を震わせた。
その振動は、チアダンサーたちのバランスを崩すほど強烈だった。
「踊ることすらできない......」
エルネストが困惑する。
「地面が揺れすぎて、安定したフォーメーションが組めません」
ミナも同じく戸惑った。これまでの経験では対処できない状況だった。
その夜、4人は作戦会議を開いた。
「どうすればいいでしょう......」
マリアが頭を抱える。
「振動を止めることはできないし、振動に合わせて踊るのも難しすぎる」
ミナは皆の顔を見回した。前回のように、みんなで知恵を出し合えばきっと答えが見つかるはず。
「それぞれの専門知識で、何か気づくことはない?」
トーマスが機械工としての知識を語る。
「歯車というのは、一つが狂うと全体が止まってしまう繊細なシステムです」
「つまり?」
ミナが尋ねる。
「どこか一箇所でも正常化できれば、連鎖的に全体が正常化する可能性があります」
エルネストが鍛冶師の経験から付け加える。
「金属は熱すると膨張して、冷やすと収縮します」
「それも使えそうね」
マリアが織物工としての視点で言った。
「私、糸を紡ぐ時、リズムがとても大事だったんです。機械のリズムに合わせるんじゃなくて、私たちのリズムに機械を合わせることはできないでしょうか」
その言葉に、ミナは目を輝かせた。
「それよ! 私たちが機械に合わせるんじゃなくて、機械を私たちに合わせるの!」
4人で新しい作戦を立てた。
まず、トーマスの知識で歯車システムの要となる部分を特定。
エルネストが聖魔法で金属の温度を調整し、歯車の速度を変える。
マリアが全体のリズムをコントロール。
そして、ミナが全体の指揮を執る。
「音楽も、歯車のリズムに合わせて調整しましょう」
ミナが音響水晶に触れると、ギアシティの工場で流れる、精密な機械音のような音楽が思い浮かんだ。
北部の職人たちが、複雑な機械を組み立てる時に口ずさむ、規則正しくも美しいリズムの歌。
「これなら、いけるかもしれない」
ミナが希望を込めて言った。
「でも、タイミングが完璧でないと失敗します」
トーマスが注意を促す。
「大丈夫」
エルネストが力強く言った。
「僕たち、チームですから」
翌日、4人はギアシティの中央部に向かった。
巨大な歯車の振動の中、ミナが指揮を執る。
「トーマス、中央歯車の位置確認!」
「了解! あそこです!」
「エルネスト、温度調整開始!」
「はい!」
エルネストの聖魔法で、中央の巨大歯車がゆっくりと速度を落とし始める。
「マリア、リズム調整!」
「分かりました!」
マリアが新しいリズムを刻み始めると、歯車群全体の回転が彼女のリズムに同調していく。
「今よ! 全員、コンビネーション開始!」
ミナの号令で、4人の完璧に同調したダンスが始まった。
機械の振動に負けない、力強い聖魔法の光が放たれる。
4人の聖魔法は、歯車システム全体を包み込んだ。
瘴気に侵された機械が、一つずつ浄化されていく。
巨大な歯車群が正常な動きを取り戻すと、都市全体に美しい機械音が響いた。
「やりました!」
マリアが歓声を上げる。
都市の人々が工場や家から出てきて、4人に感謝の言葉を伝える。
「ありがとう! 私たちの街が戻った!」
「機械たちも喜んでるよ!」
工場長が涙を流しながら言った。
「君たちのおかげで、ギアシティの心臓が再び鼓動を始めた」
その夜、宿で4人は今日の成功を振り返った。
「みんな、完璧だった」
ミナが嬉しそうに言う。
「ミナさんの指揮が的確だったからです」
トーマスが答える。
「でも、みんながそれぞれの専門知識を活かしてくれたからよ」
ミナが感謝を込めて続ける。
「私、分かったの。リーダーの仕事って、みんなの能力を最大限に発揮できる環境を作ることなのね」
エルネストが頷く。
「僕たちも、ミナさんを信じて、自分の得意なことに集中できました」
マリアも微笑む。
「これが、本当のチームワークですね」
魔法通信の時間、ミナは他のチームに報告した。
「みんな、ギアシティの解放に成功したわ!」
仲間たちから祝福の声が飛ぶ。
「すごいじゃない!」
カノンが喜ぶ。
「さすがミナね」
ユカが褒める。
「残るは鉄鋼都市アイアンハートだけね」
ミナが決意を込めて言う。
「最後の都市、必ず成功させるわ」
セレナの声が聞こえる。
「ミナさん、他のチームの報告も聞きましたが、皆さんが一番順調に進んでいるようですね」
その言葉に、ミナは少し照れながら答えた。
「みんながいてくれるからよ」
4人は最後の都市、アイアンハートを見つめた。
そこには、3つの都市の中で最も強固な瘴気が待っている。
しかし、もう迷いはなかった。
ミナは真のリーダーシップを身に着け、チームは完璧な連携を獲得していた。
翌朝、4人は最後の都市へと向かった。
鉄鋼都市アイアンハートは、その名の通り鉄の心臓のような巨大な工場群で構成されている。
瘴気はここでも機械と融合しているが、その濃度と複雑さは他の2都市を遥かに上回っていた。
「これが最後の挑戦ね」
ミナが決意を込めて言う。
「でも、私たちなら大丈夫」
トーマスが自信を持って答える。
「ええ、私たちはチームですから」
エルネストが微笑む。
「みんなで力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられます」
マリアが力強く宣言する。
4人の絆は、3つの都市を通じて確固たるものとなっていた。
ミナチームの最後の戦いが、今始まろうとしていた――。