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栄光へ至る獣道

作者: 活丼

社会の厳しさ、努力、それを感じられる作品である事を祈ります。

野球というスポーツがある。

投手、捕手、一塁手、二塁手、三塁手、遊撃手、外野手の9人で行う球技だ。

その中で一番憧れるポジションは何処だろう?

やはり投手かもしれない。

1人マウンドでボールを投げる仕事、仲間に囲まれながらも孤独なポジション。

とある球場のブルペンで投げている青年・・・いや、男もそうである。

男の名は・・・・必要ない、長い歴史の中での1人に過ぎないのだから。

男はとある球団に所属している投手である、今年で10年目のベテランだ。


シュッ

ボスッ


心地よい音がする、聞きなれた音だ。


「調子はどうだ?」

「ぼちぼち・・・ですかね」


コーチが話しかけてくると、男は普通に返す。


「・・・まさか、あのガキがチームの顔になるとはな」

「コーチには世話になりましたよ」


球団に入ってから、何度も鍛えてもらった。

男にとっては師匠のような人間だ。


「・・・・俺は、今年でコーチを辞める」

「そうですか・・・」

「何だ? 泣き言でも言うと思ったが」

「子供じゃありませんよ、もうね・・」

「・・・強くなったな、本当に」


男は最初、特徴の無い選手であった。

平凡、それしか浮かばない選手。

6位で指名されたのも不思議な投手。

それが男だった。


1~2年目は試合に出れなかった、2軍のにもだ。

マトモに勝てなかった。


3年目で1軍に入れた。

上がって落ちての繰り返しだった。


4年目には辞めようと思った。

辛くて、情けなくて、ボールを握れなかった。


5年目に、勝てるようになってきた。

少ないけど、自信が持てるようになった。


6~7年目には、1軍で活躍するようになった。

ファンも増えてきた。


8年目にはチームの顔になってきた。

タイトルも取れた。


9年目には負けなくなった、勝ち続けた。

日本最高の投手なんて呼ばれるようになった。


そして、10年目・・・今年の最後の試合、日本一を決める試合。

師である人に、日本一を見せたい。


試合開始のコールが鳴る、自分のチームは先攻なので出番はまだ先だ。


「行ってきます」

「ああ、自分のピッチングを貫け!」


右手を上げて答える、昔からの癖だ。





グランドに行くと、先制点は無かった。

相手の投手は、調子が良いようだ。


「頼んだぞ・・・」

「はい、任せてください」


監督の声には、一切の不安が無かった。

打者の1人が申し訳無さそうにしている、三振してしまったのが悔しいようだ。

今年で2年目の新人だ、責任感の強い青年だからこそ気にしているのだろう。


「気にするな、まだ一回だ」

「先輩・・・」

「次は打てばいい、点はやらんよ」

「はい、先輩も頑張ってください!」


捕手の男が近づいてくる。

自分の同期で、3年目でスタメンに入った天才だ。


「今日はどうだ?」

「悪くないな、良くも無いが」

「なら安心だ、頼むぜ」


グラブを付けながら右手を上げる。


「今日も、広いな」


マウンドは平地よりも高く、余計に孤独感を感じる。

新人の時は恐ろしかったが、今では此処が自分の城だ。

相手の打者は、自信満々の様子で構えている。

頼もしい顔だ、そうでなければ面白くない。


まずは、ストレート


バスッ

初球は見送る。


次に、カーブ


バスッ

ど真ん中に入れる。

打者は気に入らないようだ。

そうだ、打って来い。


そして、最後はストレート


打者はドンピシャのタイミングでバットを振る。

通常ならホームランコースだが、


ガンッ

ボスッ


打球は男のクラブに納まった。

打者は軽く手首を触っている、少し痛むのだろう。


何故、男が指名されたのか。

その理由は、一つの才能であった。

球質が異常に重いのだ。

通常はボールを回転させて投げるのだが、男の場合はその回転が少ない。

まさに鉄の球、長打を狙えば確実に手首にダメージがかかる。

その才を、スカウトに見出されたのだ。


ボスッ 

二人目を三振


ボスッ

三人目はセカンド・フライ


それが9回まで続いた。


相手のチームは0点、此方は1点

後輩と捕手が、掴み取ったチャンス・・・無駄にはしない。

歓声と怒号が球場を揺らす。

アナウンスが何か言っている、だいだい想像できるが。

残りの三人は、恐らく代打で来る。


ブンッブンッ・・・スッ

ワァーーーーー


ホームラン宣言、豪気な事だ。

予想通り、外人選手が出てきた、パワーが自慢だとニュースで聞いた事がある。


一球、低めの内角にカーブ


ガンッ

ファール、惜しい顔だ。


二球、外角にストレート


ガァン!

ギリギリでファール、レフトへの長打でホームランに成りかけた。

流石に鍛えている、痛みは無さそうだ。


三球目・・・投げる!


捉えるが、当たる直前に下に落ちる。

自分の得意球、フォークだ。


ボスッ

ストライク、三振


ワァーーーーーーーーーーーーーーーー!


歓声が轟く、まるで地鳴りだ。


二人目はミート力が自慢の選手・・・余裕なのか、笑っている。

分からなくも無い、球速も変化もさほど高くないのだ。

最高は134、変化はボール1個分。

プロとしては、お世辞にも強いとは言えない。


初球は・・・顔面スレスレにストレート


ボスッ

流石に驚いたのか、仰け反って避ける。

捕手は『悪かったな』と打者に謝る、顔はにやけながら。


二球目、ど真ん中にストレート


真っ赤になって打ちに来る。


ガン!

ボスッ シュッ

ゴロ、捕って一塁に投げる。


ボスッ

アウト、足は速くないのか簡単に終わった。


そして、最後の打者・・・1年目で1軍入りした期待の新人。

自信に満ちた表情、才溢れる姿。



自分とは、全く違う。



歓声は止んでいた、相手チームの応援による野次も・・・球場に音が消えた。



重い、空気が重い。


汗が流れ、呼吸が乱れる。


そんな中、声が聞こえた。


がんばれーーー!

声のする方を見ると、最前列の応援席で男の子が叫んでいた。

見覚えのある少年・・・男のファンで投手になりたいと言っていた少年だった。

小さい手で、必死にイヤホンを叩いている。


何を恐れる? こんなにも頼もしい味方がいるじゃないか


クラブを地面に置き、空気を思い切り吸い込む。

そして、


ガンッ


両の拳を合わせる・・・男の三振宣言のポーズだ。


オオーーー!


観客は驚き、火の出るような応援をする。


ガンバレーー! 

負けるなーー!

勝ってーー!

三振だーー!


心地よい、背中の重圧が増すと共に力が湧いてくる。

新人は汗を掻いている、バットを持っている手が震えていた。


何だ、怖いのか? 格下相手に恐れるのか?・・・だったらお前の負けだ。


一球、フォーク


ボスッ

空振り、このプレッシャーで振るのは流石だ。


二球、ストレート


ガンッ

ファール、当てたのは見事。


それでも、お前は知らない。

負ける事を、絶望を、其処から這い上がる意味も。

お前は知らない。



最強の投手とは何か?


150km/hを超える剛速球の選手か?

針の穴にも通す制球の持ち主か?

変幻自在の変化球を持つ者か?

疲れ知らずのスタミナを誇る人間か?


是、否、その二つが答えだ。


最強など存在しない、その時に一番だった選手がそうだっただけだ。


男はどれでもない、才能が無い凡夫。


それでも努力し、這い上がったのだ。


だんだんと強くなってきた、速球も制球も、変化球や体力も伸びてきた。



三球、捕手が要求したのは内角の高め。

強気だな、と苦笑する。


構え・・・投げる


球種は・・・全力のストレート


ボスッ

三振である。



ワァァァァアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!


大歓声に、審判の声がかき消される。

期待の新人は背中を向け、肩を震わせている。


悔しいなら・・・這い上がれ


自分もそうだった。


チームの皆が走ってくる、潰されるのは勘弁だ。

少年のいる席に向かって、クラブを投げる

少年は顔を輝かせ、大事そうに受け取る。


男は観客に右手を上げる。

観客も右手を上げて応える。


10年目のシーズンが終わった。




ブルペンに行くと、コーチが待っていた。


「ご苦労だったな」

「はい、少し疲れました」

「・・・・じゃあな」


コーチは出て行った。


「・・・・お疲れ様でした」



男はその後8年間現役で活躍し、コーチ職になった。

引退試合では完全試合を達成するなど、後の野球界で神話を創る。


最強は存在しない、だが最高は決められる。

それを決めるのは選手では無い、記録でも無い、観客だ。


男は勝った、だからこそ栄光を掴めたのだ。

才能も、努力も、負けてしまったら意味を成さない。

勝つ者だけが栄光を得る、それがプロの世界だ。



栄光への道を歩めば、必ず気づくだろう。

自分だけの道に、歩んできた道に、誰にも真似できない道に。



一つだけの、栄光へ至る獣道に

いやー、根性では無いですけど書いてみました、野球もの。

作者がやってるスポーツゲームは、パワプロだけです。

最後は漫画のKYOの言葉を借りました。

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