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ホラー・ホラー風味

不確定の蛇口

作者: まい

夏のホラー2025投稿用


 ホラーなのに怖そうで怖くない(特定の業界では)少し怖い蛇口の話となっております。

 とある地方にある山の、深い深い奥の奥。


 そこにはいつ設置されたのかも分からない、ありきたりな蛇口がポツンと立っていた。


 この蛇口は周囲に人が住んでいる形跡が無く放置されているのは簡単に想像できるのに、それでもなぜか綺麗(きれい)なままで、今でも普通に使えると言う。



 ここまでは良い。 不思議は不思議だが、誰かがわざわざやってきて定期的に手入れをしている可能性を考えれば、あり得ない事ではない。


 なので問題はそこではない。


 問題なのは、蛇口をひねった結果だ。


 もの好き達がこの話を確かめに来て、本当に今でも使えるのかとひねった話がネットに転がっている。


 それで出てきたモノの報告がバラバラなのだ。






「と言う訳で、やって来ました! 例の蛇口〜〜!!!」


「いえーい!!」


「わーわー!!」



 動画投稿サイトにあげられたソレを再生してみると、こんなやり取りから始まった。



「今回、我らが“ミステリーブレイカーズ”略してMBは最近ネットで密かに話題になっている、山奥にポツンと立つ蛇口の検証に来て、一発撮りしています」


「本当に綺麗な蛇口だな。 細かい場所は明かせないが、ここまで来るのにかなり時間がかかる。 なのにメンテに来る人を尊敬する」


「それで今回は、ただ蛇口をひねるだけじゃ面白くないから、蛇口から出たモノが飲めるなら全部飲み干すルールで進行するよ☆」


「透明なプラコップ。 人数分、用意」


「さあ、トップバッターはリーダーの俺! さあやってみよう!」


『おおーーー!!』



 4人組の配信者グループとしてありきたりな、セリフを分割して読み上げる展開を済ませて次へ行くようだ。


 なおプラカップはスーパーマーケット等に設置されている無料給水器の横にある、小さな紙コップ位の大きさなので飲み切るのに負担は軽いだろう。



「さあ、何が出るかな? …………なんかオレンジ色してるな?」


「なんだろうな」


「おしk――――」


「――――言わせねえよ!?」


「……はい。 ん〜〜〜、匂いは悪くない。 果物かな? ちょっと口に…………。 うん。 100%のオレンジジュースだこれーーーー!?」


『うおおおーーー!!!』



 蛇口を開けてコップに注がれたものが飲めるものだと判明し、場が沸く。


 オレンジジュースをさっと(あお)り、次を促す。



「私の番だが、またオレンジジュースか? ……違うな、黒い。 …………ふむ、香りからすると……うん。 無糖コーヒーだな」


「え? さっきはオレンジジュースが出たのに、違うのが出るのか?」


「ネットの報告、違う意味。 なるほど」


「まずは一巡してから、かな〜?」



 蛇口から出るものの報告が人によって違う意味がなんとなく分かってくる空気。


 みんなの頭に予想があるが、断言するにはまだ試行回数と確信が無い。


 なので、ひとまずメンバー全員で順番に試してみるしかないって結論に(うなず)く。



「次はボクのばーん☆ キュッとね? ……最初のオレンジジュースより黄色いね?」


「泡立っていて、まるで炭酸だな」


「今度こそおしk――――」


「――――言わせねえよ!?」


「香りが甘いね?」


「なら糖ny――――」


「――――絶対言わせねえよ!?」


「んぐ。 ……おーーー!! これ、オ□ナミンとかデカBタとかの炭酸栄養ドリンクだーー☆」


「すげぇ……よく飲めたな」


「尊敬」


「うむ」



 かなり飲みにくいトークをしていた横で飲み干した事で評価されるメンバーだが、評価された当人はちょっと微妙な笑顔。



「最後。 ……黒い。 酸っぱい(にお)い、(くさ)い」


「なんだコレ!?」


「飲めるのか?」


「舐めてみる」


「わー、これは撮れ高になるね☆」


「…………黒酢、にんにく漬けの黒酢」


「これ、どうする?」


「普通は飲まん」


「じゃあ、コレはパスかな?」



 と言うことで黒酢を捨て……るのは勿体ないのでラップで(くる)み、サンプルとして後で検査を依頼するとテロップに出る。



「再チャレンジ。 ……赤いドロドロ。 ケチャップ」


「2連続でオイシイのキターーー!!」


「むぅ……」


「凄いね凄いね、持ってるね☆」



 小さいコップとは言え、ケチャップを全て飲み干せと言うのは大変に(こく)なので再びパスの許可がでる。



「3度目……またドロドロ。 ぷるぷる?」


「なんで変なのばかり当てるんだ!?」


「凄いな……」


「カッコイイーーー☆」


「舐めてみる。 ……ん。 リンゴゼリー。 しかも美味しい」


「こんなのも出るんだな」


「確定か?」


「たぶんね?」


「この蛇口は、開け締めする(たび)に出てくるものが変わる、不確定の蛇口だね。 理屈は分からないけど」



 毎回違うものが出てくる事象は、そうじゃないと筋が通らない。


 更に言うと蛇口は1つなのに、出てくる注ぎ口すら一緒なのに、どうにも出てきた液体(ケチャップやゼリーは液体か?)と味が交じっておらず、そこは完全に普通の理屈の域を越えている。


 どうしてこんな事になっているのかは不思議だ。


 不思議だが、それを解明するのは他人に任せる。


 だってこのグループはそっちの専門家ではないので。


 そこからグループが話し合う様子が挟まり、リーダーが宣言する。



「じゃあ2巡目行ってみようかー!」


『おおーーー!!』


「本当は3巡4巡ともっとしたいけど、片付けて帰る時間を考えるとこの2巡目で最後です!」



 なんて言い放ち、それほど長い動画でもないのに(しめ)も言ってしまう事から、グループの拠点からかなり離れた遠い場所なのだろうと推測できる。



「茶色い……麦みたいな香り…………麦茶だコレーー!!」



「私のは……また黒いな。 ……今回は薬臭い。 …………ぐふっ! ルートビアだ、これを飲み干さねばならんのか? そうか……ごふっ!!」



「ボクだねー☆ …………ボクのも黒いね? コーヒーの香りがするけど、炭酸の泡がパチパチいってるね? ……あ、これ炭酸コーヒー? 飲まなきゃだめ? ボクは炭酸コーヒーが口に合わなくて苦手なんだけど? ……とほほ☆」



 なんてワチャワチャしたが、最後にまた今回異常に“持っている”のの番となる。



「よーし、行ってやれーー!」(?)


「何が出るだろうな?」


「良いの頼むよー☆」



 なんてプレッシャーをかけられながら、蛇口からプラコップに注がれていくものは…………。



「無色?」


「そう」


「香りはどうだ?」


「しない」


「シュワシュワしてたりするー?」


「しない」



 なんとも言えない微妙な空気が流れる。


 なんならここで消毒液みたいな飲めない液体とか出して、ひと騒ぎあったら盛り上がったんじゃないか。 なんて期待していたのかも知れない。


 だが、なんか簡単に飲めそうな液体が出てしまったのだ。


 それで4番目のが敏感に空気を読み、さっさとこの空気を変えねばと透明な液体が注がれたプラコップに慌てて口をつける。



「…………どうだ?」


「フレーバーウォーターとかだったりしないか?」


「飲めるやつ? ヤバそうならペッしてね☆」



 口を付けたメンバーが固まってしまい、様子を見守っていたメンバー達がそれぞれで心配して声をかけた。


 そのまま空気まで固まり、もしかしてコレヤバい? みたいな流れになった頃。


 固まっていた4番目が再起動に成功し、コップの残りを全て呷ってから中身を答える。



「水」


「は?」


「みず」


「ん?」


「飲み水」


「おー?」


「Water」



『……………………』



 非常に()(たま)れない空気。


 最後があまりにもパッとしないオチとなり、究極にズッコケた感じが情けなさを誘う。


 そしてこんな空気を、バラエティー動画を作る者たちは非常に恐れる。


 結果。



「イヤーーーーーーーーー!!!」


「もう終わり! ハイ終了!」


「もう1巡するー?」


「無理」


「だよねー?」


(こわ)っ! この蛇口怖っ!!」


「蛇口がこんなオチ用意してるなんてあり得ねえ!!」


「はい撤収ー☆」


「逃げよう」



 バラエティー殺しの蛇口。


 この動画が投稿されて以降、この不確定の蛇口をバラエティー目的で収録しにくる者はかなり減ったと言う。

 にんにくの漬け汁に使った黒酢もケチャップも、専門機関に検査をしてもらった結果、全くその通りの物で“作りたて新鮮そのもの”で人間が口にしても何も問題ない現行メーカー品だと結果が出たそうな。




 クッソ弱いオチは、一部の業界で非常に恐れられております。


 水がテーマでホラー。 水が怖い?


 で、ひねり出したのがコレ。


 ……うーん、自分の頭はどうなってんだ?



追記:感想で無色透明な液体が出てきて怖いとの感想を頂きましたが、何故だろうと頭を捻りましたらピンと。

   無色透明で無臭だからって安全な飲み物ではない、ヤベーブツも有るんじゃ?と。 (検索) ……うん。無色透明無臭だからって安易に口にしちゃヤベーっすね。

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― 新着の感想 ―
こっっっわい!!!(号泣) 「ハンドルを回すたびに全く違う飲み物が出てくる不思議な蛇口」という設定がとてもおもしろいです。でも怖い!!!無色の液体が出てきた時が一番怖かった...バラエティ的にしらけた…
なる…ほど…? バラエティーのオチ殺しな怖さ、と…。 まあ、確かに怖い。企画が頓挫するって意味では。 まあ、より穿って追及するならば。 明らかに異常存在である蛇口が、「配信者達の思考・意図を読み…
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