2、採掘
「えっ!」
光が弱まってくると、中世の街が自分の周りを取り囲んでおり、言葉が出なかった。なぜなら自分は中世の街のリアリティーの凄さよりも、ゲームの世界が現実の世界と何も変わらないことの驚きの方が勝っていたからだ。自分はぐるぐるとその場で周りを見渡した。見渡してると、後ろに噴水があったので、もしかしてと思い噴水の方に近づくと水に自分の姿が写っていた。そして自分は右手で水を触ってみた。
「冷たっ」
思ってた通り水を触ってみると、ちゃんと手に感覚があった。まぁ、予想よりも冷たくて、結構リアクションが大きかったからか、そのせいで周りから一瞬「なんだコイツ」みたいな目で見られた気がする。
「にしてもすごいな。ほんとに現実みたい」
自分は噴水に座って、体を触ったり、手を触ってみたり、石を触ってみたりした。そのすべてがほんとに触ってるみたいだった。最近の技術ってほんとにすごいな。そう思いながら自分はその場に立ち、さっきネットの攻略サイトで調べたことを実践するために、採掘場という場所に行くことにした。といっても採掘場がどこにあるのかわからないから、街の地図を探すことにした。多分リスポーンした人がわかるようにこの場所の近くにあるよね。普通。
「よし!行くか」
自分は意を決し、噴水の周りを歩き始めた。最初にあったのは情報が書かれた大きな掲示版。小物などが売られている露店の市場、通りを歩いていくと白くゴツゴツとした大きい教会。建物と建物の間を流れる綺麗な川にかかった小さな橋、絶対夜の街だと思わせる建物のある通り、店の外の丸机でランチを食べている人達、って全く地図がないじゃん。結構グルグル回ったよ。めちゃくちゃ気になる場所がたくさんあったよ。...仕方ないしもう誰かに聞くしかないか。
「すみません」
自分は近くにいた男の人に話しかけた。男の人は鉄でできてると思う鎧を全身身にまとっていた。男の人はこっちに気づいたらしく振り向いてくれた。顔は結構強面な感じで、いかにも歴戦の兵士みたいな風貌をしていた。
「ん、どうした」
「あの、採掘場がどこにあるか聞きたいんですけど」
「採掘場か?採掘場ならここから真っ直ぐ南に行って、街を抜けたら南東の方向に山が見えるからそこまで行ったらあるぞ」
「あ、ほんとですか。ありがとうございます」
「1人で行けるか?無理そうなら一緒に行ってあげるぞ」
「じゃあ、お願いします」
自分は頭を下げた。男の人はうなづいて、さっき指さした南の方向に歩き始めた。自分がその場でぼーっとしていると、男の人は振り向いて手をクイクイと動かして、「はやく来い」と言ってきた。自分も急いで男の人の方へ歩いていった。男の人の言った通り、南の方向へ大きな道を歩いていくと、緑が見えてきて街を抜けることができた。予想外だったのは街が思った以上に大きなことだった。自分たちがさっきまでいた場所から街を抜けるだけで、40分ぐらいかかった気がする。街を抜けるとすぐに森が見えてきた。森に入ってすぐにモンスターが出てくるというわけでなく、道がちゃんと整備されていた。更に大変だったのが、森に入ってから、採掘場につくまで1時間位かかったことだ。もう当分は歩かなくていいぐらい歩いた気がする。まぁ、時間が結構かかって、足もパンパンになったけどなんとか採掘場につくことができた。採掘場の入口は山の凹んだ場所にあって、The採掘場みたいな見た目をしていた。
「着いたぞ。お前、道具は持ってるのか?」
「道具ですか?持ってないです」
「なら俺の道具貸してやる」
「え、大丈夫ですよ。わざわざ」
「いいから。そんなに高いものじゃないから」
「じゃあ」
男の人は腰の横についてる巾着袋のような形の物に手を突っ込んで、中から大きなツルハシを片手で取り出した。自分は男の人からツルハシを受け取ると結構重くて、ずっしりとしていた。男の人は片手で持っていたけど、多分自分が真似すると、そんなに軽々しく持つことはできないと思う。この人は見た目通り結構力あるんだなと思った。そう考えたら、男の人が着ている鉄の鎧もそうとう重いんじゃないかなと思う。自分は絶対無理だな。
「採掘場は、そのピッケル持って中で鉱石を掘ったらいいから。そんで掘れた鉱石を持って街に行ったら、売れてお金になるから。俺的には鍛冶屋で売ったほうがいいぞ」
「ほんとに色々とありがとうございます」
「いいって、...あ、そうそう。この袋もやるよ」
「え、この袋って」
「そん中に掘れた鉱石を入れることできるから大切に使えよ。じゃあ」
男の人はそう言って、手を上げて来た道を歩いて帰っていった。自分は心の中で、男の人に感謝しながら、採掘場の中に入っていった。と言っても中は洞窟みたいなもんで、明かりは天井から垂れ下がってるランタンぐらいで結構暗く感じた。洞窟を進んで行くと、何かが違う感じがした。今まではただの岩みたいだったのが、岩の壁をよく見ると、色の着いたものが混じってくるようになった。自分は多分鉱石だと思われる岩に向かって、持っていたツルハシを頭の上まで持ってきて、両手で思いっきり振り下ろした。岩は少し削れて、ヒビが入ったので、この工程を何回か繰り返した。すると、ヒビが繋がってそこそこの大きさの岩が削り取れた。自分はまたその中から、色がついている部分が取れるように、周りをツルハシで削っていった。削っていくと色のついた岩の部分だけを取り出すことができた。自分は、その岩と削っている途中に落ちた、小さめの色付きの岩を袋の中に入れた。この袋の凄いところは、岩を入れても重さを感じないことだった。それに岩を袋に入れてもパンパンになる様子がなかった。自分はこれが鉱石だと信じ、周りにある鉱石をさっきの容量で掘っていった。...
「んっ、けっっこう掘ったな」
そこから、どれだけたっただろうか。最初はパンパンになる様子さえ見せなかった袋が今はとてつもなくパンパンに膨らんでいる。それでも袋の重さは増えた感じがしなくて持ち運びがとても楽だった。自分はそろそろ良い時間なので、外に出ようと来た道を帰ろうとした。出口に向かって歩いていると、後ろからなにかに見られているような気配を感じたので、後ろを振り返ると、何もいなかった。
「気のせいか」
自分は後ろに何もいないことを確認するとまた出口に向かって歩き出した。出口の隙間から月の明かりが入ってきてる。その光は自分が歩いている出口までの道を照らしていた。その光が一瞬雲に隠れて、洞窟の中に光が1つも入ってこなく真っ暗になった。その瞬間、前に歩いていると急に足が暖かくなり、足に力が入らなくなって、前に崩れるように転んでしまった。
「え、なんで」
足を動かそうとしても全く足が動かない。立とうにも立てず、足がどうなっているのか全く分からなかった。足を触ってみると生暖かい何かが手にベッタリとついた。雲で隠れていた月の光が洞窟に差し込みはじめた。手についていたのは自分の血だった。